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第3章 王都編
第6話「代替の器と、拒絶する意志」
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——気配で、目が覚めた。
「……誰かいる」
夜の屋敷。窓の外には静かな庭。けれど、まどかの肌が、微かに震えを感じ取っていた。
これは……明らかに“普通じゃない”。
枕元に置いていたクラウス男爵からの護身用魔法具を手に、そっと寝室の扉を開けた。
「誰か、侵入者……?」
廊下の奥、テラスから庭を見下ろす吹き抜けのバルコニーに、一つの影が立っていた。
「……やっと会えたな、“神子の器”」
背を向けた男は、黒い法衣のようなローブをまとい、その下から漏れる魔力は、まどかの“陽環の加護”と似ていながらも、何かが歪んでいた。
「名乗るつもりは?」
「我らは《影の王の徒》。“光”によって否定された“闇”の継承者だ」
「中二病は病院へ。夜中に忍び込んできて何がしたいのよ」
「お前に“器”としての選択肢を与えに来た。お前の“加護”は不完全。だが、その魂には素質がある。……我らが王の意志を継ぐに、十分な可能性を」
「悪いけど、加護も王も、選んだ覚えはないんだわ」
男は片手をかざした。空気が裂け、紫黒の魔力がまどかの周囲を囲む。
「この加護はな、“陽環”の裏側……“陰環(いんかん)”と対を成す。古より二極は存在し、神子の力もまた、選択の果てに変じるのだ」
「はぁ?」
「つまりお前は、光にも闇にもなれる。その分岐点にある」
「……選ばされる人生とか、マジ勘弁」
まどかはポーチから護身用の魔道具を取り出し、起動する。
小さな爆発。男の魔力が中和され、視界が開けた一瞬で、まどかはテラスから屋内へ飛び込む。
「ラセル! 誰か来てる! 侵入者、庭から!」
瞬時に警備の魔術障壁が展開され、屋敷のあちこちから騎士たちの声が飛ぶ。
だがその混乱の中で、あの男の声が、静かにまどかの耳に届いた。
「光を捨てよ。“選ばされる”のではなく、自ら選ぶ者となれ。次に会う時までに、“お前の本質”が決まっていることを祈ろう」
そして影は、淡い闇と共に、庭から姿を消した。
ラセルとルーファスが到着したのは、そのわずか数分後だった。
「まどか殿、無事ですか!?」
「うん、生きてる。命には別状なし、心はズタボロだけど」
息を整えながら、まどかは語った。
光と闇の力、器、神子の再来、そして“選択”。
そして、彼女自身が“どちらに転ぶか”を試されていること。
「私は、選ばれた覚えなんて一度もない。でも……このまま無関心ではいられないってことも、さすがに分かったわ」
その言葉に、ラセルが表情を曇らせる。
「“陽環の加護”は、強い光を持つゆえに、強く闇を呼ぶ。……それが、この世界の法則です」
「つまり……スローライフしたかっただけの私が、世界のバランスに巻き込まれてるってこと?」
「正確には、“バランスそのもの”として存在し始めている、ということですね」
まどかは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。
「……じゃあ、選ぶよ。逃げるのでも、従うのでもなく、ちゃんと自分の意思で」
「それは、すぐに“闘う”ことを意味します」
「分かってる。でも私が、“ただ巻き込まれる女”で終わるのは、癪だから」
彼女の目に灯ったのは、諦めでも、義務でもない。
ただ、自分の人生を自分の手で掴もうとする、ささやかな決意の光だった。
その夜、ラセルは密かに手紙を書いた。
——“彼女は、兆しを見せた。かつての神子と同じように、だがまったく異なる意志で。”
“貴殿の判断に任せるが、まもなく“中心”が彼女に集まり始めるだろう。備えを。”
宛名は伏せられていたが、そこに向けて、静かな動きが始まりつつあった。
「……誰かいる」
夜の屋敷。窓の外には静かな庭。けれど、まどかの肌が、微かに震えを感じ取っていた。
これは……明らかに“普通じゃない”。
枕元に置いていたクラウス男爵からの護身用魔法具を手に、そっと寝室の扉を開けた。
「誰か、侵入者……?」
廊下の奥、テラスから庭を見下ろす吹き抜けのバルコニーに、一つの影が立っていた。
「……やっと会えたな、“神子の器”」
背を向けた男は、黒い法衣のようなローブをまとい、その下から漏れる魔力は、まどかの“陽環の加護”と似ていながらも、何かが歪んでいた。
「名乗るつもりは?」
「我らは《影の王の徒》。“光”によって否定された“闇”の継承者だ」
「中二病は病院へ。夜中に忍び込んできて何がしたいのよ」
「お前に“器”としての選択肢を与えに来た。お前の“加護”は不完全。だが、その魂には素質がある。……我らが王の意志を継ぐに、十分な可能性を」
「悪いけど、加護も王も、選んだ覚えはないんだわ」
男は片手をかざした。空気が裂け、紫黒の魔力がまどかの周囲を囲む。
「この加護はな、“陽環”の裏側……“陰環(いんかん)”と対を成す。古より二極は存在し、神子の力もまた、選択の果てに変じるのだ」
「はぁ?」
「つまりお前は、光にも闇にもなれる。その分岐点にある」
「……選ばされる人生とか、マジ勘弁」
まどかはポーチから護身用の魔道具を取り出し、起動する。
小さな爆発。男の魔力が中和され、視界が開けた一瞬で、まどかはテラスから屋内へ飛び込む。
「ラセル! 誰か来てる! 侵入者、庭から!」
瞬時に警備の魔術障壁が展開され、屋敷のあちこちから騎士たちの声が飛ぶ。
だがその混乱の中で、あの男の声が、静かにまどかの耳に届いた。
「光を捨てよ。“選ばされる”のではなく、自ら選ぶ者となれ。次に会う時までに、“お前の本質”が決まっていることを祈ろう」
そして影は、淡い闇と共に、庭から姿を消した。
ラセルとルーファスが到着したのは、そのわずか数分後だった。
「まどか殿、無事ですか!?」
「うん、生きてる。命には別状なし、心はズタボロだけど」
息を整えながら、まどかは語った。
光と闇の力、器、神子の再来、そして“選択”。
そして、彼女自身が“どちらに転ぶか”を試されていること。
「私は、選ばれた覚えなんて一度もない。でも……このまま無関心ではいられないってことも、さすがに分かったわ」
その言葉に、ラセルが表情を曇らせる。
「“陽環の加護”は、強い光を持つゆえに、強く闇を呼ぶ。……それが、この世界の法則です」
「つまり……スローライフしたかっただけの私が、世界のバランスに巻き込まれてるってこと?」
「正確には、“バランスそのもの”として存在し始めている、ということですね」
まどかは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。
「……じゃあ、選ぶよ。逃げるのでも、従うのでもなく、ちゃんと自分の意思で」
「それは、すぐに“闘う”ことを意味します」
「分かってる。でも私が、“ただ巻き込まれる女”で終わるのは、癪だから」
彼女の目に灯ったのは、諦めでも、義務でもない。
ただ、自分の人生を自分の手で掴もうとする、ささやかな決意の光だった。
その夜、ラセルは密かに手紙を書いた。
——“彼女は、兆しを見せた。かつての神子と同じように、だがまったく異なる意志で。”
“貴殿の判断に任せるが、まもなく“中心”が彼女に集まり始めるだろう。備えを。”
宛名は伏せられていたが、そこに向けて、静かな動きが始まりつつあった。
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