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第15話 大繁盛の屋台、看板男の威圧感
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そして迎えた収穫祭の当日。
ノースガルドの中央広場は、朝から熱気と喧騒に包まれていた。色とりどりの旗が風にはためき、あちこちの屋台から肉を焼く匂いや甘い菓子の香りが漂ってくる。
「よし、開店よ!」
私は『陽だまり亭・出張所』の看板を掲げ、気合を入れた。
狭い屋台の厨房には、下準備を済ませた大量のメンチカツのタネと、山盛りのキャベツ、そして大鍋に入った揚げ油。
準備は万端だ。
そして、私の隣には――。
「…………」
腕を組み、仁王立ちで前を見据える巨大な黒い影。
『氷の騎士団長』ことクラウス様だ。
彼は「看板男」の約束通り、私の隣に立ってくれているのだが……。
(うーん、威圧感がすごい)
その鋭い眼光は、まるで敵の襲撃を警戒する歩哨のよう。道行く人々は、彼の姿を見ると「ひっ!」と息を呑んで道を避けていく。
「あの、クラウス様? もう少し笑顔でお願いします。お客さんが逃げちゃいますよ」
「……む。善処する」
彼はコクリと頷き、口角をピクピクと引きつらせた。
……うん、余計に怖いからやめておこう。
しかし、そんな心配は杞憂に終わった。
最初に声をかけてきたのは、常連の騎士団員たちだったからだ。
「おっ、団長! ここで何やってるんですか!?」
「エリーナさんの手伝いか? すげぇ、本気だ……」
「俺たちも買うぞ! メンチカツ5本くれ!」
彼らが一番客として豪快に買い食いをしてくれたおかげで、遠巻きに見ていた街の人々も「あ、買っていいんだ」と安心したらしい。
さらに揚げ油の音が食欲を刺激する。
ジュワァァァァッ!!
私は注文が入るたびに、特大のメンチカツを油に放り込む。
きつね色に揚がった衣からは、香ばしい匂いが爆発的に広がり、冷たい風に乗って広場中に拡散していく。
「へい、いらっしゃい! 『とろ~りチーズの爆弾メンチカツ』だよ!」
「熱いから気をつけてな!」
いつの間にか屋台の前には長蛇の列ができていた。
「一つください!」
「こっちは二つ!」
私は揚げたてのカツを紙に包んで渡す。
受け取った客が、その場でカブリと食らいつく。
ザクッ!
いい音が響く。
ハフハフと言いながら彼らが口を離すと、中から白濁としたチーズがとろりと溢れ出し、肉汁がじゅわりと滴る。
「うめぇ! なんだこれ、肉が甘いぞ!」
「チーズが伸びる! 最高だ!」
「ホットワインに合いすぎる!」
絶賛の声が連鎖し、行列はさらに伸びていく。
私は目の回るような忙しさだったが隣のクラウス様が意外な才能を発揮してくれた。
「……並ぶ時は二列だ。そこ、割り込むな」
「代金はこれだ。釣り銭は……ここにある」
「熱いぞ。火傷しても知らんぞ」
彼はその威圧感を逆に利用し、完璧な交通整理と会計を行っていたのだ。
無駄のない動き。正確な計算。そして何より、「辺境伯様から直接商品を受け取る」という異常事態に客たちが恐縮しつつも感激している。
「ふぅ……少し落ち着いたわね」
一波去ったところで、私は額の汗を拭った。
ふと見ると、クラウス様がじっとりとした目で揚げたてのカツを見つめている。
「あ、ごめんなさい! クラウス様の分、忘れてました」
私は一番形の良いものを串に刺し、彼に差し出した。
「はい、報酬です。お疲れ様でした」
「……待っていた」
彼は嬉しそうに目を細めると、私の手から串を受け取るのではなく――そのままパクりと自分の口を持っていった。
「えっ!?」
私の手は串を持ったまま。
つまり私が彼に「あーん」をしている状態だ。
彼はそんなこと気にも留めず、私の手元のカツを豪快に齧り取った。
「ん……美味い。やはり、お前の料理は格別だ」
口の端にソースをつけながら、彼は満足げに微笑んだ。その無防備な笑顔の破壊力たるや。
周囲の女性客から「キャーッ!」という黄色い悲鳴が上がり、私の顔はボッと音を立てて発火した。
(確信犯!? それとも天然!?)
心臓がバクバクとうるさい。
けれど、そんな幸せな空間を引き裂くように、広場の中央ステージから甲高い声が響き渡った。
「はーい、皆さぁーん! 注目ぅー!」
拡声魔法によって増幅されたその声は、間違いなくあのミリアのものだった。
見れば豪華に飾り付けられたステージの上に、純白のドレスを着たミリアと王太子アレクセイが立っている。
「これからぁ、聖女ミリアちゃんによる『奇跡の祝福』を始めまーす! みんな、ありがたく受け取ってねぇ!」
彼女の手には、なにやら禍々しいほど巨大な魔石の杖が握られていた。
ノースガルドの中央広場は、朝から熱気と喧騒に包まれていた。色とりどりの旗が風にはためき、あちこちの屋台から肉を焼く匂いや甘い菓子の香りが漂ってくる。
「よし、開店よ!」
私は『陽だまり亭・出張所』の看板を掲げ、気合を入れた。
狭い屋台の厨房には、下準備を済ませた大量のメンチカツのタネと、山盛りのキャベツ、そして大鍋に入った揚げ油。
準備は万端だ。
そして、私の隣には――。
「…………」
腕を組み、仁王立ちで前を見据える巨大な黒い影。
『氷の騎士団長』ことクラウス様だ。
彼は「看板男」の約束通り、私の隣に立ってくれているのだが……。
(うーん、威圧感がすごい)
その鋭い眼光は、まるで敵の襲撃を警戒する歩哨のよう。道行く人々は、彼の姿を見ると「ひっ!」と息を呑んで道を避けていく。
「あの、クラウス様? もう少し笑顔でお願いします。お客さんが逃げちゃいますよ」
「……む。善処する」
彼はコクリと頷き、口角をピクピクと引きつらせた。
……うん、余計に怖いからやめておこう。
しかし、そんな心配は杞憂に終わった。
最初に声をかけてきたのは、常連の騎士団員たちだったからだ。
「おっ、団長! ここで何やってるんですか!?」
「エリーナさんの手伝いか? すげぇ、本気だ……」
「俺たちも買うぞ! メンチカツ5本くれ!」
彼らが一番客として豪快に買い食いをしてくれたおかげで、遠巻きに見ていた街の人々も「あ、買っていいんだ」と安心したらしい。
さらに揚げ油の音が食欲を刺激する。
ジュワァァァァッ!!
私は注文が入るたびに、特大のメンチカツを油に放り込む。
きつね色に揚がった衣からは、香ばしい匂いが爆発的に広がり、冷たい風に乗って広場中に拡散していく。
「へい、いらっしゃい! 『とろ~りチーズの爆弾メンチカツ』だよ!」
「熱いから気をつけてな!」
いつの間にか屋台の前には長蛇の列ができていた。
「一つください!」
「こっちは二つ!」
私は揚げたてのカツを紙に包んで渡す。
受け取った客が、その場でカブリと食らいつく。
ザクッ!
いい音が響く。
ハフハフと言いながら彼らが口を離すと、中から白濁としたチーズがとろりと溢れ出し、肉汁がじゅわりと滴る。
「うめぇ! なんだこれ、肉が甘いぞ!」
「チーズが伸びる! 最高だ!」
「ホットワインに合いすぎる!」
絶賛の声が連鎖し、行列はさらに伸びていく。
私は目の回るような忙しさだったが隣のクラウス様が意外な才能を発揮してくれた。
「……並ぶ時は二列だ。そこ、割り込むな」
「代金はこれだ。釣り銭は……ここにある」
「熱いぞ。火傷しても知らんぞ」
彼はその威圧感を逆に利用し、完璧な交通整理と会計を行っていたのだ。
無駄のない動き。正確な計算。そして何より、「辺境伯様から直接商品を受け取る」という異常事態に客たちが恐縮しつつも感激している。
「ふぅ……少し落ち着いたわね」
一波去ったところで、私は額の汗を拭った。
ふと見ると、クラウス様がじっとりとした目で揚げたてのカツを見つめている。
「あ、ごめんなさい! クラウス様の分、忘れてました」
私は一番形の良いものを串に刺し、彼に差し出した。
「はい、報酬です。お疲れ様でした」
「……待っていた」
彼は嬉しそうに目を細めると、私の手から串を受け取るのではなく――そのままパクりと自分の口を持っていった。
「えっ!?」
私の手は串を持ったまま。
つまり私が彼に「あーん」をしている状態だ。
彼はそんなこと気にも留めず、私の手元のカツを豪快に齧り取った。
「ん……美味い。やはり、お前の料理は格別だ」
口の端にソースをつけながら、彼は満足げに微笑んだ。その無防備な笑顔の破壊力たるや。
周囲の女性客から「キャーッ!」という黄色い悲鳴が上がり、私の顔はボッと音を立てて発火した。
(確信犯!? それとも天然!?)
心臓がバクバクとうるさい。
けれど、そんな幸せな空間を引き裂くように、広場の中央ステージから甲高い声が響き渡った。
「はーい、皆さぁーん! 注目ぅー!」
拡声魔法によって増幅されたその声は、間違いなくあのミリアのものだった。
見れば豪華に飾り付けられたステージの上に、純白のドレスを着たミリアと王太子アレクセイが立っている。
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