宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
24 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで

第24話 アークゲート家を案内される

しおりを挟む
 アークゲート家の屋敷は入口からぐるっと一周廊下が続いているらしい。当主の執務室のような重要な部屋は2階にあるということで、今回は1階のみの紹介になるとのことだった。けど屋敷はかなり広くて、曲がり角を二回曲がるまでにも多くの部屋を紹介してもらった。

 この後俺達が集まることになる応接間に、魔法の訓練が出来る訓練所も紹介してもらった。特に訓練所はフォルス家のものとは少し異なっていて、見たことのない器具が多く置かれているのが印象的だった。

 使用人の詰め所とかは扉の前での紹介になったけど、案内の最中にも何人かのメイドや執事とすれ違ったり出会ったりして、深く頭を下げられてしまった。誰もが見てて惚れ惚れするような綺麗な礼だった。

 そうして二回目の角を曲がってすぐの部屋をシアが開く。彼女の背中越しに見えたのは小さな教室のようだった。奥には黒板があって、その前には小さな椅子が二つ置かれている。他にも豪華なソファーやテーブルなども置かれていて、子供がここで過ごすことが出来る環境が整っていた。

「あぁ、そういえばこんな部屋もありましたね」

「……シア?」

 先ほどまでの分かりやすい解説とは違って、シアはまるでこの部屋に久しぶりに来たかのように言った。彼女に視線を移す途中で目に映った小さな椅子は、長い事使われていないようだった。

「えっと……ここは確か魔法に関して勉強する教室だったと思います。先ほどの訓練所はたまに行ったのですが、こちらは私とは無縁の場所でして、忘れていました」

 私とは無縁の場所、というのは、幼い頃のシアでは入れなかった場所ということだろう。俺がフォルス家で誰からも教わらなかったように、彼女もまた、魔法を教わることすらできなかったということか。
 ちょっとだけ嫌なことを思い出させてしまったなと申し訳なく思ったけど、今のシアの笑顔には曇った様子はない。昔は昔、今は今ということで、もう気にしていないのかもしれない。

 それにしても、と思ってもう一度だけ部屋の中を見た。椅子が二つあるってことは、シアのお姉さんとオーロラちゃんのだろう。そう思ってオーロラちゃんを見れば、目が合った彼女は首を傾げた。

「まあ、ここは良いでしょう。隣は……図書室ですね、こちらを案内します」

 シアは扉を閉めてしまい、隣の扉へと向かう。その後をこれまでと同じように俺、オーロラちゃんの順番で追いかけた。

「こちらはアークゲート家が所有する書庫ですね。魔法に関する書物はもちろん、他にもいろいろな本が収納されていますよ」

 そう言って両開きの扉を片方だけ開けて中に入ったシアに続く。入ってすぐに天井まで届く本棚が目に入った。

「おぉ……これは……すごいな……」

 フォルス家にも本を格納している部屋はあるけれど、ここまでではない。アークゲート家の書庫はまるで王都の図書館のように多数の本で埋め尽くされていて、入口の近くにはカウンターも設けられていた。今でこそ給仕服の女性二人が頭を下げているけど、普段は彼女達が本の管理をしているのだろう。その証拠に開かれた状態の本が何冊か置いてあった。

 本棚の上に文字が書かれていることに気づいて近づく。「狩猟」「商売」など、本棚ごとに分かれているようだ。それらを流し見るようにしながら移動していく。

「ここにある本は、誰が借りても良いことになっていますね」

 シアの言葉を耳に残しながら、俺は歩みを進める。天井付近には何の本が格納されているのか書かれているので、それを見ながら足を進めて部屋の奥の棚まで。少し中に入れば、「剣術」という本棚に来た。魔法が得意なアークゲート家にもかかわらず、剣に関する本があるなんて思ってもいなかった。ただその数はあまり多くはないけれど。

「あ、もちろんノヴァさんも自由に借りれますよ」

「むしろノヴァお兄様なら貰ってもいいと思うよ」

 先ほどまでまったく話していなかったオーロラちゃんが口を開いたかと思えば、急にそんなことを言ってきた。当主であるシアの前でそんなことを言っていいのかと思ったのだけど。

「はい、構いません」

 どうやら構わないようだ。

「いや、流石にそこまではいいよ」

 二人に苦笑いで返して、俺はもう一度本棚に目を通す。知っている本がほとんどだし、貰うほどでもないだろう。

 格安で譲ってもらうのも良いかと思っていたけど、どうやらその必要もなさそうだ。一番興味があるであろう本棚を横目に次の棚へ。天井付近には「歴史」と書かれていた。こんな本棚もあるのかと思ったものの、この本棚にあるのはかなり昔の事が書かれた本らしい。最近のアークゲート家やフォルス家の事が分かるような本は無さそうだ。

 そうして次の「料理」という、あまり興味のない本棚を横切ったときに、その隣にある大きな窓の前で立ち止まった。
 ここはアークゲート家の屋敷の一番奥の部屋。つまりこの窓から見えるのはアークゲート家の屋敷の外ということになる。寒そうに風に揺れている木々の向こうに、ひときわ目を引くものがあった。

 ――なんだあれ? 塔?

 木々の上から少しだけ顔を出している大きな建物がそびえている。全体は見れないけど、背はこの屋敷よりも高いようで、塔のように思えた。

「監獄だよ。罪人を閉じ込めるための、絶対に出れない檻」

 声に振り向けば、オーロラちゃんが初めて説明をしてくれていた。けれど彼女の目には鈍い光が灯っていて、表情からは感情が抜け落ちていた。オーロラちゃんは罪人って言ったけど、どういうことだろう。

「……罪人? どんな罪を犯した人の?」

「何の罪なんだろうね」

 それまで人形のようだったオーロラちゃんは、まるで魂が宿ったかのように綺麗な笑みを浮かべた。まるでこれ以上は踏み込んではいけないと、そう言っているみたいだった。
 シアのため息が、耳に届く。

「何もないただの塔ですよ。誰もいないし、使われてもいません」

「そ、そうなのか」

 オーロラちゃんがあんな様子だったのに何もないなんてあるのか? なんて思いつつも、俺は隣の本棚へと向かう。本棚に書かれた文字は「法律」だった。よく見てみれば、目に入る位置に犯罪や刑罰に関する本もある。あれ? これってもしかして。

「……オーロラちゃん、この本棚を見て言ったでしょ?」

「バレたか」

 振り返ってジト目で見れば、彼女は苦笑いした。どうやらあの塔は本当になんでもない塔で、オーロラちゃんは俺をちょっと怖がらせたかったらしい。困った子だ。

「まったく……」

「あはは……」

 次の本棚へ移動すれば、そこは「魔法」の本棚だった。本棚を複数占めていて、この屋敷で本の数が最も多いのは「魔法」なのは間違いなかった。

「……やっぱり魔法の名家だけあって、凄い量だな……」

「アークゲート家と言えば魔法ですからね」

「シアはここにある本、どのくらい読んだんだ?」

「全部ですね」

「全部!?」

 あっさりと言われたことに俺は驚く。しかしシアは小さく笑うだけ。

「ノヴァさんだって、きっと実家の剣術の本は全部目を通しているでしょう」

「そうだけど、ここの本の数は家とは大違いだよ」

 改めてシアの凄さが分かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...