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10 表彰式
しおりを挟むそして兄ジェラルドの表彰式を兼ねた婚約発表の場に出席する為、宮殿に向かった。
アナスタシアと盛大な式を挙げたことが、つい最近のように思い出される。
表彰式に向かう前は、ドレスが気に入らないと駄々を捏ね続けていたクララは、今は初めてのパーティーに浮き足立っている。
兄と婚約者となるお相手が主役なのだから、クララは目立つような格好をする必要は微塵もないのだが、自分のことしか考えていない。
兄に恥をかかせない為にも、お願いだから口を開かないでくれと頼みこんだ。
会場に案内され、煌びやかな装飾に目が眩む。
出席者は三百人程いるだろうかと思いながら、辺りを見回した。
笑顔で会話をしていた人々が口を閉じて、一斉に私達に冷ややかな視線を向ける。
まるで、なぜここにいるんだと目で語られて、堪らず喉を鳴らした。
「うわぁ~! すっごぉい! 私達が主役みたいだね?」
場違いな声が響いて、背中に大量の冷や汗が流れ落ちる。
だが、確かにクララの言う通り、私達が主役のようにも見える。
なぜなら、女性達は皆、派手さのない色味のシンプルなドレスを身に纏っているからだ。
自己主張するかのようなゴテゴテの装飾のついた鮮やかな赤色のドレスを身に纏うクララは、間違いなくこの会場の中で一番目立っているだろう。
それも、悪い意味でだが。
本日の主役の弟であるにも関わらず、壁の花にならざるを得ない。
すぐに退出出来るよう、入口に近い場所に移動しようとクララを導こうとすると、急にクララが「あっ」と声を上げる。
パートナーのいる男性に向かって「あの人かっこいい!」と指差しをしたのだ。
目の玉が飛び出そうになるが、強めに手を握って下げさせた。
会場のど真ん中に行きたがる彼女を強引にエスコートして、隠れるように隅に移動する。
クララと向き合い、喜色を滲ませる空色の瞳を真剣な表情で見つめる。
「クララ。目立つような行動はやめて欲しいと、何度もお願いしたじゃないか。私と兄に恥をかかせないでくれ」
「えっ? でも、無理だよ」
「そこをだな、」
「目立ちたくて目立ってるわけじゃないよ? 他の人たちとは、生まれ持ってのポテンシャルが違うんだもんっ」
唇を尖らせるクララに呆気にとられる。
この女は……何語を話しているんだ?
若い頃は、突拍子もないことを言うところや、前向きなところが可愛いと思っていたが、今は単なる愚者だ。
「…………いや、もういい。黙ってくれ」
とにかく空気になるよう意識したいのだが、嫌でも視線を集めてしまう。
なぜなら、クララは顔は良いのだ。
そして、私も。
悪目立ちしたくないのだが、と思いながら、初めて自分の美貌にうんざりする。
どうして身内の祝いの場で、肩身の狭い思いをしなければならないのだ。
いつもなら、私の隣には淑女の鏡であるアナスタシアがいた。
周囲からの羨望の眼差しを一身に浴びていたというのに。
現実逃避するように目を伏せて、アナスタシアのことを思い出す。
儚げな印象のアナスタシアもまた、極めて美しい女性だった。
容姿だけでなく、内面から滲み出る美しさも相まって、彼女の隣にいるだけで心が癒されていた。
私を立てるように一歩下がった立ち振る舞いで、夜会でも常に私を支えてくれていた。
彼女が私の妻になってくれた幸運を、いつも噛み締めていた。
そのことを当たり前だと思っていたことも、ましてや蔑ろにしたことなど、一度もないのだ。
自分でも飽きれてしまうほど、感謝の言葉と愛を囁いていた。
私はアナスタシアに夢中だった。
二度目の恋をしていたんだ。
いや、むしろアナスタシアが運命の相手だったと思っていた。
彼女こそが、私の真実の愛の相手なのだ。
それがどうして……。
アナスタシアが運命の相手と気付かずに、第二夫人を娶りたいなどと告げて、彼女を傷付けた。
当時は、自分が間違ったことをしているという認識が一切なかった。
か弱い女性を悪から助け、道徳的な行いをしていると思い込んでいた。
私は、悲劇の主人公気取りになっていたのだ。
自分のせいだと頭では分かっていても、隣で馬鹿みたいに既婚男性達に熱視線を送っている二人目の妻を見ると、苦々しい気分になる。
後悔しているところに、左胸元に幾つもの勲章が目立つ軍服を着こなした長身の男性が入場する。
本日の主役である兄が姿を現し、女性達から感嘆の吐息が漏れる。
男性陣からも憧憬の眼差しを向けられており、それは私とクララも同じである。
雲の上の存在を見ているかのように、遠くから兄の雄姿を眺める。
本来ならば近くで祝いたいのだが、総勢五百名は参加しているこの大舞台で、兄の足を引っ張ることなど到底出来ない。
私の隣に立つ、クルーズ伯爵家の顔汚しになる存在の手綱をしっかりと引いて、目頭が熱くなった。
兄の晴れの席を、いつも私を尊重してくれていた、愛するアナスタシアと共に祝いたかった。
ウィザース王国の国王陛下と親しげに言葉を交わす兄を、遠くから視線だけで賛辞を贈った。
皆が兄を見上げて割れんばかりの拍手をする中、私だけは涙を堪えて俯いていた。
「なにあれ! どういうことなのっ!」
耳を劈くような声に顔を上げれば、兄の隣に寄り添い、控えめに笑みを浮かべている女性がいた。
──私の最愛の人。
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