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第十六話 女の団結
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どういうことだ? とトーマスの脳が真っ白になる。
この召喚状の目的が、この領地の問題だったりローデリアとの離婚との話だったとしても、王宮から召喚状が届くなんてありえないことだ。
まず、領地での問題は領地内で治める不文律がある。それでも解決できない場合や、領地がまたがっている問題の場合は王宮にある裁判所に問題を提出し、そしてそれを解決する。
今、ヴェノヴァで起きている問題は、対外的には自分とローデリアの問題というだけであり、しょせんは大きくとらえた夫婦喧嘩と言ってもいい。
だから、なぜ王から呼び出されるのだ? と、それが理解できないのだ。
召喚状というのはこの国の王との直接面談で状況を整理し、素早く問題を解決する司法を飛び越えたものだ。全ての問題を王の手に委ねるということは、王の裁量に任されるということでもあり、王の見識を外に見せることにもつながるため滅多なことでは行われない。
危急を持って解決を求められる問題が起き上がっているということなのだ。
なんか、最近、身近にあったことで、そんな急ぐような内容はあっただろうか?
「王に喚び出されている……」
そういうと、ローデリアは「まぁ、どんな服を着ていけばいいのかしら」と、まるで憧れの音楽家にでも会う時の乙女のような顔をしている。
あながち間違いでもない。
伯爵程度の爵位で、しかも国に対して飛びぬけた功績があるわけでもない貴族では、陛下にお目にかかる事などないのだ。
もし園遊会などで同席のチャンスがあったとしても、周囲は護衛や高位貴族でがっちりと固められて近づけず、遠巻きに眺めるのが関の山だ。
「でも、園遊会などではないのですわよね? 召喚状って……なんでかしら?」
「お前も心当たりがないのか?」
「はい」
片方は青ざめた様子で、片方は朗らかに。二人の顔は対照的な表情だが、分からないという感情は一致していて。
「とりあえず、ご飯を食べましょうか」
ローデリアの提案に従い、二人でもくもくと夕食を食べることになった。
実際のところ、これは以前にローデリアがエマ侯爵夫人のお茶会で話した内容が誤解を生み、それがきっかけで動いた話なだけなので、事実、ローデリア自身は何もしていないし、何をしたつもりもない。
女同士のネットワークを甘く見てはいけない。
侯爵夫人のお友達の中には、王室に繋がりがある方が何人もいたのだ。
現王妃殿下のお気に入りの侍女の姉がいたり、王弟殿下に名づけ親になってもらった侯爵夫人がいたり、王子の婚約者の母がいたり……。
ローデリアは知らなかったが、エマ侯爵夫人のサロンはいわゆる社交界の情報の中心地でもあった。
あの日は特に、噂のローデリアに会いたいということでお茶会の招待状は人気があり、上流貴族を中心に配られたのだ。つまり、王家に近い方から。
それらの奥様方が、可哀想なヴェノヴァ伯爵夫人の話を自分に繋がりのある権力者たちに話をしたところ、王に対して様々なルートでもって憶測が十二分に混じった同じ話が集まることになる。
ヴェノヴァ伯爵夫人は結婚当時から夫であるヴェノヴァ伯爵に虐待を受けている。離婚をぶら下げられた奥様は夫に脅迫されてこき使われ、社交界に顔を出すこともできなかったのだろう。
しかも、夫に本当のことは何も話すな、と固く口止めをされているようで。
早く助けなければ、あの方は今も苦しんでいるだろう。なんてお可哀想……。
こき使われてお可哀想だったなら、あの日、エマ侯爵夫人のお茶会に顔を出すこともできなかったのでは、という冷静な判断ができる人はあいにくいなかったようだが、それならそれで伯爵の隙を見て抜け出して、助けを求めに来たのだというストーリーが頭の中で出来上がっていたことだろう。
これは放置しておくわけにいかないようだと判断した王宮が動くまで、最短の時間だった。
―――そして。
呼び出された日には、王宮の門の前で好奇心をもって周囲を見回すローデリアと、既に死んだような顔をしているトーマスがいた。
王宮に勤める侍従ではなく官吏に案内されて、通されたのが謁見の間というところでも肝が縮みあがりそうになる。
王宮の中で謁見の間は外国の賓客を迎え入れたりするような、王宮内でもっとも格式の高い部屋である。
そこに呼び出されるということ、大きな問題を抱えているという事態の重要性をも表していた。
あえてそこで行われる召喚は、それで罪人を威圧する意味もあるのだが、それは後ろ暗い心当たりのあるトーマスには思いきり作用していた。
しかも呼ばれた内容に心当たりがあるようで、ないようで。それがトーマスの不安すらも増長していた。
この召喚状の目的が、この領地の問題だったりローデリアとの離婚との話だったとしても、王宮から召喚状が届くなんてありえないことだ。
まず、領地での問題は領地内で治める不文律がある。それでも解決できない場合や、領地がまたがっている問題の場合は王宮にある裁判所に問題を提出し、そしてそれを解決する。
今、ヴェノヴァで起きている問題は、対外的には自分とローデリアの問題というだけであり、しょせんは大きくとらえた夫婦喧嘩と言ってもいい。
だから、なぜ王から呼び出されるのだ? と、それが理解できないのだ。
召喚状というのはこの国の王との直接面談で状況を整理し、素早く問題を解決する司法を飛び越えたものだ。全ての問題を王の手に委ねるということは、王の裁量に任されるということでもあり、王の見識を外に見せることにもつながるため滅多なことでは行われない。
危急を持って解決を求められる問題が起き上がっているということなのだ。
なんか、最近、身近にあったことで、そんな急ぐような内容はあっただろうか?
「王に喚び出されている……」
そういうと、ローデリアは「まぁ、どんな服を着ていけばいいのかしら」と、まるで憧れの音楽家にでも会う時の乙女のような顔をしている。
あながち間違いでもない。
伯爵程度の爵位で、しかも国に対して飛びぬけた功績があるわけでもない貴族では、陛下にお目にかかる事などないのだ。
もし園遊会などで同席のチャンスがあったとしても、周囲は護衛や高位貴族でがっちりと固められて近づけず、遠巻きに眺めるのが関の山だ。
「でも、園遊会などではないのですわよね? 召喚状って……なんでかしら?」
「お前も心当たりがないのか?」
「はい」
片方は青ざめた様子で、片方は朗らかに。二人の顔は対照的な表情だが、分からないという感情は一致していて。
「とりあえず、ご飯を食べましょうか」
ローデリアの提案に従い、二人でもくもくと夕食を食べることになった。
実際のところ、これは以前にローデリアがエマ侯爵夫人のお茶会で話した内容が誤解を生み、それがきっかけで動いた話なだけなので、事実、ローデリア自身は何もしていないし、何をしたつもりもない。
女同士のネットワークを甘く見てはいけない。
侯爵夫人のお友達の中には、王室に繋がりがある方が何人もいたのだ。
現王妃殿下のお気に入りの侍女の姉がいたり、王弟殿下に名づけ親になってもらった侯爵夫人がいたり、王子の婚約者の母がいたり……。
ローデリアは知らなかったが、エマ侯爵夫人のサロンはいわゆる社交界の情報の中心地でもあった。
あの日は特に、噂のローデリアに会いたいということでお茶会の招待状は人気があり、上流貴族を中心に配られたのだ。つまり、王家に近い方から。
それらの奥様方が、可哀想なヴェノヴァ伯爵夫人の話を自分に繋がりのある権力者たちに話をしたところ、王に対して様々なルートでもって憶測が十二分に混じった同じ話が集まることになる。
ヴェノヴァ伯爵夫人は結婚当時から夫であるヴェノヴァ伯爵に虐待を受けている。離婚をぶら下げられた奥様は夫に脅迫されてこき使われ、社交界に顔を出すこともできなかったのだろう。
しかも、夫に本当のことは何も話すな、と固く口止めをされているようで。
早く助けなければ、あの方は今も苦しんでいるだろう。なんてお可哀想……。
こき使われてお可哀想だったなら、あの日、エマ侯爵夫人のお茶会に顔を出すこともできなかったのでは、という冷静な判断ができる人はあいにくいなかったようだが、それならそれで伯爵の隙を見て抜け出して、助けを求めに来たのだというストーリーが頭の中で出来上がっていたことだろう。
これは放置しておくわけにいかないようだと判断した王宮が動くまで、最短の時間だった。
―――そして。
呼び出された日には、王宮の門の前で好奇心をもって周囲を見回すローデリアと、既に死んだような顔をしているトーマスがいた。
王宮に勤める侍従ではなく官吏に案内されて、通されたのが謁見の間というところでも肝が縮みあがりそうになる。
王宮の中で謁見の間は外国の賓客を迎え入れたりするような、王宮内でもっとも格式の高い部屋である。
そこに呼び出されるということ、大きな問題を抱えているという事態の重要性をも表していた。
あえてそこで行われる召喚は、それで罪人を威圧する意味もあるのだが、それは後ろ暗い心当たりのあるトーマスには思いきり作用していた。
しかも呼ばれた内容に心当たりがあるようで、ないようで。それがトーマスの不安すらも増長していた。
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