宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで

第25話 シアのお姉さんに会う

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 図書室の後にもシアはいくつかの部屋を案内してくれたけど、驚いたのは展示室だ。丁寧に展示されている展示物と、通路に無造作に置かれている展示物?も多くて、展示室なのに倉庫のように見える、ちょっと歪な部屋だった。

 話を聞いてみると、先代までの当主は高級品や骨董品を集めていたけど、シアはまるで興味が無いみたいで、この部屋に押し込んでいるらしい。

『屋敷のあらゆるところにあって邪魔だったんですよね。この部屋に持ってくるだけでも結構苦労しました。……あ、ノヴァさん、もし欲しいものがあったら言ってくださいね。持っていって構いませんから』

『あ、ありがとう……でも遠慮しておくよ……』

 本一冊とかならともかく、今まで手にしたことがない価値の貴重品を譲られるのは遠慮した。なんか屋敷を案内されているだけなのに、シアの凄さがどんどん分かってきて、気後れしそうだ。

 そうして一階をぐるりと回って、俺達は再び屋敷の入口へと戻ってきた。時間的にはちょうどいいくらいだ。先ほど案内してもらった応接間の扉をシアが開けて、彼女に続いて俺とオーロラちゃんも中に入る。さっきは誰もいなかった一室には先客がいた。

 ふわふわした銀髪に眼鏡をかけた女性が俺達に気づいて顔を上げる。シアと同じ灰色の瞳を見て、彼女がシアの言っていた姉なのだと分かった。

 ――この人が……シアのお姉さん?

 というのが、俺が最初に思ったことだ。幼き日のシアに劣等感を埋め込み、ひょっとしたら彼女にひどい仕打ちをしていた可能性がある姉だと俺は思っていたけど、彼女は予想とは少し違った。なんというか、シア以上に静かな雰囲気がある。

 肩に大きなケープをかけていて、トレードマークである眼鏡と相まって、先ほどの図書室の受付の司書のようだ。気品の高さは感じられるけど、第一印象はそんな感じだった。

「紹介しますね。彼女はユースティティア・アークゲート。私の補佐をしてくれています。姉で、愛称はユティです。ユティ、こちらは以前話したノヴァさん」

「……初めまして、ユティと呼んでください」

「……ノヴァ……フォルスです」

 静かに頭を下げるユティさんを見ながら俺も頭を下げる。イメージと違ったユティさんに対して少し戸惑っていると、シアは歩き出して一番奥に行き、椅子の背もたれに手を置いた。

「ノヴァさんはそちらにお座りください」

 シアが手を置いた椅子のすぐ左の椅子を手で示すと同時にオーロラちゃんは歩き始めて、ユティさんの隣に座った。シアが一番奥の当主の席なのだとすれば、彼女に一番近い位置にユティさんと俺が座り、さらにユティさんの隣にオーロラちゃんが座る形になる。

「えっと……」

「席順はあまり関係ないのでお気になさらず」

「分かった」

 シアに促されるままに、俺は指し示された椅子に向かう。豪華な造りのテーブルと同じ白い椅子は、座っていないのにどこか冷たい感じがした。けど実際には部屋が温まっているために椅子が冷たいなんてことはない。
 腰を下ろす。ユティさんの真正面に座ったので当然なのだが、彼女と目が合った。
 ユティさんは俺をじっと見ているけど、顔色が変わることはない。かと思えば、不意に彼女は口を開いた。

「ノヴァ様は、フォルス家の三男ですよね?」

「あ、はい……あ、ノヴァさんとかでいいですよ。様呼びはあまり慣れていなくて……」

 そう返答するとユティさんはシアの方を見た。オーロラちゃんといい、この姉妹はアイコンタクトをする癖でもあるのだろうか。ユティさんはシアが頷くのを見て頷き返すと、視線を再び俺に向ける。

「フォルス家の三男の事は知っています。覇気の仕えない出来損ない。フォルス家の資格のないもの。貴族的に価値のない――」

「ユティ」

「私がそう思っているわけではないのですが、申し訳ありません」

 表情一つ変わらずに言われても、本当にそう思っているのか全然分からないけど。

「私は、ノヴァさんが覇気を使えないことがむしろ良いことだと思います。そうでなければ当主様のもつ魔力に押しつぶされていたでしょうから」

 いや、どうやら本当にユティさんは俺の事を出来損ないだとは思っていないようだ。っていうか、この人本当にシアのお姉さんなんだよな?さっきからのユティさんの発言を聞いていると、彼女は姉というよりもむしろ従者のように発言して振舞っているけど。

「ただ、それだけが理由でないように思えます。それ以外……」

 やや前傾姿勢で俺を見つめて黙り込むユティさん。そのまっすぐ過ぎる目に少しだけ恐怖を感じ始めた時。

「なるほど、流石です」

(いや、何が!?)

 納得したように頷いてユティさんは背もたれに背中を戻した。顔だけをシアに向けて、強く頷く。

「元々反対するつもりなど微塵もありませんが、当主様とノヴァさんの婚約を強く支持します」

「ユティなら分かってくれると思ってました」

「はい、では私はこれで……」

 そう言って椅子から立ち上がるユティさん。まだ会ってから時間も経っていないし、交わした言葉も一言二言。なので俺が目を丸くしていると。

「もう行ってしまうのですか?」

「読み物が少し残っていますので。それにノヴァさんについては大体わかりました。あとは仲の良い当主様とオーラでどうぞ」

「そうですか」

 シアの制止もあまり効果がなく、ユティさんは俺に向かってそれはもう深く頭を下げて部屋を出て行ってしまった。なんというか、俺の事を好意的には見てくれているみたいではあるんだけど…。

「ユティお姉様は変わり者だからね……」

 ユティさんが出て行った扉をじっと見ていたからか、オーロラちゃんが説明してくれた。彼女に目を向ければ、視界の隅でシアが頷いた。

「ユティは突出して頭が良いのですが、ちょっと変わり者でして……口数が少ないことも相まって勘違いされやすいんです」

「そ、そうなのか……」

 見かけ通りの人物ってことかな。カイラスの兄上に近いところがあるかもしれない。まあ、フォルス家の覇気とアークゲート家の魔力の問題があるから、二人の相性は最悪だと思うけど。

「ですが思ったことを口にする人物ですので、ノヴァさんの事は好意的に見ていると思いますよ」

「うん、それは良かったよ」

 嫌われるよりはずっといい。ユティさんからは俺を蔑むような気持ちは読み取れなかったから、それだけでもありがたい限りだ。正直、シアに相応しくない! くらいは言われるかなと思ってたからな。

「でも、姉妹全員から支持を得られたのは良かったね。これでお姉様と結婚しても人間関係は大丈夫だよ」

「……そ、そうだね」

 目を輝かせてみてくるオーロラちゃんに、俺は苦笑いで返すしかない。シアはニコニコ笑っているだけで何も言わないし……これ、外堀がいい感じに埋められている?

 そんな事を思っていると、オーロラちゃんが手を挙げた。

「ねえノヴァお兄様! 良ければ中庭に行ってお話しない? お姉様も!」

「私は構いませんよ」

「ああ、俺もいいよ」

 そういえば中庭には行ってなかったなと思って即答したシアに続けて了承する。そうして俺達は中庭へと歩き始めた。
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