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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第24話 アークゲート家を案内される
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アークゲート家の屋敷は入口からぐるっと一周廊下が続いているらしい。当主の執務室のような重要な部屋は2階にあるということで、今回は1階のみの紹介になるとのことだった。けど屋敷はかなり広くて、曲がり角を二回曲がるまでにも多くの部屋を紹介してもらった。
この後俺達が集まることになる応接間に、魔法の訓練が出来る訓練所も紹介してもらった。特に訓練所はフォルス家のものとは少し異なっていて、見たことのない器具が多く置かれているのが印象的だった。
使用人の詰め所とかは扉の前での紹介になったけど、案内の最中にも何人かのメイドや執事とすれ違ったり出会ったりして、深く頭を下げられてしまった。誰もが見てて惚れ惚れするような綺麗な礼だった。
そうして二回目の角を曲がってすぐの部屋をシアが開く。彼女の背中越しに見えたのは小さな教室のようだった。奥には黒板があって、その前には小さな椅子が二つ置かれている。他にも豪華なソファーやテーブルなども置かれていて、子供がここで過ごすことが出来る環境が整っていた。
「あぁ、そういえばこんな部屋もありましたね」
「……シア?」
先ほどまでの分かりやすい解説とは違って、シアはまるでこの部屋に久しぶりに来たかのように言った。彼女に視線を移す途中で目に映った小さな椅子は、長い事使われていないようだった。
「えっと……ここは確か魔法に関して勉強する教室だったと思います。先ほどの訓練所はたまに行ったのですが、こちらは私とは無縁の場所でして、忘れていました」
私とは無縁の場所、というのは、幼い頃のシアでは入れなかった場所ということだろう。俺がフォルス家で誰からも教わらなかったように、彼女もまた、魔法を教わることすらできなかったということか。
ちょっとだけ嫌なことを思い出させてしまったなと申し訳なく思ったけど、今のシアの笑顔には曇った様子はない。昔は昔、今は今ということで、もう気にしていないのかもしれない。
それにしても、と思ってもう一度だけ部屋の中を見た。椅子が二つあるってことは、シアのお姉さんとオーロラちゃんのだろう。そう思ってオーロラちゃんを見れば、目が合った彼女は首を傾げた。
「まあ、ここは良いでしょう。隣は……図書室ですね、こちらを案内します」
シアは扉を閉めてしまい、隣の扉へと向かう。その後をこれまでと同じように俺、オーロラちゃんの順番で追いかけた。
「こちらはアークゲート家が所有する書庫ですね。魔法に関する書物はもちろん、他にもいろいろな本が収納されていますよ」
そう言って両開きの扉を片方だけ開けて中に入ったシアに続く。入ってすぐに天井まで届く本棚が目に入った。
「おぉ……これは……すごいな……」
フォルス家にも本を格納している部屋はあるけれど、ここまでではない。アークゲート家の書庫はまるで王都の図書館のように多数の本で埋め尽くされていて、入口の近くにはカウンターも設けられていた。今でこそ給仕服の女性二人が頭を下げているけど、普段は彼女達が本の管理をしているのだろう。その証拠に開かれた状態の本が何冊か置いてあった。
本棚の上に文字が書かれていることに気づいて近づく。「狩猟」「商売」など、本棚ごとに分かれているようだ。それらを流し見るようにしながら移動していく。
「ここにある本は、誰が借りても良いことになっていますね」
シアの言葉を耳に残しながら、俺は歩みを進める。天井付近には何の本が格納されているのか書かれているので、それを見ながら足を進めて部屋の奥の棚まで。少し中に入れば、「剣術」という本棚に来た。魔法が得意なアークゲート家にもかかわらず、剣に関する本があるなんて思ってもいなかった。ただその数はあまり多くはないけれど。
「あ、もちろんノヴァさんも自由に借りれますよ」
「むしろノヴァお兄様なら貰ってもいいと思うよ」
先ほどまでまったく話していなかったオーロラちゃんが口を開いたかと思えば、急にそんなことを言ってきた。当主であるシアの前でそんなことを言っていいのかと思ったのだけど。
「はい、構いません」
どうやら構わないようだ。
「いや、流石にそこまではいいよ」
二人に苦笑いで返して、俺はもう一度本棚に目を通す。知っている本がほとんどだし、貰うほどでもないだろう。
格安で譲ってもらうのも良いかと思っていたけど、どうやらその必要もなさそうだ。一番興味があるであろう本棚を横目に次の棚へ。天井付近には「歴史」と書かれていた。こんな本棚もあるのかと思ったものの、この本棚にあるのはかなり昔の事が書かれた本らしい。最近のアークゲート家やフォルス家の事が分かるような本は無さそうだ。
そうして次の「料理」という、あまり興味のない本棚を横切ったときに、その隣にある大きな窓の前で立ち止まった。
ここはアークゲート家の屋敷の一番奥の部屋。つまりこの窓から見えるのはアークゲート家の屋敷の外ということになる。寒そうに風に揺れている木々の向こうに、ひときわ目を引くものがあった。
――なんだあれ? 塔?
木々の上から少しだけ顔を出している大きな建物がそびえている。全体は見れないけど、背はこの屋敷よりも高いようで、塔のように思えた。
「監獄だよ。罪人を閉じ込めるための、絶対に出れない檻」
声に振り向けば、オーロラちゃんが初めて説明をしてくれていた。けれど彼女の目には鈍い光が灯っていて、表情からは感情が抜け落ちていた。オーロラちゃんは罪人って言ったけど、どういうことだろう。
「……罪人? どんな罪を犯した人の?」
「何の罪なんだろうね」
それまで人形のようだったオーロラちゃんは、まるで魂が宿ったかのように綺麗な笑みを浮かべた。まるでこれ以上は踏み込んではいけないと、そう言っているみたいだった。
シアのため息が、耳に届く。
「何もないただの塔ですよ。誰もいないし、使われてもいません」
「そ、そうなのか」
オーロラちゃんがあんな様子だったのに何もないなんてあるのか? なんて思いつつも、俺は隣の本棚へと向かう。本棚に書かれた文字は「法律」だった。よく見てみれば、目に入る位置に犯罪や刑罰に関する本もある。あれ? これってもしかして。
「……オーロラちゃん、この本棚を見て言ったでしょ?」
「バレたか」
振り返ってジト目で見れば、彼女は苦笑いした。どうやらあの塔は本当になんでもない塔で、オーロラちゃんは俺をちょっと怖がらせたかったらしい。困った子だ。
「まったく……」
「あはは……」
次の本棚へ移動すれば、そこは「魔法」の本棚だった。本棚を複数占めていて、この屋敷で本の数が最も多いのは「魔法」なのは間違いなかった。
「……やっぱり魔法の名家だけあって、凄い量だな……」
「アークゲート家と言えば魔法ですからね」
「シアはここにある本、どのくらい読んだんだ?」
「全部ですね」
「全部!?」
あっさりと言われたことに俺は驚く。しかしシアは小さく笑うだけ。
「ノヴァさんだって、きっと実家の剣術の本は全部目を通しているでしょう」
「そうだけど、ここの本の数は家とは大違いだよ」
改めてシアの凄さが分かった。
この後俺達が集まることになる応接間に、魔法の訓練が出来る訓練所も紹介してもらった。特に訓練所はフォルス家のものとは少し異なっていて、見たことのない器具が多く置かれているのが印象的だった。
使用人の詰め所とかは扉の前での紹介になったけど、案内の最中にも何人かのメイドや執事とすれ違ったり出会ったりして、深く頭を下げられてしまった。誰もが見てて惚れ惚れするような綺麗な礼だった。
そうして二回目の角を曲がってすぐの部屋をシアが開く。彼女の背中越しに見えたのは小さな教室のようだった。奥には黒板があって、その前には小さな椅子が二つ置かれている。他にも豪華なソファーやテーブルなども置かれていて、子供がここで過ごすことが出来る環境が整っていた。
「あぁ、そういえばこんな部屋もありましたね」
「……シア?」
先ほどまでの分かりやすい解説とは違って、シアはまるでこの部屋に久しぶりに来たかのように言った。彼女に視線を移す途中で目に映った小さな椅子は、長い事使われていないようだった。
「えっと……ここは確か魔法に関して勉強する教室だったと思います。先ほどの訓練所はたまに行ったのですが、こちらは私とは無縁の場所でして、忘れていました」
私とは無縁の場所、というのは、幼い頃のシアでは入れなかった場所ということだろう。俺がフォルス家で誰からも教わらなかったように、彼女もまた、魔法を教わることすらできなかったということか。
ちょっとだけ嫌なことを思い出させてしまったなと申し訳なく思ったけど、今のシアの笑顔には曇った様子はない。昔は昔、今は今ということで、もう気にしていないのかもしれない。
それにしても、と思ってもう一度だけ部屋の中を見た。椅子が二つあるってことは、シアのお姉さんとオーロラちゃんのだろう。そう思ってオーロラちゃんを見れば、目が合った彼女は首を傾げた。
「まあ、ここは良いでしょう。隣は……図書室ですね、こちらを案内します」
シアは扉を閉めてしまい、隣の扉へと向かう。その後をこれまでと同じように俺、オーロラちゃんの順番で追いかけた。
「こちらはアークゲート家が所有する書庫ですね。魔法に関する書物はもちろん、他にもいろいろな本が収納されていますよ」
そう言って両開きの扉を片方だけ開けて中に入ったシアに続く。入ってすぐに天井まで届く本棚が目に入った。
「おぉ……これは……すごいな……」
フォルス家にも本を格納している部屋はあるけれど、ここまでではない。アークゲート家の書庫はまるで王都の図書館のように多数の本で埋め尽くされていて、入口の近くにはカウンターも設けられていた。今でこそ給仕服の女性二人が頭を下げているけど、普段は彼女達が本の管理をしているのだろう。その証拠に開かれた状態の本が何冊か置いてあった。
本棚の上に文字が書かれていることに気づいて近づく。「狩猟」「商売」など、本棚ごとに分かれているようだ。それらを流し見るようにしながら移動していく。
「ここにある本は、誰が借りても良いことになっていますね」
シアの言葉を耳に残しながら、俺は歩みを進める。天井付近には何の本が格納されているのか書かれているので、それを見ながら足を進めて部屋の奥の棚まで。少し中に入れば、「剣術」という本棚に来た。魔法が得意なアークゲート家にもかかわらず、剣に関する本があるなんて思ってもいなかった。ただその数はあまり多くはないけれど。
「あ、もちろんノヴァさんも自由に借りれますよ」
「むしろノヴァお兄様なら貰ってもいいと思うよ」
先ほどまでまったく話していなかったオーロラちゃんが口を開いたかと思えば、急にそんなことを言ってきた。当主であるシアの前でそんなことを言っていいのかと思ったのだけど。
「はい、構いません」
どうやら構わないようだ。
「いや、流石にそこまではいいよ」
二人に苦笑いで返して、俺はもう一度本棚に目を通す。知っている本がほとんどだし、貰うほどでもないだろう。
格安で譲ってもらうのも良いかと思っていたけど、どうやらその必要もなさそうだ。一番興味があるであろう本棚を横目に次の棚へ。天井付近には「歴史」と書かれていた。こんな本棚もあるのかと思ったものの、この本棚にあるのはかなり昔の事が書かれた本らしい。最近のアークゲート家やフォルス家の事が分かるような本は無さそうだ。
そうして次の「料理」という、あまり興味のない本棚を横切ったときに、その隣にある大きな窓の前で立ち止まった。
ここはアークゲート家の屋敷の一番奥の部屋。つまりこの窓から見えるのはアークゲート家の屋敷の外ということになる。寒そうに風に揺れている木々の向こうに、ひときわ目を引くものがあった。
――なんだあれ? 塔?
木々の上から少しだけ顔を出している大きな建物がそびえている。全体は見れないけど、背はこの屋敷よりも高いようで、塔のように思えた。
「監獄だよ。罪人を閉じ込めるための、絶対に出れない檻」
声に振り向けば、オーロラちゃんが初めて説明をしてくれていた。けれど彼女の目には鈍い光が灯っていて、表情からは感情が抜け落ちていた。オーロラちゃんは罪人って言ったけど、どういうことだろう。
「……罪人? どんな罪を犯した人の?」
「何の罪なんだろうね」
それまで人形のようだったオーロラちゃんは、まるで魂が宿ったかのように綺麗な笑みを浮かべた。まるでこれ以上は踏み込んではいけないと、そう言っているみたいだった。
シアのため息が、耳に届く。
「何もないただの塔ですよ。誰もいないし、使われてもいません」
「そ、そうなのか」
オーロラちゃんがあんな様子だったのに何もないなんてあるのか? なんて思いつつも、俺は隣の本棚へと向かう。本棚に書かれた文字は「法律」だった。よく見てみれば、目に入る位置に犯罪や刑罰に関する本もある。あれ? これってもしかして。
「……オーロラちゃん、この本棚を見て言ったでしょ?」
「バレたか」
振り返ってジト目で見れば、彼女は苦笑いした。どうやらあの塔は本当になんでもない塔で、オーロラちゃんは俺をちょっと怖がらせたかったらしい。困った子だ。
「まったく……」
「あはは……」
次の本棚へ移動すれば、そこは「魔法」の本棚だった。本棚を複数占めていて、この屋敷で本の数が最も多いのは「魔法」なのは間違いなかった。
「……やっぱり魔法の名家だけあって、凄い量だな……」
「アークゲート家と言えば魔法ですからね」
「シアはここにある本、どのくらい読んだんだ?」
「全部ですね」
「全部!?」
あっさりと言われたことに俺は驚く。しかしシアは小さく笑うだけ。
「ノヴァさんだって、きっと実家の剣術の本は全部目を通しているでしょう」
「そうだけど、ここの本の数は家とは大違いだよ」
改めてシアの凄さが分かった。
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