18 / 20
第十七話 辻褄合わせ
しおりを挟む
大きく扉が開かれた。
中に国王陛下が入ってきて室内の全員が頭を下げる。悠々と中を歩いて、まっすぐに奥に据えられた豪奢な椅子に座る男が国王だろう。こんなに近くでお目にかかるのは初めてだが、なるほど、一般に出回っている絵姿に似ている。
頭を上げるように促され、官吏が持っていた紙の内容を読み上げた。
「火急の召喚に対して協力いただいたことに感謝する。陛下の方にヴェノヴァ伯爵領に関わる奏上がいくつもあった。尋ねたいことがいくつかあるので、嘘偽りなく真実のみを率直に申し上げるように。陛下に対しても直言を許される。まず、ヴェノヴァ伯爵に対しての質問をする」
「……な、なんなりと」
陛下の御前に一歩出て、官吏からの質問に身構えた。
「まず1つめ。ヴェノヴァ伯爵はローデリア嬢と白い結婚であったとは本当であろうか」
なぜこんなことを聞かれているのだろうか。トーマスの頭が打算に動き、その目的を把握しようとする。
それはおそらく、自分がローデリアとの離婚を目的にして行動していたのではないか、という疑惑が問題になっているのだろう。
となれば、それを否定するために自分はどう動けば、その疑惑を晴らすことができるだろうか。
トーマスの頭にこの事態の逆転の可能性が閃いた。これはもしかしたらチャンスではないだろうか、と。
これが裁判だったとしたら、証拠を積み上げられて自分の様々な過去を元に、決定的に不利な結論を言い渡されるかもしれない。
しかしここにはローデリアを味方する使用人たちもいない。自分よりローデリアを推す会社の社員も、事業の相手もいない。
陛下の心証1つでいくらでも自分に有利なように状況を作れるのだ。
白い結婚……それは結婚をしていても夫婦生活がなかったということを意味する。ちゃんと初夜は一緒のベッドで寝たしすることはしていたのだが、説得力のある事実を積み上げるために、あえてヴェノヴァ伯爵はその質問を肯定した。
「まだ年若く、体が未成熟なローデリアに私の相手を務めさせるのは苦痛かと思い、手を出すのは控えておりました。これは私なりの妻への愛です」
「となると、白い結婚であったのだな?」
その言葉に答えようとするより先に。
「あら、私たちって白い結婚でしたの?」
呑気なローデリアの声がする。余計な私語をしてはいけない緊迫した室内に、彼女のマイペースな声が響き渡った。
静粛に、と小声で注意され困ったように、ごめんなさい、と唇の動きだけで謝るローデリア。
ローデリアの方も、首を傾げて考えていた。
自分たちは婚約式をし、結婚式をし、初夜もつつがなく済ませていたと思っていたが。
となると、他の家では何を結婚と呼んでいるのだろう。
恥ずかしい話、他と比べたわけでもないのだからわからない。
後ろで静かにしているローデリアの様子を空気だけでうかがいながらも、トーマスは言おうとしていた言葉を続ける。
「そうです。しかし、それは私が離婚を目的としているわけではなく、彼女の躰をおもんぱかる上に結果的に起こったことでございます。離婚の噂が流れてしまったのも、私の希望とはまるっきり違い、二年経っても子供ができないことを心配した我が父テロドア侯爵の勇み足からでございました」
それから自分がいない間にした父と妻の話を後から聞いて驚いたという話をする。
それまで黙ってきいていた陛下が口を開く。
「なるほど。そういえば、ヴェノヴァ伯爵領は、伯爵ではなく夫人が領地を運営しているという話を聞いたのだが、それについても詳しく話を聞きたい」
トーマスはそれを聞き、自信たっぷりに妻を振り返り、見つめる。
「彼女には領地の運営の才能がありましたので、私の方が補助に回りました。私は妻を誇りに思っております」
「ほう、となると、当主の代理権を与えたと」
「その方が妻が腕を振るえますから。妻が私を愛してくれているのを信じるからこそできることです。それに私が妻を愛し、信じていた証ともいえるでしょう」
「ふむ……」
陛下が顎を撫でて考え込む仕草をする。
「もし、私がローデリアに過度な期待をかけ、それをローデリアが悩んでいたというのなら、そしてそれを私が気づかずにいたのなら、それは私に監督不行き届きゆえです。そのためこの結婚は無効にされても構いません。私はあくまでも貴族として、そして彼女の夫として行動していましたが……」
トーマスは悲し気に頭を振った。
「訴求離婚のため結婚自体が白紙になったとしたら、その間に当家からローデリアのものとなった財産の返還を要求するしかありません。私としては彼女と離れるのはとても残念でならないのですが……彼女のためですからしかたありません」
これなら、最低限の自分が保持していた財産は確保できる。そして、ローデリアが自分の財産を使って増えた分は、このような醜聞を起こし、王宮までをも巻き込んで騒がせたとして、ローデリアに改めて慰謝料を請求することにしよう。
中に国王陛下が入ってきて室内の全員が頭を下げる。悠々と中を歩いて、まっすぐに奥に据えられた豪奢な椅子に座る男が国王だろう。こんなに近くでお目にかかるのは初めてだが、なるほど、一般に出回っている絵姿に似ている。
頭を上げるように促され、官吏が持っていた紙の内容を読み上げた。
「火急の召喚に対して協力いただいたことに感謝する。陛下の方にヴェノヴァ伯爵領に関わる奏上がいくつもあった。尋ねたいことがいくつかあるので、嘘偽りなく真実のみを率直に申し上げるように。陛下に対しても直言を許される。まず、ヴェノヴァ伯爵に対しての質問をする」
「……な、なんなりと」
陛下の御前に一歩出て、官吏からの質問に身構えた。
「まず1つめ。ヴェノヴァ伯爵はローデリア嬢と白い結婚であったとは本当であろうか」
なぜこんなことを聞かれているのだろうか。トーマスの頭が打算に動き、その目的を把握しようとする。
それはおそらく、自分がローデリアとの離婚を目的にして行動していたのではないか、という疑惑が問題になっているのだろう。
となれば、それを否定するために自分はどう動けば、その疑惑を晴らすことができるだろうか。
トーマスの頭にこの事態の逆転の可能性が閃いた。これはもしかしたらチャンスではないだろうか、と。
これが裁判だったとしたら、証拠を積み上げられて自分の様々な過去を元に、決定的に不利な結論を言い渡されるかもしれない。
しかしここにはローデリアを味方する使用人たちもいない。自分よりローデリアを推す会社の社員も、事業の相手もいない。
陛下の心証1つでいくらでも自分に有利なように状況を作れるのだ。
白い結婚……それは結婚をしていても夫婦生活がなかったということを意味する。ちゃんと初夜は一緒のベッドで寝たしすることはしていたのだが、説得力のある事実を積み上げるために、あえてヴェノヴァ伯爵はその質問を肯定した。
「まだ年若く、体が未成熟なローデリアに私の相手を務めさせるのは苦痛かと思い、手を出すのは控えておりました。これは私なりの妻への愛です」
「となると、白い結婚であったのだな?」
その言葉に答えようとするより先に。
「あら、私たちって白い結婚でしたの?」
呑気なローデリアの声がする。余計な私語をしてはいけない緊迫した室内に、彼女のマイペースな声が響き渡った。
静粛に、と小声で注意され困ったように、ごめんなさい、と唇の動きだけで謝るローデリア。
ローデリアの方も、首を傾げて考えていた。
自分たちは婚約式をし、結婚式をし、初夜もつつがなく済ませていたと思っていたが。
となると、他の家では何を結婚と呼んでいるのだろう。
恥ずかしい話、他と比べたわけでもないのだからわからない。
後ろで静かにしているローデリアの様子を空気だけでうかがいながらも、トーマスは言おうとしていた言葉を続ける。
「そうです。しかし、それは私が離婚を目的としているわけではなく、彼女の躰をおもんぱかる上に結果的に起こったことでございます。離婚の噂が流れてしまったのも、私の希望とはまるっきり違い、二年経っても子供ができないことを心配した我が父テロドア侯爵の勇み足からでございました」
それから自分がいない間にした父と妻の話を後から聞いて驚いたという話をする。
それまで黙ってきいていた陛下が口を開く。
「なるほど。そういえば、ヴェノヴァ伯爵領は、伯爵ではなく夫人が領地を運営しているという話を聞いたのだが、それについても詳しく話を聞きたい」
トーマスはそれを聞き、自信たっぷりに妻を振り返り、見つめる。
「彼女には領地の運営の才能がありましたので、私の方が補助に回りました。私は妻を誇りに思っております」
「ほう、となると、当主の代理権を与えたと」
「その方が妻が腕を振るえますから。妻が私を愛してくれているのを信じるからこそできることです。それに私が妻を愛し、信じていた証ともいえるでしょう」
「ふむ……」
陛下が顎を撫でて考え込む仕草をする。
「もし、私がローデリアに過度な期待をかけ、それをローデリアが悩んでいたというのなら、そしてそれを私が気づかずにいたのなら、それは私に監督不行き届きゆえです。そのためこの結婚は無効にされても構いません。私はあくまでも貴族として、そして彼女の夫として行動していましたが……」
トーマスは悲し気に頭を振った。
「訴求離婚のため結婚自体が白紙になったとしたら、その間に当家からローデリアのものとなった財産の返還を要求するしかありません。私としては彼女と離れるのはとても残念でならないのですが……彼女のためですからしかたありません」
これなら、最低限の自分が保持していた財産は確保できる。そして、ローデリアが自分の財産を使って増えた分は、このような醜聞を起こし、王宮までをも巻き込んで騒がせたとして、ローデリアに改めて慰謝料を請求することにしよう。
283
あなたにおすすめの小説
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに?
四折 柊
恋愛
結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)
スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。
嘘つきな貴方を捨てさせていただきます
梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。
「さっさと死んでくれ」
フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。
愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。
嘘つきな貴方なんて、要らない。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
11/27HOTランキング5位ありがとうございます。
※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。
1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。
完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる