縁結びの神様は仕事が早い

松山あき

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悠太編

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『お前といると俺がダメになる。別れてくれ』

 元日の朝、悠太は最悪な夢を見て目が覚めた。
 三ヶ月ほど前に別れた恋人は、世話焼きすぎる悠太にそう言って去っていった。

「っつーか、お前は最初からダメだったじゃねえか……」

 別れた当初はショックも受けていたが時間が経てば毒を吐ける程度には落ち着いてくる。
 外面のいい男だった。外資系の支社に勤める身なりのいい男だが、半同棲状態になってから本性が見えてきた。
 朝寝坊はする、三食上げ膳据え膳、家事は一切やらなかった。何でもいいと言いながら食事の内容にケチをつけ、会社の愚痴も多かったが、借金もなく、ギャンブルも浮気もしないのは良いところだった、と悠太は振り返る。

 悠太の恋愛遍歴は友人たちの間でも度々話題になる。過去、ワインバルを一緒にやっていた男は突然蒸発した。その前は七股、不倫男、二十歳の頃に初めて付き合った男は彫師で、悠太の身体を傷つけるだけ傷つけて、あっさり結婚してしまった。
 噂ではタトゥーを皮膚科手術で消して真っ当な生活をしているらしい。

 夜の街は倫理観がズレた人間でないと長く息はできないが、とっておきのダメ男ばかりを引く悠太に、友人たちは「ダメ男製造機」「ダメ男ホイホイ」とあだ名をつけた。
 それもこれも悠太の世話焼き体質が原因だとも言われたが。

 そんな昔の恋人たちの顔を思い浮かべては憂鬱な新年を迎えてしまい、思わずため息がこぼれてしまう。
 だが気分は重くとも仕事はある。この街では初詣一つとっても仕事だ。
 地元の神社に行って祈祷をしてもらい、玉串を奉納し、お札を店に飾る。
 たったこれだけのことだが、神社と繋がりがあることが繁華街の仲間の証しでもある。繁華街の仲間になれない店はすぐに潰れる。そういう世界だと、二十代半ばにして悠太も悟っていた。

 軽く身だしなみを整えれば、車を走らせて神社に向かう。
 朝寝坊したせいか参拝客はすでに列を成していて、参拝するだけで十五分はかかりそうだ。その後寒空の下で祈祷を受けることを考えて、悠太はげんなりとした気分になる。
 そのすぐ目の前には同じくらいの歳の男女が着物を着ていて、風が拭くたびに「寒いね」と言い合っていた。
 その何気ないことを何度も言い合えるのは羨ましくもあり、このやり取りいつまで続くんだと苛立たしくもある。
 観察を続けるのもバカらしくなって、スマホ片手に新年の挨拶をしながら悠太はあくびを一つした。

 無事に祈祷を済ませ、御札も熊手も購入してから、悠太は最後におみくじを引く。
 商売は運でもあるし、験担ぎみたいなものだ。

 何のこだわりもなく最初に触れたおみくじを掴み上げて広げると、今年は「大吉」。幸先が良さそうだと、悠太の口角があがる。

 商売 利益あり。

 この神社は商売繁盛の神様でもある。そのお墨付きとあれば、店もまあまあ上手くやっていけるだろうと、悠太も頷いておみくじを縦四つに折り始める。

 待ち人 きます。はやいでしょう
 恋愛  我欲を捨て相手に寄り添うべし。成就

 そんな文言もあったが見て見ぬふりをする。元カレといい、過去の男たちといい、恋愛はしばらくお預けにしたい気分のまま、おみくじを結んで店へと戻った。

 元旦から店を開けるところは少ない。客の側も家族で過ごしているし、何よりどこか寂しい人間ばかりが集うここの人たちも正月くらいは本当に大事な人と過ごしたい。
 しかし、そこからあぶれるさらに寂しい人間もいるわけで。
 高校の同級生は結婚し家族や親戚と、店を通じて出会った友人たちも今日は恋人と過ごすと言っている。
 悠太は晴れてさらに寂しい人間の仲間となってしまい、傷を舐め合えるよう店を開けることにした。

 午後六時。すっかり暗くなった頃に看板を出すものの、しばらく人が来ないことはわかりきっていた。
 とりあえず日付が変わる頃まで待ってみて……その前でも嫌になればすぐに閉めればいいという軽い気持ちでいられるのは、この店の二階が悠太の家でもあるからだ。
 
 サブスクでテレビ番組を流してぼうっと見始めるが、今朝見た夢のせいで落ち着かない。
 この店は元カレと過ごした場所でもあり、その前の彼氏と経営していた場所でもある。どうしたって彼らの気配を消すことができない。
 
 セラーはアイツがどうしてもって言って高いの入れたな、あのダメ男はいつもカウンターの隅っこで飲んでいたな、と振り返るだけで悠太の瞳に影が落ちる。
 気持ちの整理はついても、悲しさや悔しさが消えるわけではない。

 やっぱり今日は閉めるかと悠太が立ち上がろうとしたとき、カランカランと客の来訪を告げるベルが鳴る。

「いらっしゃい。おにいさん、一人?」

 てっきり友人かと思ったが、そこにいたのは顔立ちも身なりも良いのに冴えない男。
 清潔そうに切りそろえられた髪をきちんとセットして、その下から不安そうな顔を覗かせていた。
 目の様子から店か自分に不満があるように悠太には見受けられたが、それでも客は客だと言い聞かせて案内をした。
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