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二人分の皿が綺麗になったところで、悠太が皿を重ね始めたので、航平も慌てて立ち上がって皿を持とうとする。
「なあ、片付け手伝っていい?厨房入るなって言うなら、カウンター拭いたり、店の掃除手伝うけど……」
さすがにこの朝食がタダでできているとは航平も思っていないし、手間暇をかけてくれたことは目の前で見ていたのでそう申し出るが、意外な展開に驚いたと言わんばかりに悠太の目が見開かれる。
何かおかしなことを言っただろうかと首をかしげてから、もしかしてモーニングも有料だったのではないかと思い至る。
「あ、金……昨夜のも今朝のも払っていくし、心配しないで」
「え、ああ……うん。ワインの分だけでいいよ」
「つまみだって、朝飯だっていっぱい用意してもらったし、それはさすがに……」
「俺も飲んだし、食ったし、それでいい。……掃除も手伝ってくれるんだろ?カウンター拭いて、床軽く掃いといてよ。昨夜は航平しかいなかったからそれで十分」
先ほどの数秒の空白などなかったかのように、悠太はテキパキと指示を出して厨房に入っていく。それから真っ先に航平に台拭きを手渡して洗い物をはじめた。
しばらくは先ほどのような無言が続き、航平も慣れないながらも丁寧にテーブルを拭いていく。二人分のパンのカス以外はベタつきもシミもないテーブルは、普段から大事にされているのが感じられる。
いかついのに、面倒見がよくて、意外とマメな悠太らしさがそこにもあるような気がして、自然と航平の口元が緩んだ。
「……俺さ、元カレ全員ダメな男で」
「へ……あー、うん。」
穏やかさに割って入るように、ぼそっと悠太が口を開く。思えば昨夜は航平ばかりが話をしていて、悠太自身の話は初めてかもしれないと、ほうきを持つ手が止まった。
日がだいぶ高くなってきて、何を考えているかわからないが、悠太がほんの少し言いづらそうにしている顔がはっきりと見える。
外は繁華街だからか、引き続き正月モードだからか、車の音一つ聞こえず、悠太の声が何のノイズもなく航平の耳に入ってきた。
「みんな俺がやるのが当たり前って感じだったし、航平も元カレと同じ匂いするし、手伝うとか、金払うとか、ちょっと意外だった」
「……俺、ダメ男?」
「グズグズしてるダメ男だよ」
昨夜の悠太のようにうまく慰められれば良いのだが、こういうとき航平の言葉は不自由で、不器用だった。
真っ先に冗談が出たのは不謹慎だったかと思ったが、悠太が吹き出して笑ってくれたので、まあ良いかと肩をなでおろした。
「悠太はいいヤツだけど、母ちゃんでもないしさ、良くしてもらったらやっぱり返さなきゃだろ」
しばらく間をおいて、自然と心から出てきた言葉をそのまま伝えるが、悠太はそれに何も返さなかった。空気が気まずくなかったので、きっと悠太にも悪いものでなかったように感じて、航平はそのまま掃除を続ける。
冬の昼間特有の、暖かくて緩い時間が昼寝のように二人の間を漂い出した頃、掃き掃除も終わって航平は顔をあげた。
「ありがとう。助かった」
「いや、これくらいならいつでも手伝うよ」
悠太はほうきとちりとりを航平の手から奪うと、それを先ほどあった場所に戻して、急に両手に指を絡めだした。
手を握られただけではあるのだが、細いのに節が目立つ指で手首や手のひらをなぞってからいわゆる恋人つなぎのようにするものだから、航平の背筋も無意識に震えて昨夜の余韻を思い出す。
「……俺、航平のこと気に入っちゃった。」
「は、い?」
「俺の恋人にしたい。昨夜咥えたんだし、男ダメってわけじゃないんだろ?」
昨夜の出来事は航平にとっては事故に近いが、おぼろげな記憶では自然と悠太にそうしてやりたいと思って、一番敏感なところに舌を絡めた。
これまで経験がなかっただけで、実は身体が男か女かなんてあまり関係なかったのかもしれない。
それに悠太と付き合ったらって妄想もしかけたので、航平にとっても嬉しいはずではあるのだ。
しかし、それでも昨夜会ったばかりだとか、酔った勢いで抱けただけでは、とか言い訳だけが心の中をこだまする。
確かなことは、悠太という人が航平にとって心地好く、また会いたい人だということだ。
優柔不断に視線をさまよわせ、戸惑いを隠さない航平の様子に、悠太も少し情熱が冷めてきたのか、大きくため息をついた。
それがどんな熱のものなのか知りたくて、そっと上目遣いに悠太を覗いてみると、呆れたような、それでもどこか優しい表情がこちらに向いている。
「いいもダメも言わないとか、ほんと航平ってズルいよな」
「ぁ……ごめッ」
「いいよ。俺はお前の曖昧にしときたいズルさを許してあげる。昨夜みたいに一晩中二人きりで話も聞くし、デートもしてもいい」
手だけは力強く握ったまま淡々と悠太が言い出した。
胸を撫で下ろした航平の心は結論を出すのに猶予をもらえた安心半分、悠太に対する警戒半分。
この優しさが航平を逃さない罠なのか、それともダメ男たちが浸かってきたぬるま湯なのか、航平にはすぐに判断することはできなかった。
安心と困惑を同時に表情に浮かべる航平を鋭く見つめたまま、悠太は繋いだ指先を自分の少しカサついた唇に当てる。
「でも、セックスはしない。俺を抱きたかったらきちんとしろ。ちさちゃんのことも」
「は……はい……」
航平は悠太というぬるま湯に飛び込みたいような気持ちにさせられたが、途端に大きな宿題を突きつけられて、とりあえずうなずくことしかできなかった。
神様、仏様。昨日必死にお願いをしましたが、御縁を運んでくるのが早すぎやしないでしょうか――。
即日運んできたものの、縁を結べるかどうかは航平次第。神様の仕事が杜撰なのか、あるいは航平の優柔不断さがひどいのか。
この先は神様も知らないのかもしれないと、航平はため息をついて、困ったような顔で悠太を見つめた。
悠太の温かくも鋭い瞳から逃げようという気が起こらない時点で結末は決まっているようなものだと、航平はまだ気づいていなかった。
「なあ、片付け手伝っていい?厨房入るなって言うなら、カウンター拭いたり、店の掃除手伝うけど……」
さすがにこの朝食がタダでできているとは航平も思っていないし、手間暇をかけてくれたことは目の前で見ていたのでそう申し出るが、意外な展開に驚いたと言わんばかりに悠太の目が見開かれる。
何かおかしなことを言っただろうかと首をかしげてから、もしかしてモーニングも有料だったのではないかと思い至る。
「あ、金……昨夜のも今朝のも払っていくし、心配しないで」
「え、ああ……うん。ワインの分だけでいいよ」
「つまみだって、朝飯だっていっぱい用意してもらったし、それはさすがに……」
「俺も飲んだし、食ったし、それでいい。……掃除も手伝ってくれるんだろ?カウンター拭いて、床軽く掃いといてよ。昨夜は航平しかいなかったからそれで十分」
先ほどの数秒の空白などなかったかのように、悠太はテキパキと指示を出して厨房に入っていく。それから真っ先に航平に台拭きを手渡して洗い物をはじめた。
しばらくは先ほどのような無言が続き、航平も慣れないながらも丁寧にテーブルを拭いていく。二人分のパンのカス以外はベタつきもシミもないテーブルは、普段から大事にされているのが感じられる。
いかついのに、面倒見がよくて、意外とマメな悠太らしさがそこにもあるような気がして、自然と航平の口元が緩んだ。
「……俺さ、元カレ全員ダメな男で」
「へ……あー、うん。」
穏やかさに割って入るように、ぼそっと悠太が口を開く。思えば昨夜は航平ばかりが話をしていて、悠太自身の話は初めてかもしれないと、ほうきを持つ手が止まった。
日がだいぶ高くなってきて、何を考えているかわからないが、悠太がほんの少し言いづらそうにしている顔がはっきりと見える。
外は繁華街だからか、引き続き正月モードだからか、車の音一つ聞こえず、悠太の声が何のノイズもなく航平の耳に入ってきた。
「みんな俺がやるのが当たり前って感じだったし、航平も元カレと同じ匂いするし、手伝うとか、金払うとか、ちょっと意外だった」
「……俺、ダメ男?」
「グズグズしてるダメ男だよ」
昨夜の悠太のようにうまく慰められれば良いのだが、こういうとき航平の言葉は不自由で、不器用だった。
真っ先に冗談が出たのは不謹慎だったかと思ったが、悠太が吹き出して笑ってくれたので、まあ良いかと肩をなでおろした。
「悠太はいいヤツだけど、母ちゃんでもないしさ、良くしてもらったらやっぱり返さなきゃだろ」
しばらく間をおいて、自然と心から出てきた言葉をそのまま伝えるが、悠太はそれに何も返さなかった。空気が気まずくなかったので、きっと悠太にも悪いものでなかったように感じて、航平はそのまま掃除を続ける。
冬の昼間特有の、暖かくて緩い時間が昼寝のように二人の間を漂い出した頃、掃き掃除も終わって航平は顔をあげた。
「ありがとう。助かった」
「いや、これくらいならいつでも手伝うよ」
悠太はほうきとちりとりを航平の手から奪うと、それを先ほどあった場所に戻して、急に両手に指を絡めだした。
手を握られただけではあるのだが、細いのに節が目立つ指で手首や手のひらをなぞってからいわゆる恋人つなぎのようにするものだから、航平の背筋も無意識に震えて昨夜の余韻を思い出す。
「……俺、航平のこと気に入っちゃった。」
「は、い?」
「俺の恋人にしたい。昨夜咥えたんだし、男ダメってわけじゃないんだろ?」
昨夜の出来事は航平にとっては事故に近いが、おぼろげな記憶では自然と悠太にそうしてやりたいと思って、一番敏感なところに舌を絡めた。
これまで経験がなかっただけで、実は身体が男か女かなんてあまり関係なかったのかもしれない。
それに悠太と付き合ったらって妄想もしかけたので、航平にとっても嬉しいはずではあるのだ。
しかし、それでも昨夜会ったばかりだとか、酔った勢いで抱けただけでは、とか言い訳だけが心の中をこだまする。
確かなことは、悠太という人が航平にとって心地好く、また会いたい人だということだ。
優柔不断に視線をさまよわせ、戸惑いを隠さない航平の様子に、悠太も少し情熱が冷めてきたのか、大きくため息をついた。
それがどんな熱のものなのか知りたくて、そっと上目遣いに悠太を覗いてみると、呆れたような、それでもどこか優しい表情がこちらに向いている。
「いいもダメも言わないとか、ほんと航平ってズルいよな」
「ぁ……ごめッ」
「いいよ。俺はお前の曖昧にしときたいズルさを許してあげる。昨夜みたいに一晩中二人きりで話も聞くし、デートもしてもいい」
手だけは力強く握ったまま淡々と悠太が言い出した。
胸を撫で下ろした航平の心は結論を出すのに猶予をもらえた安心半分、悠太に対する警戒半分。
この優しさが航平を逃さない罠なのか、それともダメ男たちが浸かってきたぬるま湯なのか、航平にはすぐに判断することはできなかった。
安心と困惑を同時に表情に浮かべる航平を鋭く見つめたまま、悠太は繋いだ指先を自分の少しカサついた唇に当てる。
「でも、セックスはしない。俺を抱きたかったらきちんとしろ。ちさちゃんのことも」
「は……はい……」
航平は悠太というぬるま湯に飛び込みたいような気持ちにさせられたが、途端に大きな宿題を突きつけられて、とりあえずうなずくことしかできなかった。
神様、仏様。昨日必死にお願いをしましたが、御縁を運んでくるのが早すぎやしないでしょうか――。
即日運んできたものの、縁を結べるかどうかは航平次第。神様の仕事が杜撰なのか、あるいは航平の優柔不断さがひどいのか。
この先は神様も知らないのかもしれないと、航平はため息をついて、困ったような顔で悠太を見つめた。
悠太の温かくも鋭い瞳から逃げようという気が起こらない時点で結末は決まっているようなものだと、航平はまだ気づいていなかった。
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