燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 だが、事実はそうでなかったことがリィウスにも今わかった。
「ふふふふ……。どうしたんだい、そんな怖い顔をして?」 
 ウリュクセスが楽しくてたまらぬという顔でリィウスを見ている。
「あ、あなたが、彼を隠していたのか?」
「人聞きの悪い。ちゃんと契約を交わして、こうして宴の客を喜ばせてもらっているのだよ。それ相応の代価を払ってね」
「だ、代価とは……?」
 トュラクスほどの男に、あれほど惨めな真似をさせる条件とはなんなのか。
 リィウスは初めて柘榴荘に行ったとき、我が身を売る契約書におのれの名をしたためたときの屈辱と絶望を思い出し、怒りに燃えた。
「愛する恋人の命だよ」
 ウリュクセスは満足そうにトュラクスの恥辱の姿を眺めながら告げる。
「えっ……」
「君も知っているだろう? 消えた女優のミュラのことを。彼女とトュラクスは将来を誓いあった恋人同士だったのだよ。そんな彼女が悪者に誘拐されて異国に売られそうになったのを、私が金を払って助けてやったのだよ」
「ちがう! あながたミュラという女優を誘拐したのだ」
 ほぼ直感的にリィウスは真実をさとった。
 はははははは――。そのとおりだよ、と言わんばかりにウリュクセスは笑う。悪魔の哄笑にリィウスの背に怖気が走る。
 トュラクスの愛するミュラを誘拐したウリュクセスは、ミュラの金髪を切り取りトュラクスに送りつけた。ミュラの命を楯にし、誰にも告げるなと脅して約束の場所にトュラクスをおびきだし、罠に嵌め、彼を文字どおり本当の奴隷に堕としたのだ。
 恋人の身を想うあまりトュラクスは焦っていたのだろう。腕に自信があったのだろうが、多勢に無勢では、いかなトュラクスでもかなわない。しかもミュラの命を握られているのだ。哀れにも悪党たちの手によって痛めつけられ、無残な目に合わされ、尚も手向かえば愛する女の命を奪うという脅しを受けて、心身ともに縛られ、逃げることができないようにされてしまったのだ。
「ど、どうして、そんな非道なことを!」
 己の弱い立場もわすれてリィウスは目に力をこめてウリュクセスをなじっていた。
「ある人から頼まれたのだよ。まぁ、私自身の楽しみでもあるがね」
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