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第二章 王都編
第三十八話 入学前夜 その2
しおりを挟む「こんな盛大なパーティだったら、来るんじゃなかったわ。どうしようこんな服で」
会場に入ったとたん、リベルタは帰りたいと言い出した。
リベルタの服は貸衣装屋で借りた、庶民がちょっとオシャレした程度のドレスだったらしい。オレには女性服の違いがよく分からなかった。
オレにとってはリベルタが一番だから、ドレスだろうが普段着だろうが、何でもいいんだが、……多分これ女性に言ったら怒られるやつだよね。
ディアはハミル家の侍女に呼ばれて、奥へと行っている。たぶんそこでハミル家が用意した制服に着替えるのだろう。
オレは自分で買ったカッコ悪い制服を着て来ている。
「リベルタお姉ちゃん、せめてディアの制服姿のお披露目だけでも見て、それからすく帰ろう」
「……そうね」
ハミル家の援助で学校に通うディアにとっては最低限、顔見せをしなくてはいけないらしいと待女に言われていたので、そう提案した。
リベルタは仕方なく頷いた。
オレとリベルタは目立たないように、会場の隅で飲物だけもらって時を待った。
だが、口さのない貴族たちの声がなんとなく耳に入ってくる。
「あそこにいる庶民の親子はなんでしょう」
「場違いだな」
「王立魔法騎士学校の制服を着ていますわね」
「大方、クラリッサ夫人が慈善で庶民を学校へ推薦しているのでしょう」
「お礼に来たのかな」
「食事を“たかり”に来た、の間違いじゃないのかね」
「夫人も物好きな」
「お優しい方なのですよ」
皆、好き勝手な事言っている。
オレが王立魔法騎士学校に行くことになったのは、シャーロットの護衛として白羽の矢が立ったからだし、ディアが行くことになったのはオレに断らせないようにするためだ。
最終的にはオレ達にもメリットが有ったので受け入れたが、けしてクラリッサ夫人の慈善でも好意でもない。
さらに言えば、こんな貴族の好奇な視線の中で、飯を“たかり”に来たなどありえない。オレ達だってこんな所にはいたくない。
リベルタにもその声が聞こえたのか、手に持った飲物をテーブルに置いて俯いてしまった。
こんな奴ら、ハリー爺さんのサウザンドニードルの刑にしてやりたい。しないけど。
リベルタは元がキレイなのだが、着ているドレスが豪華じゃないので蔑まれたようだ。
だったら、こんな事したらどうだろうか。
「光の精霊よ頼みがある。わずかに力を貸して欲しい。ここにいるリベルタの服を淡い光で包み、髪と首元をキラキラと輝かせて欲しい」
オレは小声で名もなき光の精霊にお願いをする。
髪や首元に宝石の着いたティアラやネックレスを、服はシルクのような光沢のある服に見えるようにイメージする。魔法はイメージが大切だからね。
精霊に願いが伝わったのか、オレの体からミストが少し抜けていくのが分かった。
するとリベルタのパステルグリーンの木綿の服が、シルクのような光沢を持った、それでいて淡い緑色をしている高級服に見えるように変わった。そして栗毛色の髪にはティアラ、首元にはネックレスが光っているように見える。
うん、思いつきで初めて試してみたが、上手くいったかな。
「えっ、あっこれ、JJくんがやったの? 」
急に服が淡い光沢を纏うようになって、リベルタが驚いてオレに聞いてきた。
(余計なおせっかいだったかな)
(きみに悲しい顔は似合わないよ)
(キレイだよ)
(キミは美人だから少し、派手な方が似合うよ)
ジーンだったら、色々答えはあるけど、子供だったらなんて答えればいいか思いつかず、「えっと、……何のこと」と、惚けてみた。
「ふふふ、優しいのね。ありがとう」
とりあえず間違いではなかったらしい。
『じーんハヤサシイ』『コノヒトモみすとイイニオイ』
光の精霊の声が聞こえた。
光の精霊はリベルタのミストを気に入ったようだ。リベルタにも精霊魔法の素質があるのかな。
ディアと親子だから可能性はあるけど、今まで聞いた事はなかった。
いつかタイミングがあったら聞いてみよう。
「あ、あれっ。あそこの女性、あんなに美人だったか」
「美人は美人だったけど、垢抜けない服を着ていたような」
「ちょっとそそられるね」
貴族の男達の囁く声を、名もなき風の精霊が拾ってきた。
良かったのか悪かったのか。
「よろしければ、少しお話させていただいてよろしいでしょうか」
突然、若い貴族の青年と思われる男がリベルタに声をかけてきた。
「失礼ですが、テレーズ男爵の忘れ形見のマリ・テレーズさまではございませんか、お久しぶりでございます。お忘れですかヘスス子爵家の二男、幼馴染のキリアン・ヘススです」
この男は何を言っているのだろう。明らかに二十歳前後の男が三十過ぎのリベルタと幼馴染のはずがない。まあ、リベルタは美人だし二十歳くらいには見えるけど。
「申し訳ございませんが、人違いではございませんか。私はリベルタと申す只の庶民でございます」
「これは失礼、ご紹介もなく、声をかけた無礼をお許しください。あまりの美しさに目が眩んで人間違いをしたようです。ですがせっかくです、お詫びと言ってはなんですが、お近づきの印によろしければあちらで一杯いかがですか」
間違いだと分かっても若い男は、リベルタが紅茶を飲んでいるのを見て、カウンターバーを指差して誘ってきた。
子供のシャーロットの入学祝のパーティなのにお酒があるんだ。貴族って理解に苦しむ。
「オレのような貴族と知り合いになれれば、いろいろお前にもいい事もあるだろう。この後どうだ、ん。断るのは得ではないぞ」
本性を現したのか、男はリベルタの耳元で小声で囁いた。
ようは、紹介されてもいない女性に声をかけるのは失礼だから、見間違えて声をかけた、という態をとった、ただのナンパのようだ。そして庶民と分かると貴族の特権をちらつかせて関係を迫る、まさにゲスな所業だ。
さっきまでは場違いだ、たかりだと言ってたくせに、リベルタが美人だと気づいたとたんに声をかけてきやがって。
「お誘いいただいて光栄です。ただ、本日は子供と一緒に参っておりますので、あまり酔うわけにも参りません」
そう言って、リベルタは側にいたオレの手を握った。
「子供……? 」
オレはすかさず、「ママ、このお兄ちゃん誰? 」とリベルタに聞いた。
「見た目ほど若くはございませんので」
「チッ」
目の前の女が自分よりもかなり年上と分かったのだろう。若い男はオレとリベルタを睨みつけながら去っていった。
「……怖かった」
一言リベルタが呟いた。オレの手を握ったリベルタの手が震えている。
気丈に対応したリベルタだったが本心では、貴族の身勝手な物言いと、刺すような視線を浴びせられ、結構怖い思いをしたようだ。
「大丈夫、ボクが付いてるよ」
オレはリベルタの手を強く握りかえした。
本当はジーンの姿を見せて、肩でも抱いてやりたい所なのだが。
ああ、フラウの大賢者探しはどうなっているのかな。
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