婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜

咲月ねむと

文字の大きさ
11 / 44

第11話 カウンター越しの攻防戦

しおりを挟む
 ジークフリート様が来店した翌日から『陽だまり亭』は一種の観光名所と化していた。

「おい、ここが『氷の騎士』様が完食したっていう店か?」

「あの堅物が笑ったって本当か!?」

「いや、笑ってはいないらしいぞ。でも、店を出た時の顔が仏のようだったとか……」

 噂に尾ひれがついている気がするけれど、おかげで客足は途絶えない。

 私は嬉しい悲鳴を上げながら、ひたすら唐揚げを揚げ、角煮を煮込み、オムライスを巻き続けた。


 そして、その日の夕暮れ時。
 客足が少し落ち着いた頃を見計らったように、チリン、とドアベルが鳴った。入ってきたのは、フードを目深に被った長身の男性。
 けれど、その隙間から覗くプラチナシルバーの髪と店内の温度を一気に下げる冷気は隠せていない。

「い、いらっしゃいませ。ジークフリート様」

「……お忍びだ。名前を呼ぶな」

 彼はぶっきらぼうに言うと、テーブル席ではなく、私の目の前のカウンター席にドカッと座った。

 昨日よりも距離が近い。
 至近距離で見ると、その顔立ちは本当に整っている。長い睫毛にスッと通った鼻筋。ただ、眉間のシワだけが残念だ。

「……昨日のアレを頼む」

「唐揚げ定食ですね。かしこまりました」

 まるで秘密の取引のように小声で注文する彼に、私は苦笑しつつ準備を始めた。 

 ジュワワッという揚げ音が響くと、ジークフリート様――お忍び中は「ジーク様」と呼ぶことにしよう。彼はじっと手元を見つめてくる。
 監視されているようで緊張するけれど、その瞳は獲物を狙う鷹のように真剣だ。

「……お待たせしました」

 揚げたての唐揚げを出すと、彼は「うむ」と短く頷き、早速フォークを手に取った。
 一口食べた瞬間、またしても彼の眉間のシワがスゥッと消えていく。

「……やはり、これだ」

 彼は独り言のように呟いた。

「城のシェフに同じものを作らせたが、何かが違った。形も味も似ているはずなのに、頭痛が治まらんのだ」

「それはそうですよ。料理は生き物ですから」

 私はカウンター越しに微笑んだ。

 料理には、無自覚ながら「魔力」という名のスパイスが入っているのだから、普通のシェフに再現できるはずがない。
 彼は黙々と食べ進め、あっという間に完食した。そして食後の温かいお茶を飲みながら、ふと視線を調理台の隅に向けた。
 そこには、私が試作のために置いていた「卵」と「牛乳」と「砂糖」が並んでいる。

「……次は、何を作るつもりだ?」

「え? ああ、これですか? 少し甘いものでも作ろうかと思いまして」

「甘いもの……」

 その単語を聞いた瞬間、ジーク様の瞳がわずかに揺れた。ピクリ、と片眉が上がる。
 無表情な鉄仮面の下に、一瞬だけ「子供のような好奇心」が見えた気がした。

「ジーク様は、甘いものはお好きですか?」

「……騎士たるもの、味の好みなど戦場では無意味だ。出されたものは何でも食う」

 彼はフイッと視線を逸らした。
 けれど、その耳がほんのりと赤い。

 そして帰り際にボソリと言ったのだ。

「……だが、疲労回復には糖分が必要だという説もある。……試食が必要なら、協力してやらんでもない」

 そう言い残し、彼は足早に店を出て行った。
 残された私は、きょとんとしてその背中を見送る。

「あれって……もしかしなくても、甘いものが食べたいってこと?」

『ワンッ!』 

 足元でルルが呆れたように鳴いた。

 私はクスリと笑った。

 あの強面の辺境伯様が甘党? なにそれ、可愛いじゃない。

「よし、明日はとびきり甘くて優しい『アレ』を作って、驚かせてあげましょうか」

 私はウキウキしながら新鮮な卵を手に取った。
 攻略難易度S級の「氷の騎士」様も、スイーツの前では形無しになるかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

処理中です...