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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第29話 ユースティティア・アークゲートの独白
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ユティさんから不要になったと聞いた本の束を両手に、階段を降りて図書室へと向かう。そうなれば中庭を迂回していく必要があるので、中庭から俺の姿が見えたのだろう。
「ノヴァお兄様!? なにしてるの!?」
ガチャリと中庭へと続く扉を開けて廊下へと入ってきたのは、オーロラちゃんだった。その後ろにはシアの姿もある。
「いや、さっきそこでユティさんに会ってね。それで部屋まで本を届けるのを手伝ったんだけど、ついでに不要な本を返しに行くのも手伝おうかなって」
「確かに司書の方がなかなか返してくれないとぼやいていましたね。すみませんノヴァさん、姉がご迷惑を……」
「いやいや、大丈夫だよ、このくらい」
オーロラちゃんとシアを連れて図書室に入る。本を抱えて入ってきた俺を見て司書さんは目を見開いて、すぐに俺から本を回収した。本棚に戻すのはやってくれるそうなので、他にもユティさんの部屋から本を持ってくる、と言うと、感謝されて深く深く頭を下げられてしまった。
「私達も手伝います! 手伝わせてください!」
と熱烈に訴えてきた司書さんに頷けば、司書さんは奥へと引っ込んでしまった。しばらく待てば、そこには図書室にいた司書や近くにいた手の空いている執事やメイドが勢ぞろいしていた。
そうして俺はオーロラちゃんとシアと、その他大勢を連れてユティさんの部屋に向かう。今までこんなに大勢を率いたことなんてあるわけもなく、ちょっと気後れする。
そうしてユティさんの部屋へと戻ったのだけど、多くの足音を聞いていたのか、彼女は部屋に入る前から扉を見ていたらしい。扉を開いた瞬間に、目を見開いたユティさんとは目が合った。
「た、ただいまユティさん。えっと……皆手伝ってくれるってさ」
「……あ、ありがとうございます?」
「さて、じゃあここにある本を……ってあれ?」
ここで気づいたのだが、気配がない。振り返ってみると、背後にはシアとオーロラちゃんはいるけど、司書さんたちは部屋に入っていなかった。じっとこちらを見てくる司書さんに呼ばれている気がして近づくと、彼女は小声で耳打ちしてきた。
「申し訳ありませんが、本を渡していただけますか? ユースティティア様は大人数が部屋に入るのを嫌いますので……」
「あ、了解です」
確かに扉を開けた時のユティさんは、どこか怖がっているようにも見えた。それを長い付き合いの使用人たちは知っているのだろう。シアとオーロラちゃんと協力して、本を次々と使用人に渡していく。そうして全ての本を渡せば、部屋はちょっとだけ綺麗になった。まあ、まだ多数の本が乱雑に置かれているけど。
「じゃあ私達はこれで失礼しますね。ユティ、たまには自分で片づけるように」
「……かしこまりました」
縮こまりながらそう答えるユティさんに頷き、シアとオーロラちゃんは部屋から出て行く。
最後に残った俺も、別れの挨拶をする。
「じゃあユティさん、俺も行くね」
「ノヴァさん、本当にありがとうございました」
「ううん、気にしないで。結構色々な本を見れて楽しかったし、あんなに大勢と一緒に行動するのは新鮮だったから」
「そうですか」
そう言って黙ってしまった。目を合わせたままで、無言の時間が続く。もう出て行っていいよな?と思っていると、ユティさんは机の引き出しを開いて何かを取り出し、俺に差し出してきた。
真っ白な便箋だった。
「二人からはもう貰っていると思いますが、受け取ってください。何か必要になる時が来るかもしれませんし」
ユティさんの手から便箋を受け取る。アークゲート家の家紋が入った、魔法の便箋だ。
「あ、ありがとうございます」
「では」
俺が便箋をポケットに入れると同時に、ユティさんはそう言った。俺は頷き、部屋から出て行く。。部屋から出て扉が閉まるまで、彼女からの視線はずっと感じていた。
×××
閉じた扉をじっと見つめていた。正確にはその扉を閉めたノヴァさんの幻影をずっと見ていた。
人と付き合うのはあまり好きではない。幼い頃から多くの人の顔色を窺ってきたから。そうしなければ、いけなかったから。
「ノヴァ・フォルス……」
名前を呼ぶ。自分の部屋に人を入れるのは好きではない。何も言ってこない本と私だけの世界を侵食されているようで、とても嫌だから。
でも、ノヴァさんがこの部屋にいる時はそうは思わなかった。それはきっと、あの人の前では色々と難しいことを考えなくて良いからだと思う。次期当主の座だとか、後ろ盾の事とか、姉妹関係のバランスとか。
当主様は私からそういった煩わしいものを考える余地を壊してくれた。だから私はレティシア・アークゲートに忠誠を誓っている。あの日以来、私の仕えるべき主は彼女に違いない。けど、そう言った煩わしいものを壊すのではなく、気にしなくていいと思えたのはノヴァさんが初めてだった。
「……便……箋」
姉妹達以外に渡したこともない便箋を渡したことも、きっとそれが理由なんだろう。煩わしいことは嫌いだけど、ノヴァさんには渡して良いと思った。彼なら本当に必要な時にしか使わないだろうし、便箋を持っていても嫌な気分にはならなかったから
再度机に向かい、仕事を再開する。本のページをめくる手が、紙に書く腕が、いつもよりも軽かった。
「ノヴァお兄様!? なにしてるの!?」
ガチャリと中庭へと続く扉を開けて廊下へと入ってきたのは、オーロラちゃんだった。その後ろにはシアの姿もある。
「いや、さっきそこでユティさんに会ってね。それで部屋まで本を届けるのを手伝ったんだけど、ついでに不要な本を返しに行くのも手伝おうかなって」
「確かに司書の方がなかなか返してくれないとぼやいていましたね。すみませんノヴァさん、姉がご迷惑を……」
「いやいや、大丈夫だよ、このくらい」
オーロラちゃんとシアを連れて図書室に入る。本を抱えて入ってきた俺を見て司書さんは目を見開いて、すぐに俺から本を回収した。本棚に戻すのはやってくれるそうなので、他にもユティさんの部屋から本を持ってくる、と言うと、感謝されて深く深く頭を下げられてしまった。
「私達も手伝います! 手伝わせてください!」
と熱烈に訴えてきた司書さんに頷けば、司書さんは奥へと引っ込んでしまった。しばらく待てば、そこには図書室にいた司書や近くにいた手の空いている執事やメイドが勢ぞろいしていた。
そうして俺はオーロラちゃんとシアと、その他大勢を連れてユティさんの部屋に向かう。今までこんなに大勢を率いたことなんてあるわけもなく、ちょっと気後れする。
そうしてユティさんの部屋へと戻ったのだけど、多くの足音を聞いていたのか、彼女は部屋に入る前から扉を見ていたらしい。扉を開いた瞬間に、目を見開いたユティさんとは目が合った。
「た、ただいまユティさん。えっと……皆手伝ってくれるってさ」
「……あ、ありがとうございます?」
「さて、じゃあここにある本を……ってあれ?」
ここで気づいたのだが、気配がない。振り返ってみると、背後にはシアとオーロラちゃんはいるけど、司書さんたちは部屋に入っていなかった。じっとこちらを見てくる司書さんに呼ばれている気がして近づくと、彼女は小声で耳打ちしてきた。
「申し訳ありませんが、本を渡していただけますか? ユースティティア様は大人数が部屋に入るのを嫌いますので……」
「あ、了解です」
確かに扉を開けた時のユティさんは、どこか怖がっているようにも見えた。それを長い付き合いの使用人たちは知っているのだろう。シアとオーロラちゃんと協力して、本を次々と使用人に渡していく。そうして全ての本を渡せば、部屋はちょっとだけ綺麗になった。まあ、まだ多数の本が乱雑に置かれているけど。
「じゃあ私達はこれで失礼しますね。ユティ、たまには自分で片づけるように」
「……かしこまりました」
縮こまりながらそう答えるユティさんに頷き、シアとオーロラちゃんは部屋から出て行く。
最後に残った俺も、別れの挨拶をする。
「じゃあユティさん、俺も行くね」
「ノヴァさん、本当にありがとうございました」
「ううん、気にしないで。結構色々な本を見れて楽しかったし、あんなに大勢と一緒に行動するのは新鮮だったから」
「そうですか」
そう言って黙ってしまった。目を合わせたままで、無言の時間が続く。もう出て行っていいよな?と思っていると、ユティさんは机の引き出しを開いて何かを取り出し、俺に差し出してきた。
真っ白な便箋だった。
「二人からはもう貰っていると思いますが、受け取ってください。何か必要になる時が来るかもしれませんし」
ユティさんの手から便箋を受け取る。アークゲート家の家紋が入った、魔法の便箋だ。
「あ、ありがとうございます」
「では」
俺が便箋をポケットに入れると同時に、ユティさんはそう言った。俺は頷き、部屋から出て行く。。部屋から出て扉が閉まるまで、彼女からの視線はずっと感じていた。
×××
閉じた扉をじっと見つめていた。正確にはその扉を閉めたノヴァさんの幻影をずっと見ていた。
人と付き合うのはあまり好きではない。幼い頃から多くの人の顔色を窺ってきたから。そうしなければ、いけなかったから。
「ノヴァ・フォルス……」
名前を呼ぶ。自分の部屋に人を入れるのは好きではない。何も言ってこない本と私だけの世界を侵食されているようで、とても嫌だから。
でも、ノヴァさんがこの部屋にいる時はそうは思わなかった。それはきっと、あの人の前では色々と難しいことを考えなくて良いからだと思う。次期当主の座だとか、後ろ盾の事とか、姉妹関係のバランスとか。
当主様は私からそういった煩わしいものを考える余地を壊してくれた。だから私はレティシア・アークゲートに忠誠を誓っている。あの日以来、私の仕えるべき主は彼女に違いない。けど、そう言った煩わしいものを壊すのではなく、気にしなくていいと思えたのはノヴァさんが初めてだった。
「……便……箋」
姉妹達以外に渡したこともない便箋を渡したことも、きっとそれが理由なんだろう。煩わしいことは嫌いだけど、ノヴァさんには渡して良いと思った。彼なら本当に必要な時にしか使わないだろうし、便箋を持っていても嫌な気分にはならなかったから
再度机に向かい、仕事を再開する。本のページをめくる手が、紙に書く腕が、いつもよりも軽かった。
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