『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと

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第3章 王都編

第7話「語り部は語る、かつての神子の残影」

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翌朝、まどかはいつもより遅く目を覚ました。
昨夜の襲撃事件は、ラセルとルーファスによって王都警備団へ報告され、神殿にも通知が行った。
そのため、まどかはこの日「外出を控えるように」と言われていたが——。

「うん、いやだ」

まどかはいつも通りの服に着替え、帽子を深く被って屋敷の裏口から抜け出した。

「好き勝手に“光の器”扱いされて、黙ってろとかじっとしてろとか、まじ理不尽……」

向かったのは、王都の東端にある旧書院地区。
古い寺院や文献保管所が並ぶ、人通りの少ない知の街。

「……たしか、ここに“かつての神子を知る唯一の語り部”がいるって話、ラセルがしてたっけ」


その店は、“風読の屋(かぜよみのや)”という古書店だった。
軒先には時代を感じさせる本の束が積まれ、風鈴が静かに揺れている。

中に入ると、微かに香が焚かれた匂いと、紙とインクの香りが混ざり合っていた。

「いらっしゃい……あら、珍しいお客様ね」

声をかけてきたのは、小柄な老女だった。白髪を丁寧に結い上げ、瞳は薄い翡翠色。

「あなたが……語り部の、ユリアさん?」

「ええ、わたくしが“語る者”。でももう、“語り部”と呼ばれるには歳をとりすぎたわねぇ」

「聞きたいことがあるの。“光の神子”って、何? そして私は、なぜこんな目にあってるのか」

ユリアはまどかをじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。

「……貴女の中に、“陽環”が揺れているのが見えるわ。なるほどね……再来、とは少し違う。けれど、やはり“呼ばれた”のね」


ユリアは、棚の奥から一冊の古文書を取り出した。
擦り切れた表紙に、“千年前の神子と災いの記録”と刻まれている。

「この国にはね、周期的に“均衡の乱れ”が訪れるの。光と闇、秩序と混沌——その歪みが大きくなったとき、世界は誰かを“呼ぶ”のよ」

「それが、私?」

「ええ。前の神子は、“未来を選ぶ者”だった。加護を与えられながらも、それに従うことなく、“別の道”を開こうとした」

まどかの目が見開かれる。

「……じゃあ、その神子も、私と同じだったの?」

「ええ。異世界から来た者だった。名前は……“志乃(しの)”という日本の娘。貴女の魂と、少し似ている」


語られる過去はこうだった。

志乃は、王族たちに持ち上げられ、加護を使うことを期待されたが、それを拒み、ある日忽然と姿を消した。
彼女の選択が引き金となり、“加護の空白”が生まれ、そこに闇の力が流れ込んだという。

「だから王宮も神殿も、今度こそ加護を“管理しよう”としてる。つまり私は、“失敗した神子の代替”ってわけね……」

「そう思うこともできるわ。でも——志乃の選択も、きっと誰かを救った。貴女も、自分の生き方を選べばいい」

まどかは黙っていたが、心のどこかに、少しだけ熱を感じていた。

“私だけじゃない。前にも、こんなふうに葛藤した人がいた”


店を出た瞬間だった。

「見つけたぞ、“器”!」

屋根の上から飛び降りてきた影。——黒装束の《影の王の徒》が、また現れた。

「ユリアさん、逃げて!」

「ええ、心得てるわ。気をつけなさい!」

まどかは護身具に手をかける。しかし、それよりも早く、別の影が飛び込んできた。

「下がれ!」

その一閃で、敵は地面に転がった。

「……ルーファス!?」

「隠れるには、目立ちすぎだ。まったく何やってんだ」

「いや、だって!」

「……もういい。後で説教だ。今は逃げるぞ!」

まどかは息を呑みながらも頷き、ルーファスの背に従って駆け出した。

風のように駆け抜ける影を背に、まどかは自分に問い続けていた。

「私は……どこへ行こうとしてるんだろう」

その問いに、まだ答えはなかった。

けれど確かに、彼女の中で何かが動き出していた——
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