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第3章 王都編
第5話「平穏崩壊の予兆と、影の来訪者」
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「——ねえ、ラセル。やっぱりこの世界、スローライフには向いてないんじゃない?」
朝の屋敷の中庭で、焼き立てのパンとスープを前にまどかは遠い目をしていた。
神殿訪問から二日。まどかの加護に関する噂は、貴族の間でも静かに広がり、屋敷の周囲では見慣れない視線を感じるようになっていた。
「……それでも、こうして朝ごはんが食べられてる間は、まだ勝ちよね」
ぼやきながらも、まどかはスプーンを口に運んだ。
その隣で、フィリアが小さく笑う。
「お姉ちゃん、なんだかんだで毎朝元気だね」
「うん、まあね……胃が丈夫なのが取り柄だから」
ふと、ラセルが耳に手を当てた。通信魔法のようだ。
「……まどか殿、申し訳ありません。自警団本部から要請です。“王都南地区の市場で爆発騒ぎが発生し、不審な魔力反応が確認された”と」
「爆発……また物騒な話が……」
まどかが眉をひそめるのと同時に、ラセルが静かに言葉を継いだ。
「……その魔力が、“陽環の加護”と非常に近い反応を示したとのこと」
「……は?」
まどかとラセルは、自警団の馬車で急ぎ南市場へと向かった。
事件現場は、半壊した露店の近く。あちこちに焼け跡が残り、騎士たちが通行を規制していた。
「……これが、神子と似た魔力?」
「はい。正確には“光属性魔力に似た波長”の反応です。ただし、制御不能。……明らかに何者かが模倣を試みた痕跡があります」
「模倣……? つまり、私の“加護”の力を真似して、何かしようとしたってこと?」
「はい。可能性としては……“陽環の加護”を知る存在が、意図的に騒ぎを起こしているかと」
現場を調査する中で、まどかは焦げた布切れを見つけた。
そこには奇妙な模様が記されていた。円と矢印が複雑に交差する、呪術にも似た印。
「……これ、どこかで……」
ラセルが、それを一目見て、即座に目を細めた。
「これは……《影の王の徒(かげのおうのともがら)》の印です」
「え、それって中二病ネームじゃなくて……?」
「本物です。王国が長年追っている地下組織。王族に敵対する古代信仰の残党です。かつて“光の神子”に滅ぼされたとされていましたが……どうやら、完全には終わっていなかった」
「いやいや、なんで私の周りばっかり、そういうの湧くの?」
その夜、屋敷に戻ったまどかは、食欲もなくソファに倒れ込んだ。
「……うん、ちょっとだけ泣いてもいいかな。別に勇者でも神子でもないのに……」
フィリアが心配そうにのぞき込む。
「お姉ちゃん、あの……無理しないで。私、今は家族もいて、ちゃんとご飯もあるし……だから、無理に守らなくていいよ?」
「……あんた、いつの間にそんな優しさを覚えたの?」
「お姉ちゃん見てたら、ちょっとだけ“かっこいいな”って思って」
「……その感想は誤解だけど、ありがとう。……うん、もうちょっと頑張るわ」
まどかはふっと微笑むと、天井を見上げた。
「私が何も望まなくても、こっちが勝手に期待してくる世界なら……しょうがないよね」
そして深夜。
屋敷の中庭に、影がひとつ落ちた。
「……見つけた。再来の神子……いや、“代替の器”か」
男の口元が、ひどく冷たい笑みを浮かべた。
“影の王の徒”が、ついにまどかへと手を伸ばそうとしていた——。
朝の屋敷の中庭で、焼き立てのパンとスープを前にまどかは遠い目をしていた。
神殿訪問から二日。まどかの加護に関する噂は、貴族の間でも静かに広がり、屋敷の周囲では見慣れない視線を感じるようになっていた。
「……それでも、こうして朝ごはんが食べられてる間は、まだ勝ちよね」
ぼやきながらも、まどかはスプーンを口に運んだ。
その隣で、フィリアが小さく笑う。
「お姉ちゃん、なんだかんだで毎朝元気だね」
「うん、まあね……胃が丈夫なのが取り柄だから」
ふと、ラセルが耳に手を当てた。通信魔法のようだ。
「……まどか殿、申し訳ありません。自警団本部から要請です。“王都南地区の市場で爆発騒ぎが発生し、不審な魔力反応が確認された”と」
「爆発……また物騒な話が……」
まどかが眉をひそめるのと同時に、ラセルが静かに言葉を継いだ。
「……その魔力が、“陽環の加護”と非常に近い反応を示したとのこと」
「……は?」
まどかとラセルは、自警団の馬車で急ぎ南市場へと向かった。
事件現場は、半壊した露店の近く。あちこちに焼け跡が残り、騎士たちが通行を規制していた。
「……これが、神子と似た魔力?」
「はい。正確には“光属性魔力に似た波長”の反応です。ただし、制御不能。……明らかに何者かが模倣を試みた痕跡があります」
「模倣……? つまり、私の“加護”の力を真似して、何かしようとしたってこと?」
「はい。可能性としては……“陽環の加護”を知る存在が、意図的に騒ぎを起こしているかと」
現場を調査する中で、まどかは焦げた布切れを見つけた。
そこには奇妙な模様が記されていた。円と矢印が複雑に交差する、呪術にも似た印。
「……これ、どこかで……」
ラセルが、それを一目見て、即座に目を細めた。
「これは……《影の王の徒(かげのおうのともがら)》の印です」
「え、それって中二病ネームじゃなくて……?」
「本物です。王国が長年追っている地下組織。王族に敵対する古代信仰の残党です。かつて“光の神子”に滅ぼされたとされていましたが……どうやら、完全には終わっていなかった」
「いやいや、なんで私の周りばっかり、そういうの湧くの?」
その夜、屋敷に戻ったまどかは、食欲もなくソファに倒れ込んだ。
「……うん、ちょっとだけ泣いてもいいかな。別に勇者でも神子でもないのに……」
フィリアが心配そうにのぞき込む。
「お姉ちゃん、あの……無理しないで。私、今は家族もいて、ちゃんとご飯もあるし……だから、無理に守らなくていいよ?」
「……あんた、いつの間にそんな優しさを覚えたの?」
「お姉ちゃん見てたら、ちょっとだけ“かっこいいな”って思って」
「……その感想は誤解だけど、ありがとう。……うん、もうちょっと頑張るわ」
まどかはふっと微笑むと、天井を見上げた。
「私が何も望まなくても、こっちが勝手に期待してくる世界なら……しょうがないよね」
そして深夜。
屋敷の中庭に、影がひとつ落ちた。
「……見つけた。再来の神子……いや、“代替の器”か」
男の口元が、ひどく冷たい笑みを浮かべた。
“影の王の徒”が、ついにまどかへと手を伸ばそうとしていた——。
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