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第3話
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「--は?」
「よく来たな。待っていたぞ。」
目の前で男女がイチャついています。
見たことのある女性が、ザーディヌ殿下に擦り寄っていたのです。
私は何を見せられているのでしょうか……。
その女性の名はメーフィユ・ディレスルエイド。
私の1つ下です。
珍しい黒髪に、空色のような瞳を持っています。
ディレスルエイド侯爵家の長女であり、女性貴族の間では悪い噂が絶えないご令嬢です。
気に入った男性に甘い声をかけるのですが、大抵が婚約者のいる殿方にそのようなことをしていました。
彼女が原因で婚約破棄させられたという事例も少なくありません。
つまりは、メーフィユ侯爵令嬢の被害者が沢山いるということです。
証拠がない、男性側が庇う。
故に彼女が咎められるというようなことはありませんでした。
……次のターゲットは私のようですね。
「殿下……どういうつもりですか?」
「そこで待っていろ。」
「……。」
10分……20分と時間が過ぎて行き、30分が経過しようとしています。
いつまで待たせられるのでしょうか…。
というより、この光景をいつまで見ていればよいのでしょう?
「うふふ、殿下ったら。」
「君が素敵なだけだ。」
「殿下の方が素敵ですわぁ。」
「あはは。」
「ふふっ♡」
婚約者の前で堂々と浮気をしています。
本当に……何を考えていらっしゃるのでしょう………。
メーフィユ侯爵令嬢と関わるのは避けるように、とお母様や友人からも言われていました。
ですが向こうからやってくるのでは、どうしようもないではありませんか…。
そもそもザーディヌ殿下が連れて来られたのです。
私にはどうにも出来ませんよ……。
「はぁ……。」
ため息が出てしまいました。
メーフィユ侯爵令嬢は聞こえていたのか、私の方を見て殿下に尋ねます。
「殿下ぁ~。そちらは婚約者のシュレア・セルエリット様ですわよねぇ。何故いるのですか?」
「ん?ああ、君が望むなら部屋から出ていってもらうぞ?」
「構いませんわ。殿下との時間を邪魔してこないのであれば、私は誰が居ようと気にしませんもの。」
「そ、そうか?」
「はい~!」
メーフィユ侯爵令嬢……見ていて本当に腹立たしい…。
彼女の一つ一つの仕草が、男性を虜にするのでしょう。
しかし女であれば誰もが知っているような仕草です。
知っていても、普通実行しようとは思いませんが……。
「殿下。御用がないのであれば、私は退室させていただきます。お邪魔になるでしょう?」
「許可できないな。ここに居ろ。」
「おっしゃる意味が分かりません。」
「後で頼みがあるのだ。」
「なら今話してくださいませんか?」
「何故だ?」
「私も暇ではないのです。」
「はぁ……分かった。」
何故そちらがため息をつくのでしょう。
人を待たせるだけでなく、浮気現場を見せつけているのは殿下でしょうに。
それに頼みについては、既に見当がつきました。
「明日、私は予定があってな。」
「仕事を全て私一人で片付けてくれ……ですか?」
「なんだ、分かっているではないか。」
「予定とは何ですか?」
「ああ、彼女と城下に……ではなく、友人達に食事でもと誘われてな。」
「デー……そうですか。」
「ん?」
「何でもありません。」
今完全に『彼女と城下に』と聞こえましたが。
デートに行かれるのですね、と言わなかっただけ私は偉いと思います。
しかし全てを完全に任せてくるとは…。
「殿下、後ほどお会いしましょう。」
「……何を言っている?」
「2時間後、仕事を行っている部屋にて、お待ちしております。」
「え…あ、おい!どういうことだ!?」
「殿下に直接見ていただかなければならないものが一つありました。目を通してくださらないと困るのです。では失礼致します。」
私は逃げるように部屋を退室しました。
そろそろ真面目な話をしておくべき、そう感じたからです。
美しい金髪碧眼の容姿を持つザーディヌ殿下。
寄ってくる貴族が多いのは理解できますが、メーフィユ侯爵令嬢は危険ですと伝えていました。
それにもかかわらず、殿下は彼女の手を取りました…。
長い白銀の髪に翡翠色の瞳を持つ私は、見た目がメーフィユ侯爵令嬢と真逆です。
『白と黒』、と言ったところでしょうか。
私も彼女も珍しい髪色です。
ですが私を見慣れている殿下にとっては、メーフィユ侯爵令嬢に興味が湧いたのでしょう。
そして先程の甘い言葉。
危険な人だと知っていても、虜になってしまうのですね。
彼女は私を見て薄ら笑いを浮かべていました。
「……これ以上の見逃しは無理ですね…。最近は遊んでばかりで、学園に通っていた時には解けた問題が全く分からなくなっていましたし……。」
書類に学園で習った数式を紛れ込ませ、問題を解いてみましょうと誘導したことがありました。
『これは……何だ?』
『数学の問題のようですね。殿下、解いてみては?』
『私が、か?』
『はい。殿下であれば、このような問題簡単でしょう?』
『そ、そうだな…。では解いてみよう。』
そして解き始めましたが、全く答えが出せていないようです。
結局正解できませんでした。
この内容はそれほど難しいものではありません。
公式の中でも特に簡単な公式を使う問題です。
問題の出し方を意地悪にして、どの公式を使うか迷うようにしていましたが……。
(まさか…100点を取った時は偶然だった…?)
そう思わずにはいられませんでした。
話が逸れましたが、重要なのは2時間後です。
私は決意しました。
もし話し合いをしても殿下が変わらないようなら……
婚約破棄を申し出ようと--
「よく来たな。待っていたぞ。」
目の前で男女がイチャついています。
見たことのある女性が、ザーディヌ殿下に擦り寄っていたのです。
私は何を見せられているのでしょうか……。
その女性の名はメーフィユ・ディレスルエイド。
私の1つ下です。
珍しい黒髪に、空色のような瞳を持っています。
ディレスルエイド侯爵家の長女であり、女性貴族の間では悪い噂が絶えないご令嬢です。
気に入った男性に甘い声をかけるのですが、大抵が婚約者のいる殿方にそのようなことをしていました。
彼女が原因で婚約破棄させられたという事例も少なくありません。
つまりは、メーフィユ侯爵令嬢の被害者が沢山いるということです。
証拠がない、男性側が庇う。
故に彼女が咎められるというようなことはありませんでした。
……次のターゲットは私のようですね。
「殿下……どういうつもりですか?」
「そこで待っていろ。」
「……。」
10分……20分と時間が過ぎて行き、30分が経過しようとしています。
いつまで待たせられるのでしょうか…。
というより、この光景をいつまで見ていればよいのでしょう?
「うふふ、殿下ったら。」
「君が素敵なだけだ。」
「殿下の方が素敵ですわぁ。」
「あはは。」
「ふふっ♡」
婚約者の前で堂々と浮気をしています。
本当に……何を考えていらっしゃるのでしょう………。
メーフィユ侯爵令嬢と関わるのは避けるように、とお母様や友人からも言われていました。
ですが向こうからやってくるのでは、どうしようもないではありませんか…。
そもそもザーディヌ殿下が連れて来られたのです。
私にはどうにも出来ませんよ……。
「はぁ……。」
ため息が出てしまいました。
メーフィユ侯爵令嬢は聞こえていたのか、私の方を見て殿下に尋ねます。
「殿下ぁ~。そちらは婚約者のシュレア・セルエリット様ですわよねぇ。何故いるのですか?」
「ん?ああ、君が望むなら部屋から出ていってもらうぞ?」
「構いませんわ。殿下との時間を邪魔してこないのであれば、私は誰が居ようと気にしませんもの。」
「そ、そうか?」
「はい~!」
メーフィユ侯爵令嬢……見ていて本当に腹立たしい…。
彼女の一つ一つの仕草が、男性を虜にするのでしょう。
しかし女であれば誰もが知っているような仕草です。
知っていても、普通実行しようとは思いませんが……。
「殿下。御用がないのであれば、私は退室させていただきます。お邪魔になるでしょう?」
「許可できないな。ここに居ろ。」
「おっしゃる意味が分かりません。」
「後で頼みがあるのだ。」
「なら今話してくださいませんか?」
「何故だ?」
「私も暇ではないのです。」
「はぁ……分かった。」
何故そちらがため息をつくのでしょう。
人を待たせるだけでなく、浮気現場を見せつけているのは殿下でしょうに。
それに頼みについては、既に見当がつきました。
「明日、私は予定があってな。」
「仕事を全て私一人で片付けてくれ……ですか?」
「なんだ、分かっているではないか。」
「予定とは何ですか?」
「ああ、彼女と城下に……ではなく、友人達に食事でもと誘われてな。」
「デー……そうですか。」
「ん?」
「何でもありません。」
今完全に『彼女と城下に』と聞こえましたが。
デートに行かれるのですね、と言わなかっただけ私は偉いと思います。
しかし全てを完全に任せてくるとは…。
「殿下、後ほどお会いしましょう。」
「……何を言っている?」
「2時間後、仕事を行っている部屋にて、お待ちしております。」
「え…あ、おい!どういうことだ!?」
「殿下に直接見ていただかなければならないものが一つありました。目を通してくださらないと困るのです。では失礼致します。」
私は逃げるように部屋を退室しました。
そろそろ真面目な話をしておくべき、そう感じたからです。
美しい金髪碧眼の容姿を持つザーディヌ殿下。
寄ってくる貴族が多いのは理解できますが、メーフィユ侯爵令嬢は危険ですと伝えていました。
それにもかかわらず、殿下は彼女の手を取りました…。
長い白銀の髪に翡翠色の瞳を持つ私は、見た目がメーフィユ侯爵令嬢と真逆です。
『白と黒』、と言ったところでしょうか。
私も彼女も珍しい髪色です。
ですが私を見慣れている殿下にとっては、メーフィユ侯爵令嬢に興味が湧いたのでしょう。
そして先程の甘い言葉。
危険な人だと知っていても、虜になってしまうのですね。
彼女は私を見て薄ら笑いを浮かべていました。
「……これ以上の見逃しは無理ですね…。最近は遊んでばかりで、学園に通っていた時には解けた問題が全く分からなくなっていましたし……。」
書類に学園で習った数式を紛れ込ませ、問題を解いてみましょうと誘導したことがありました。
『これは……何だ?』
『数学の問題のようですね。殿下、解いてみては?』
『私が、か?』
『はい。殿下であれば、このような問題簡単でしょう?』
『そ、そうだな…。では解いてみよう。』
そして解き始めましたが、全く答えが出せていないようです。
結局正解できませんでした。
この内容はそれほど難しいものではありません。
公式の中でも特に簡単な公式を使う問題です。
問題の出し方を意地悪にして、どの公式を使うか迷うようにしていましたが……。
(まさか…100点を取った時は偶然だった…?)
そう思わずにはいられませんでした。
話が逸れましたが、重要なのは2時間後です。
私は決意しました。
もし話し合いをしても殿下が変わらないようなら……
婚約破棄を申し出ようと--
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