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13.観測(3)
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「いつも俺ばっかり」
「そう? じゃあ、俺の話でもしようか」
主語もなにもない悠生のぼやきを、笹原はしっかり理解したようだった。その上で、さらりと笑う。
「とっておきの秘密の話」
「秘密の話?」
「そう。はじめて誰かにする話」
言葉とは裏腹の、茶化すような調子。その調子のまま、内緒だよ、というように唇に指先を当てる。悠生は思わず
眉をひそめた。
「女子か」
「はは、悠生もやってみる?」
「やらねぇよ」
「残念。似合いそうなのに」
「おまえな」
「冗談、冗談。似合いそうっていうのは嘘じゃないけど」
本当に、よく笑う男だと思う。悠生が笹原の顔を想像するとき、笑っている顔しか浮かばない程度には。その顔が、一度夜空を見上げ、そうして悠生を見た。
「俺ね、女の子を本気で好きになったこと、ないんだよね」
「……俺もないけど」
笹原のそれとは理由は違うかもしれないが。憮然と応じた悠生に、どこか困ったように笹はが眉を下げた。
「うーん、たぶん、俺のとは、ちょっと違うと思う」
「わかってるよ。おまえはそれでも言い寄られるんだろうけど、俺のはモテないだけだよ」
「そういうことでもなくて」
珍しく言い淀んだ笹原に、悠生は軽口を呑み込んだ。分厚いレンズの先で、躊躇いを呑み込むように笹原が笑う。いつもの顔ではなかった。
「俺、どちらかというと、男のほうが好きだから」
突然の告白に、悠生は戸惑った。今まで他人の秘密なんて打ち明けられたことはない。どういう態度が正解なのかなんて知る由もない。けれど、顔にも態度にも出してはいけないということはわかった。
「そう、なんだ」
応じる声はいつもどおりのぶっきらぼうなものになっていただろうか。
自信はなかったけれど、笹原はどこかほっとしたように「そうなんだよ、実は」と繰り返した。その反応に、自分の対応が間違っていなかったらしいことを知る。
そうして。ふと自分の失言に気が付いた。
「なんか、悪かったな」
「え?」
「彼女いないの、とか聞いて」
思えば、あたりまえのように「彼女」なんて聞いてしまっていたけれど、笹原のように同性愛者の人間もいるのだから、頭から異性を相手にしていると決めつけるのは失礼だったのかもしれない。
――同性愛者なんて、珍しくなくて、でも珍しいって、知ってたはずなのにな。
沈黙に胃を痛めてうつむく。しばらくして笹原が小さく笑ったことが空気でわかった。
「悠生って」
「なんだよ」
「やっぱり、すごく真面目だね」
「人が珍しく素直に謝ってんのに」
「茶化してないよ。好きだなぁって思っただけ」
好き。笹原が衒いなくよく使う言葉だ。それなのに、胸に留めそうになってしまって慌てて打ち消す。
笹原が男を好きだと知ったからといって、それが自分に向けられる可能性があるかもしれないなんて。妄想にしてもあまりにもあさましい。そんな悠生の心境なんて知らない顔で、笹原は続ける。
「悠生はまっすぐだから、俺、すごく楽なんだよ」
「そう? じゃあ、俺の話でもしようか」
主語もなにもない悠生のぼやきを、笹原はしっかり理解したようだった。その上で、さらりと笑う。
「とっておきの秘密の話」
「秘密の話?」
「そう。はじめて誰かにする話」
言葉とは裏腹の、茶化すような調子。その調子のまま、内緒だよ、というように唇に指先を当てる。悠生は思わず
眉をひそめた。
「女子か」
「はは、悠生もやってみる?」
「やらねぇよ」
「残念。似合いそうなのに」
「おまえな」
「冗談、冗談。似合いそうっていうのは嘘じゃないけど」
本当に、よく笑う男だと思う。悠生が笹原の顔を想像するとき、笑っている顔しか浮かばない程度には。その顔が、一度夜空を見上げ、そうして悠生を見た。
「俺ね、女の子を本気で好きになったこと、ないんだよね」
「……俺もないけど」
笹原のそれとは理由は違うかもしれないが。憮然と応じた悠生に、どこか困ったように笹はが眉を下げた。
「うーん、たぶん、俺のとは、ちょっと違うと思う」
「わかってるよ。おまえはそれでも言い寄られるんだろうけど、俺のはモテないだけだよ」
「そういうことでもなくて」
珍しく言い淀んだ笹原に、悠生は軽口を呑み込んだ。分厚いレンズの先で、躊躇いを呑み込むように笹原が笑う。いつもの顔ではなかった。
「俺、どちらかというと、男のほうが好きだから」
突然の告白に、悠生は戸惑った。今まで他人の秘密なんて打ち明けられたことはない。どういう態度が正解なのかなんて知る由もない。けれど、顔にも態度にも出してはいけないということはわかった。
「そう、なんだ」
応じる声はいつもどおりのぶっきらぼうなものになっていただろうか。
自信はなかったけれど、笹原はどこかほっとしたように「そうなんだよ、実は」と繰り返した。その反応に、自分の対応が間違っていなかったらしいことを知る。
そうして。ふと自分の失言に気が付いた。
「なんか、悪かったな」
「え?」
「彼女いないの、とか聞いて」
思えば、あたりまえのように「彼女」なんて聞いてしまっていたけれど、笹原のように同性愛者の人間もいるのだから、頭から異性を相手にしていると決めつけるのは失礼だったのかもしれない。
――同性愛者なんて、珍しくなくて、でも珍しいって、知ってたはずなのにな。
沈黙に胃を痛めてうつむく。しばらくして笹原が小さく笑ったことが空気でわかった。
「悠生って」
「なんだよ」
「やっぱり、すごく真面目だね」
「人が珍しく素直に謝ってんのに」
「茶化してないよ。好きだなぁって思っただけ」
好き。笹原が衒いなくよく使う言葉だ。それなのに、胸に留めそうになってしまって慌てて打ち消す。
笹原が男を好きだと知ったからといって、それが自分に向けられる可能性があるかもしれないなんて。妄想にしてもあまりにもあさましい。そんな悠生の心境なんて知らない顔で、笹原は続ける。
「悠生はまっすぐだから、俺、すごく楽なんだよ」
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