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第5話 餌付けされた騎士団長、呪いの事情
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結局、その騎士様は追加で作った大盛りパスタと、デザートの焼きリンゴまでペロリと平らげてしまった。
見ていて気持ちがいいを通り越して、心配になるほどの食べっぷりだった。
「……ふぅ」
すべての皿を空にして、彼は満足げに息を吐いた。
私は食後の温かいハーブティーをそっと差し出す。
「どうぞ。お口直しに」
「ああ、すまない」
彼はティーカップを両手で包み込むように持つと、香りを楽しみ一口啜った。その所作は洗練されていて、育ちの良さを隠しきれていない。
落ち着いた頃合いを見計らって、私は恐る恐る尋ねてみた。
「あの……お口に合いましたか? そのすごい勢いだったので」
彼はハッとしたように顔を上げ、少し気まずそうに視線を逸らした。
さっきまでの鬼気迫る食事風景を思い出したのかもしれない。耳の先がほんのりと赤くなっている。
「……見苦しいところを見せた。だが、あんなに美味いものを食べたのは……三年ぶりだったんだ」
「三年ぶり、ですか?」
「ああ」
彼はカップを見つめたまま、ポツリポツリと語り始めた。
「俺は以前、魔獣討伐の際に『味覚を奪う呪い』を受けた。それ以来、何を口にしても砂や泥を噛んでいるような感覚しかなかったんだ。食事が苦痛でしかなかった」
「えっ……!」
私は息を呑んだ。
食事とは、生きるためのエネルギーであり、喜びだ。それがすべて砂の味だなんて、想像するだけでゾッとする。この屈強な体躯を維持するために、彼は三年間、砂の味に耐えながら無理やり胃に詰め込んでいたというのだろうか。
「高名な治癒術師や、王都の聖女にも診せたが、呪いは解けなかった。だから諦めていたんだが……」
彼はそこで言葉を切り、強い眼差しで私を見据えた。
「なぜか、お前の料理だけは味がした。素材の甘みも、ソースの塩気も、すべて鮮明にな」
「私の料理だけ……?」
私は首を傾げた。
特別なことは何もしていない。ただ新鮮な食材を使って、美味しくなるように【生活魔法】で下処理をしただけだ。
(……あ)
そこで一つの可能性に思い当たる。
私の【洗浄】や【下処理】といった魔法は、汚れや不純物を取り除くスキルだ。
もし、その力が極まりすぎて食材にかかった「微細な穢れ」だけでなく、食べる人の体に影響する「呪い」まで一時的に中和してしまったとしたら?
(まさかね。ただの生活魔法だし)
私はその考えを頭の隅に追いやった。
今は、目の前の彼が喜んでくれたこと、それだけで十分だ。
「それは良かったです! 料理人として、美味しいって言ってもらえるのが一番嬉しいですから」
私がニッコリと笑うと、彼は眩しいものを見るように目を細めた。そして懐から革袋を取り出し、カウンターにドンと置いた。
ジャラリ、と重たい音がする。
「代金だ。釣りはいらん」
「えっ、こんなに!?」
中身を確認するまでもなく、硬貨の音と重さでわかる。定食数回分どころではない金額だ。
慌てて返そうとする私を手で制し、彼は席を立った。
「明日も来る」
「は、はい?」
「昼も夜も来る。……迷惑か?」
入り口のドアノブに手をかけ、彼が振り返る。
その表情は、捨てられた子犬のように不安げで、さっきまでの「氷の騎士様」という威圧感はどこへやら。
私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ、とんでもないです! お客様は大歓迎ですよ。明日はもっと美味しいものを用意して待ってますね」
「……そうか。楽しみにしている」
彼はわずかに口元を緩めると、足取り軽く店を出て行った。嵐のような人だった。
私はカウンターに残された金貨の袋を手に取り、ずっしりとした重みを感じる。
「よし、常連客第一号ゲット! ……それにしても、あんな綺麗で強そうな人が常連さんになってくれるなんて、この店も安泰ね!」
私は上機嫌で空になった皿を片付け始めた。
見ていて気持ちがいいを通り越して、心配になるほどの食べっぷりだった。
「……ふぅ」
すべての皿を空にして、彼は満足げに息を吐いた。
私は食後の温かいハーブティーをそっと差し出す。
「どうぞ。お口直しに」
「ああ、すまない」
彼はティーカップを両手で包み込むように持つと、香りを楽しみ一口啜った。その所作は洗練されていて、育ちの良さを隠しきれていない。
落ち着いた頃合いを見計らって、私は恐る恐る尋ねてみた。
「あの……お口に合いましたか? そのすごい勢いだったので」
彼はハッとしたように顔を上げ、少し気まずそうに視線を逸らした。
さっきまでの鬼気迫る食事風景を思い出したのかもしれない。耳の先がほんのりと赤くなっている。
「……見苦しいところを見せた。だが、あんなに美味いものを食べたのは……三年ぶりだったんだ」
「三年ぶり、ですか?」
「ああ」
彼はカップを見つめたまま、ポツリポツリと語り始めた。
「俺は以前、魔獣討伐の際に『味覚を奪う呪い』を受けた。それ以来、何を口にしても砂や泥を噛んでいるような感覚しかなかったんだ。食事が苦痛でしかなかった」
「えっ……!」
私は息を呑んだ。
食事とは、生きるためのエネルギーであり、喜びだ。それがすべて砂の味だなんて、想像するだけでゾッとする。この屈強な体躯を維持するために、彼は三年間、砂の味に耐えながら無理やり胃に詰め込んでいたというのだろうか。
「高名な治癒術師や、王都の聖女にも診せたが、呪いは解けなかった。だから諦めていたんだが……」
彼はそこで言葉を切り、強い眼差しで私を見据えた。
「なぜか、お前の料理だけは味がした。素材の甘みも、ソースの塩気も、すべて鮮明にな」
「私の料理だけ……?」
私は首を傾げた。
特別なことは何もしていない。ただ新鮮な食材を使って、美味しくなるように【生活魔法】で下処理をしただけだ。
(……あ)
そこで一つの可能性に思い当たる。
私の【洗浄】や【下処理】といった魔法は、汚れや不純物を取り除くスキルだ。
もし、その力が極まりすぎて食材にかかった「微細な穢れ」だけでなく、食べる人の体に影響する「呪い」まで一時的に中和してしまったとしたら?
(まさかね。ただの生活魔法だし)
私はその考えを頭の隅に追いやった。
今は、目の前の彼が喜んでくれたこと、それだけで十分だ。
「それは良かったです! 料理人として、美味しいって言ってもらえるのが一番嬉しいですから」
私がニッコリと笑うと、彼は眩しいものを見るように目を細めた。そして懐から革袋を取り出し、カウンターにドンと置いた。
ジャラリ、と重たい音がする。
「代金だ。釣りはいらん」
「えっ、こんなに!?」
中身を確認するまでもなく、硬貨の音と重さでわかる。定食数回分どころではない金額だ。
慌てて返そうとする私を手で制し、彼は席を立った。
「明日も来る」
「は、はい?」
「昼も夜も来る。……迷惑か?」
入り口のドアノブに手をかけ、彼が振り返る。
その表情は、捨てられた子犬のように不安げで、さっきまでの「氷の騎士様」という威圧感はどこへやら。
私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ、とんでもないです! お客様は大歓迎ですよ。明日はもっと美味しいものを用意して待ってますね」
「……そうか。楽しみにしている」
彼はわずかに口元を緩めると、足取り軽く店を出て行った。嵐のような人だった。
私はカウンターに残された金貨の袋を手に取り、ずっしりとした重みを感じる。
「よし、常連客第一号ゲット! ……それにしても、あんな綺麗で強そうな人が常連さんになってくれるなんて、この店も安泰ね!」
私は上機嫌で空になった皿を片付け始めた。
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