【完結】さっさと婚約破棄してくださいませんか?

凛 伊緒

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第14話

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私はお父様を持ち、共に公爵家へと戻りました。
肩の荷が下りたような気分です。


「シュレア、そのまま書斎へと行くぞ。」

「分かりました。」


時刻は午前11時頃。
お父様の書斎へと入りました。
今後の話でもするのでしょう。


「国王陛下が、本日中に婚約破棄の手続きを済ませておくと言っていたが、これからどうするつもりにしているんだ?」

「申し上げていた通り、近隣の町に向かいます。今日の昼過ぎ…1時頃には公爵家を出るかと。」

「今日…か……。」

「お父様。私は公爵家を追い出されるわけでも、公爵令嬢でなくなるわけでもありません。ただご迷惑をおかけしたくないが為に、公爵家から『離れる』だけですよ。」

「…その通りだな。何時でも帰っておいで。」

「はい…!えぇと……半年に一度、帰ってきてもよろしいでしょうか…?」

「勿論…!リュゼ達も喜ぶだろうからな。」

「ありがとうございます。時折、手紙を書きますね。」

「ああ、待っているよ。」


その後、自室にて準備を整えました。
そして出発の時間となり……
お父様、お母様、リュゼ、そして一部の使用人達が見送りの為に公爵家の門まで来てくれました。
お母様は涙ぐみ、お父様とリュゼは少し寂しそうな表情です。


「お父様、お母様。忙しいのに来てくださってありがとうございます。リュゼ。次期公爵として、しっかりお父様から学びなさいね。」

「勿論です…!」

「使用人の皆。今までありがとう。これからもお父様達をよろしくね。」

「「「はい、お嬢様…!」」」

「……。…皆さん、重く考え過ぎですよ…。二度と会えなくなるわけではありせんし、半年に一度は帰ってきますよ。……それでは、行ってまいります…!」


大勢に見送られ、私は馬車にて町の近くまで移動しました。


「ここでいいわ。」

「分かりました。…お嬢様、お気をつけて。」

「ええ。ありがとう。」


馬車から降り、歩いて自分の持つカフェへと向かいました。
行列ができています。
私は裏口……つまりは従業員用の入口から入りました。
魔法にて髪色を変え、結って別人に見えるように変装を済ませます。
繋がっている厨房に行くと、ルーエリが料理を作り、シゼフが1人で注文・料理運び・来店した客の席への案内、これらを全てこなしていました。
手馴れた様子から、いつも同じ状況だったのでしょう。
2人に大変ではないかと聞くと『大丈夫!』と返ってきていたのですが、どこからどう見ても大丈夫ではなさそうです。


「ヴィレル。」

「ここに。」

「手伝いに行くわよ。というより、これから毎日働くのだから、よろしくね。」

我が主シュレア様の望みのままに。」


跪いて頭を下げるヴィレル。
忠誠心があるのは良いのですが……


「それと、敬語と様は必要ないわ。私のことは呼び捨てで構わない。」

「えっ…!?何故ですか、?」

「私の知り合いということになっているし、平民のふりをしているのだから、様付けされると怪しまれてしまうわ。」

「なるほど…。」

「ヴィレルは私の使い魔だけれど、これから先は友として接したいわ。だから軽い感じで大丈夫よ。」

「…分かりました。ではシュレアと呼ぶとして……敬語ではない話し方とは、どう話せば良いのでしょうか…?」

「え、…?あ…あぁ~……。」


ここで問題が発生しました。
おそらくヴィレルは、感情はあれど生まれて間もない『影獣シャドー』です。
様々な経験が浅く、会話は私やクロとする程度です。
そういえば……、ルーエリやシゼフと話す時も敬語になっていましたね…。
生み出された時から絶対なる忠誠を違う影獣彼らにとって、『普通』というのがよく分からないのかもしれません。
知識は、あくまで知識でしかないのです。


「簡単に言うと、『です・ます・しました』のような伝えたいことの後に付ける言葉を無くせば良いの。そうねぇ……あ!クロと話す時はどう?」

「クロと話す時の感じであれば…行けるかもしれません!少し普段のシュレア様とお話する時の癖が出てしまうかもしれませんが…。」

「気にしないわ。少しずつ慣れていけばいいのよ。立場としては対等ではなくても、友として接し方くらいは対等にしたいもの。」

「…!」


ヴィレルは目を輝かせて私を見てきます。
尻尾があれば振っているでしょう…。
忠犬とはこのことですね。
……いえ、それを言えばクロに怒られてしまいます。
早くカフェを手伝いましょうか…。


「ルー、シゼフ!」

「レアさん!それにヴィレルさんも!」

「どうも…。」

「忙しいようだから話は後にして、手伝うわ。」

「はい!お願いします!」

「レア姉さんとヴィレルじゃん!2人が来たのなら、もう少しお客さんを増やしても問題ないな。」

「私はルーを手伝うわ。ヴィレルはシゼフと一緒に、お客さんの対応をしてくれるかしら。」

「分かった。」


(自分で言ったことだけれど……、ヴィレルがこの話し方だと新鮮ね…。)


そう思いつつ、ルーと共に料理を作り始めました。
客が増え、忙しくなったのですが、皆手際が良いので回転が速いです。
そして2時を過ぎた頃、少し落ち着いてきたのでした。
料理を作る手に余裕が出来たルーエリが、私に質問してきました。


「そういえば、レアさんはヴィレルさんと何処で知り合ったのですか?」

「彼とは幼なじみなのよ。元々は傭兵団に所属していたのだけれど、怪我をしてしまって…。長時間激しい動きが出来なくなってしまったから、傭兵団を抜けなければならなくなったの。」

「そうだったんですね…。」

「仕事を探さないとって言っていたから、私の店で働いては?と誘ったのよ。」

「なるほど…!ではレアさんがこちらに来ていない間は…?」

「まだ慣れない場所だから、私が居ないと不安だったみたい…。少し恥ずかしがり屋な所があるからね…。でも2人のことは気に入っているみたいよ。話しやすいとも言っていたし……。」

「恥ずかしがり屋ですか……。少し分かる気がしますね。」


納得してもらえて良かったです。
今の話の内容は、ヴィレルと共有していました。
私の影獣であるヴィレルやクロは、私と視覚・聴覚を常に共有することが出来るのです。
影獣側から遮断することは出来ませんが、魔法の発動者の方から遮断すると、影獣には主の見ている・聞いているものが、見えも聞こえもしなくなります。
つまりは発動者次第ということですね。
昨日のヴィレルに魔道具を持たせていたのは録音する為だったので、普通は必要ないのです。


「元・傭兵団員なら、ヴィレルさんは警備面で心強いですね!」

「ええ。用心棒もお願いしているわ。まぁそんな訳だから、仲良くしてあげてね。」

「はい!あ、私に堅苦しい話し方は不要だと言っておかなくては。」

「ルーの場合、そっくりそのまま言葉が返ってくるのでは?」

「え!?私は皆さんより年下ですし、日頃から感謝しているので当然なのです!」

「はいはい、分かったわ。こちらこそいつもありがとう。さあ、止まっている手を動かして。」

「あ…、はい!」


ルーエリを見ていると、心が安らぎますね…。
何事にも全力な彼女を見習うべきとすら思えます。
初めて会った時は定職がなくて地獄のような表情をしていたのですが、今は明るい、本来のルーエリの姿が帰ってきたようで、私も嬉しいです。
ルーエリには妹と一緒に、カフェの2階に住んでもらっています。
家賃は給金から引いくようにしているのです。
シゼフは実家に帰っていますが。


「疲れたわぁ…。皆、今日もお疲れ様。」

「お疲れ様です!」「お疲れ~。」


カフェを閉め、売上を確認した後、皆にはカフェの椅子に座ってもらいました。


「前にも言っていた通り、私は今日からこのカフェに専念するわ。それに伴って、2階の空いている部屋に住むことになる…。」


私は迷いました。
貴族であること、ヴィレルが『影獣』であることなどを話すか否か…。
2人が信用に足る人物であることは確かです。
しかし信頼できるかどうかは……。
人を信じることは、こんなにも難しいのですね…。


「……。」

「レアさん?どうしたのですか?」

「ルー、シゼフ。2人は今から話すことを、誰にも言わないと誓ってくれるかしら…?たとえ家族であっても言わないと……。」

「なるほど。僕らが信頼できるか迷ってたんだ。」

「違うと言えば嘘になるわね…。でも私は2人を信じたい。だから……」

「誓います!」「誓う!」

「え…?」

「誰にも…妹にすら言いませんから!」

「僕も親しい人にすら言わないよ。ずっと世話になってるレア姉さんの頼みだからね。」

「シゼフの言う通りです!」

「ありがとう…。」


私は2人にここにいる経緯を話しました。
しかし婚約を破棄したことは話していません。
陛下に迷惑はかけられないからです。
話したことは、

1.私が貴族であり、とある事情から家を離れなければならなくなったこと。
2.ヴィレルは私が魔法にて創り出した存在だということ。

この2つです。
本名などは伝えていません。


「レア姉さんが貴族なのは何となく感じてたことだけど……、まさかヴィレルが魔法で創られた存在だなんて…。」

「レアさんは魔法が使えたのですね…!貴族の中でも限られた方しか使えないと聞いていましたから、本当に凄いです!」

「あ、ありがとう…?それと…騙していてごめんなさい。」

「初めから貴族と知っていれば、今の関係も変わっていただろう。レア姉さんの気持ちも分かる。それにヴィレルのことは家族さんにすら話してないんだろ?」

「ええ。知られてしまえば、どうなるか…。」

「だろうな。ルー、絶対に誰にも言うんじゃないぞ。」

「わ、分ってますよぉ!シゼフこそ、気を付けるのですね!」

「言うじゃないかルー。僕が誰かに話すとでも?」

「まぁまぁ2人とも。……ありがとう。これからもよろしくね。」

「はい!」「勿論!」


杞憂に終わりそうで良かったです。
ですが絶対に誰にも話さないという確証があるわけではありません。
もし話してしまったら……、その時はその時ですね…。
きっと未来の自分が、何とかするでしょう……。


「ヴィレル。」

「何でしょ……何だい?」

「やっぱり慣れないのね…。」

「当然です。私はレア様の忠実なる影獣なのですから。」

「それもそうよねぇ…。」

「僕達に話したんだから、ヴィレルと姉さんはいつも通りでいいんじゃないか?」

「そうですよ!でも、私とシゼフには敬語禁止ですよ!」

「わ、分かりました…。ありがとうございます。」

「ほらもう使ってます!敬語禁止ですっ!」

「ふふっ。仲良く出来そうね…。」


2人は本当に良い人です。
出会えて良かったと思います…。
影獣だと知っても、人として接してくれています。


(明日から……いえ、今日から日常が変わる…。でも楽しみでしかない…!)


そう思い、平民として暮らし始めたのでした。
そして……


--早くも半年が経ちました。
今日はカフェの定休日です。


「それじゃあルー、行ってくるわね。明日の朝には帰ってくるわ。」

「はい!お気を付けて!」


ヴィレルの力を借りて、私は影魔法にてとある場所に移動したのでした。
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