きっと世界は美しい

木原あざみ

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12.観測(3)

「俺は楽しかったんだけど、兄貴たちはそうじゃなかったみたいで。終わったらすぐに二人で遊びに行って、それっきり」

 それもいつものことではあったし、兄たちにも悪気があったわけではないとわかっている。
 兄たちと悠生は少し年も離れていたし、アウトドア派の兄たちとインドア派の悠生とでは興味の方向性が違っていてあたりまえだ。

「俺がなかなかそこから離れなかったから、珍しく親父が星座盤を買ってくれて」
「へぇ、星座盤。いいね。今はアプリとかでも見れちゃうんだろうけど、自分の手で調べるのってやっぱりいいなって思う」
「……うん」
「持ってきてるんでしょ」
「え?」
「星座盤。悠生のことだから、持ってきてるのかなって思って。一緒に見ようよ」

 何年も前に買ってもらったと言ったのに、まだ自分が持っていることも、一人暮らし先に一緒に持ってきたことも疑っていない顔だった。
 居た堪れなくなって、ふいと悠生は視線を逸らした。そして、小さく呟く。

「探しとく」

 実家の部屋から段ボールに詰めて持ってきて、今もそのまま押し入れの中だ。

「お願い。テスト明けの楽しみにさせてよ。また一緒に見よう?」

 また、一緒に。その言葉がゆっくりと沈んでいく。
 はじめてこのベランダで言葉を交わしたとき、悠生は少しのあいだのことだと思っていた。自分に嫌気が差して笹原も距離を置くようになる、と。
 夏になる前にも思った。優しくされるこの距離に慣れたら、離れるときに辛くなる。だから、弁えろ。そう思っていた。

 ――でも、もう、無理だ。

 諦念に近いそれに、内心で苦笑する。
 いまさらどう予防線を張り巡らしたって、もう無意味だ。笹原がいなくなったら、きっと今までで一番、苦しい。想像だけでダメージを負う自分に戸惑いながら、悠生はやっとの思いで頷いた。
 笹原が新しい誰かを見つけて去って行く。そのときが少しでも遠いことを祈るしかできない気分だった。

「悠生さ、お節介なこと言ってもいい? 今、なんで自分が、俺に昔のことを話したのか不思議に思ってない?」
「え……」

 驚いて、笹原を見上げる。勝手にこぼれ落ちたとしか表現できないと思っていたことだったからだ。目が合った笹原が、優しい顔でほほえむ。

「またしてる。なんでわかるんだって顔」

 なにを考えているのかわからないと評されてばかりのこの顔は、笹原の目にどう映っているのだろう。言い当てられるたびに、悠生は不思議に思ってしまう。

「寂しかったんだと思うよ、そのときの悠生」
「寂しかった?」
「うん。俺の想像だけど。プログラム上映をはじめて見て綺麗だ、すごいって、きっと感動したんでしょ。その気持ちをお兄さんたちとも共有したかったんじゃないかな」

 心を奪われたあの映像を。星たちのきらめきを。

「綺麗なものを見たときは、誰かにその感動を伝えたいじゃない。今みたいに」

 つまりそれは、今こうして共有しているから、共有できなかったときの寂しさをいまさらになって意識したのだ、と。そう言いたいのだろうか。
 ますます居た堪れなくなって、悠生は前髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜてうつむく。ささくれ立っているわけではない心は、星を数えても落ち着かない気がしたからだ。
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