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11 異様な光景
しおりを挟む淡い青色のシンプルなドレスに身を包んだアナスタシアは、まるで花の妖精のようだった。
私と共に過ごしていた頃より健康そうで、病に伏していたとは思えないほど明るい顔色だ。
誰もがアナスタシアの美貌に目を奪われて、うっとりと嘆息する。
兄の婚約者として紹介され、まるで初婚のように祝福されている。
確かに白い結婚が認められれば、私との婚姻関係も真っ新な状況となるが。
それにしてもだ。
つい半年前まで、アナスタシアは私の妻だった。
それなのに、その兄と婚姻するなどと、普通ならありえないことであるし、いくら白い結婚とはいえ、女性は肩身が狭い思いをするはずだ。
白い結婚が認められた場合、夫に冷遇されていた哀れな女性と判断される。
もしくは、夫が不能である場合。
ただ、私の場合はクララが子を産んでいる為、後者はありえない。
だから、皆が揃いも揃って祝福している様子が異様すぎるのだ。
まるで、兄と婚約出来て本当に良かったと歓喜するような表情を浮かべている人々に、戸惑いを隠せない。
それになにより、私との結婚は無かったことになっている雰囲気だ。
アナスタシアと兄はどこで出会ったんだ。
彼女は今年二十一となり、兄とは五つも歳の差が離れている。
接点などないはずだ。
だが、ジェラルドが私の兄だということは知っているはず。
それなのに、どうしてわざわざ私の兄の婚約者になったのだ。
半年の間で私の事など忘れてしまったのか。
隣でぶつぶつとなにやら話している妻の声など、全く耳に入ってこない。
私の視界には、挨拶に来る貴族達に笑顔で応えるアナスタシアただ一人だ。
私も声を掛けたいが、まるで今の位置から一歩も動くなとばかりに、出席者達が私の周囲を取り囲んでいる。
それに、今更なんと声を掛けたら良いのかわからないし、祝いの席で謝罪するなど出来やしない。
遠くから愛する人を見つめていると、思わぬ人物が兄と親しげに話していた。
見覚えのある鮮やかな青色の髪の男性は、兄に肩を叩かれて無邪気な顔で笑っている。
「っ…………アーノルドが、どうして」
アナスタシアについていた執事だった男だ。
彼とアナスタシアは良好な関係だった為、祝福するのはわかる。
わかるが、なぜ軍服を着ているんだ。
私が友人達と雑談している際に、優秀な執事がいることを聞いて、私が密かに引き抜いた相手だ。
没落寸前のハミルトン男爵家を訪ねて、アナスタシアの執事になって欲しいと何度も足を運んで交渉した。
働いている姿も見てきたし、使用人達を纏め上げる腕は相当なものだった。
有能な執事であることは、自分の目でしっかりと確認している。
彼が軍人なはずはないのだ。
揺れる瞳が彼の周囲を映し、更に驚愕する。
アナスタシアについていた使用人全員が、笑顔で二人を祝福しているのだ。
──軍服を着て。
中には、冬の夕陽のような橙色の短髪が印象的な、庭師のジョナサンの姿もあった。
彼は、芸術的な庭が有名なユバル子爵家から、私が引き抜いた男だ。
他の使用人達もそうだ。
全てはアナスタシアが穏やかに過ごせるようにと、選りすぐりの人物達を私が探し出したのだ。
それなのにどうして、と混乱していると、アナスタシアと共に笑っているレベッカ夫人。
その隣にいる私の親友ギデオンが、申し訳なさそうにアナスタシアに頭を下げていた。
会話の内容を聞きたくて一歩足を踏み出せば、周囲から咎めるような視線を向けられる。
私に二人を祝福する権利はないとばかりに。
この式典の最中に、兄とアナスタシアに声を掛けることは諦めた。
だが、ギデオンとは話がしたい。
なぜなら、雑談中に有能な人物達の会話を切り出したのが、ギデオンだからだ。
何かしら知っていることがあるはずだ。
そう思い、縋るようにストーン夫婦に視線を向け続けていると、少し離れた場所から甘ったるい声が聞こえた。
視線を向ければ、隣にいたはずのクララが、儚げな美青年と談笑していたのだ。
失礼なことを口走っていないかと冷や汗が流れるまま、二人の元へ向かう。
「クララ!」
「やっば……」
へらりと苦笑いを浮かべるクララに険しい表情を向けていると、私達の顔を交互に見た美青年は、困ったように白銀の髪に触れながら謝罪する。
「申し訳ありません。パートナーがいる方とは露知らず、声を掛けてしまいました」
「いや、むしろ妻が何か失礼を……」
何事もないと笑顔で答えてくれた彼は、クララのような美しい人は初めて見たと、大絶賛していた。
もちろんクララも満更ではない様子で頬を染めて、熱視線を送っている。
外見だけで礼儀はなっていないが、とは口が裂けても言えなかったが、ここに来て初めてクララの存在を褒められて、少し安堵した。
肩に触れるほどの長さの白銀の髪に、肌は雪のように白く、線が細い中性的な容姿の美青年だ。
ドレスを着ていたら、女性と間違えていただろう。
生まれつき心臓に重い病をかかえていたため、王都から遠く離れた自然に囲まれた親戚の家で、幼い頃から療養していたそうだ。
社交界のことは何も知らず、今日が初めて出席したパーティーだったらしい。
だから私がクルーズ伯爵で、クララが妻だとは知らなかったようだ。
私が名乗ると、空色の大きな目を丸くした彼は深々と頭を下げる。
「ご挨拶が遅れました」
──義妹が大変お世話になっております。
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