偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

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第​14話 収穫祭の準備、専属の看板男

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 ノースガルドの街に一年で最も賑やかな季節がやってきた。

 『収穫祭』。

 厳しい冬を迎える前に大地の恵みに感謝し、食べて飲んで騒ぐ、北の大地における最大のお祭りだ。

​「よし、今年の『陽だまり亭』は屋台で勝負よ!」

​ 私は厨房で気合を入れた。
 祭りの期間中、街の中央広場には無数の屋台が並ぶ。私の店もそこに出店することにしたのだ。
 店舗で待っているだけじゃつまらないし、何よりお祭り騒ぎは大好きだ。

​ 今回の勝負メニューは――『とろ~りチーズの爆弾メンチカツ串』。
​ オーク肉と野菜を混ぜ込んだ特大のタネの中に、濃厚なチーズをたっぷりと仕込む。それをサクサクの衣で包んで揚げ、片手で食べられるように串に刺したものだ。

 寒空の下、熱々の揚げ物を頬張る。

 想像しただけで最高じゃない?

​「【混合ミキシング】! 【成形モールディング】!」

​ 私は魔法を使い、ボウルの中のひき肉とみじん切り野菜を一瞬で混ぜ合わせ、均等な大きさの丸い形にしていく。
 普通なら手が脂でベタベタになる作業も、生活魔法なら指一本汚れない。これぞ文明の利器、まあ、魔法だけど。

​カラン、コロン。

​ 準備をしているとドアベルが鳴った。

​「いらっしゃいませー……あら、クラウス様」

​ 入ってきたのは、非番なのかラフな私服姿のクラウス様だった。
 黒のタートルネックにロングコート。シンプルだけど、モデルのように様になっていて悔しいほど格好いい。

​「……準備中か」

​「はい。収穫祭の仕込みを少し。あ、よかったら試食していきませんか?」

​ 私が揚げたての一本を差し出すと、彼は目を輝かせてカウンターに座った。

サクッ。

 彼がメンチカツにかぶりつくと、軽快な音が響く。

 次の瞬間。

​「ん……っ」

​ カリカリの衣の中から熱々の肉汁と、白くとろけたチーズが溢れ出した。彼が口を離すと、チーズが糸を引いてとろ~りと伸びる。

​「……熱い。だが、美味い」

​ 彼はハフハフと息を吐きながら幸せそうに咀嚼する。

​「肉の旨味と、チーズのコク……それにこの衣の食感。これは暴力的な味だ。酒が進みすぎる」

​「ふふ、気に入っていただけて何よりです。当日はこれと、ホットワインをセットで売る予定なんです」

​「……当日は、俺も手伝う」

​「え?」

​ 唐突な申し出に、私はきょとんとした。

​「いえいえ、辺境伯様に売り子なんてさせられませんよ! それに警備の指揮とかあるんじゃ……」

​「警備はガイルたちに任せた。俺は非番だ」

​ 彼は最後の一口を飲み込むと、真剣な眼差しで私を見つめた。

​「それに、収穫祭は人が多い。酔っ払いや、質の悪い男も集まる。……お前が一人で屋台に立つなど心配で俺の気が持たん」

​「クラウス様……」

​「だから、俺が横に立つ。客寄せでも用心棒でも、なんでもやる」

​ その言葉に、私の胸がキュンと高鳴った。
 北の最強騎士団長を「看板男」にするなんて、なんて贅沢な屋台だろう。でも、彼の不器用な優しさが嬉しくて、私は素直に頷いた。

​「じゃあ……お言葉に甘えて、お願いします。その代わり、報酬はメンチカツ食べ放題でどうですか?」

​「……交渉成立だ」

​ 彼はニヤリと笑い、私の頬についた小麦粉をハンカチで優しく拭ってくれた。

​――そんな穏やかな私たちの様子とは裏腹に。

 窓の外、街の中央広場には、煌びやかな「聖女ステージ」が設営され始めていた。
 嵐の予感をはらんだ風が祭りののぼり旗をバタバタと揺らしていた。
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