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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第28話 ユティさんを手伝う
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北の国が寒い事と、出されたコーヒーがおいしくて飲みすぎてしまったのだろうか。恥ずかしくて逃げるついでに用を済ませた俺は、中庭へ戻るために歩き出す。角を曲がって入口を横切る廊下に出たときに、向こうから歩いてくる何かに気づいた。積み重なった本が、とてもゆっくりなペースで動いている。
しかしその本の下からはロングスカートが伸びていて、そのスカートには見覚えがあった。小走りで駆け寄り、本の塔に声をかける。
「……ユティさん、大丈夫ですか? 持ちましょうか?」
「その声は、ノヴァさんですか?」
本の塔、もといそれを持ったユティさんが答える。俺はユティさんから了承を得る前に、半分以上の本の塔を崩して手に持った。背表紙だけしか見えなかったけど、魔法以外にも政治の本や歴史の本などジャンルは様々なようだ。
「すみません、お手数をおかけして」
「いえ、このくらいなんてことはないです」
「ありがとうございます……2階に自室があるので、そこまでお願いします」
「分かりました」
ユティさんを先頭に、俺は彼女についていく。入口から伸びる階段を上り、右に伸びる階段へと足を掛けるので、どうやらオーロラちゃんの部屋は左側に、ユティさんの部屋は右側にあるらしい。
「すみません、夢中になって読みたい本を手に取っていたら、持ちきれなくなってしまって」
「それでこんなにいっぱい……すごいですね。俺は剣術に関する本しか読まないので……」
「必要なことですから」
右に伸びる階段を登り切り、扉を背中で開けるユティさん。この人、俺がいなかったらどうやって本を持っていくつもりだったんだろうか。一回一回床に置いて、ということになるのかもしれないけど、それにしても大変なことだ。たまたま今のタイミングで出会えてよかった。
ユティさんの背中を追えば、曲がり角を曲がったところですぐそばの部屋の扉を開いた。その中へと入っていくユティさんについていこうとするときに、ふと左を見た。廊下の一番奥に、ユティさんの部屋よりも大きな扉があった。
シアの部屋かな?なんて事を思いつつ、ユティさんの部屋へと足を踏み入れる。彼女の部屋は貴族の長女の部屋らしく広いものの、本が乱雑に置いてあった。椅子の上にも、ベッドの上にも、本、本、本。この部屋だけで数えきれないほどの本が鎮座している。その光景に驚いていると、ユティさんに声をかけられた。
「そこのテーブルの脇に置いておいてください」
「ここ……ですか……」
テーブルの上ではなくテーブルの脇。床が見えている範囲がここなので、おそらくそうだろう。1階の図書室に行ったときに、やけに本が抜けているなと思ったが、この部屋にあったのか。俺は部屋の光景に呆気にとられながら、本の塔を床に下ろした。
ふぅ、と一息ついて見てみれば、ユティさんは残りの本の塔の一部分を持って止まっていたものの、やがてベッドの上にそれらを下ろした。
「すごい本の数ですね。全部使っているんですか?」
「いえ、全部は使っていません。返していないだけです」
ユティさんはそういうと机に座り、何かを書き始めた。仕事の邪魔になるかと思ったのだが、どうしても気になるから俺は声をかけてしまう。
「え、そうなんですか? 使わなくなった本を、本を借りに行くときに持っていけば減っていくのでは?」
「使う本か使わない本かを判断する時間が億劫に感じてしまって、長らくやっていないです」
「なるほど……」
大量の本を読むユティさんゆえの悩みということだろうか。本の背表紙を見ながら、シアの言葉を思い返す。確か、ユティさんってめちゃくちゃ頭が良いって言ってたような。それなら、何か助けになれるかもしれない。
「それなら俺が本のタイトルを言いますので、それで必要か不要か教えてもらえますか?」
「…………」
俺の言葉にユティさんは答えなかった。余計なことをいってしまったかもしれない、と思ったけど。
「いいんですか?」
「え? はい、全然」
「……では、お願いします」
ユティさんの言い方が少し気になったものの、俺は本の背表紙のタイトルを次々と言っていく。ユティさんは「いります」「いりません」の2通りの方法で答えてくれるので、「いりません」と言われた本だけを集める。そうして持てるギリギリの量まで集めた。
不要な本の束を一旦部屋の隅に置いて、再度ユティさんに本が要るかどうかを聞いていく。ユティさんの返答が早いから分別は早いけど、量が量だから時間はかかりそうだ。
そうして不要な本の束を作っていると、ユティさんが不意に尋ねて来た。
「ノヴァさんは、小さな頃にあの子と会ったことがありますか?」
「え?」
急に聞かれて思わず返してしまったけど、ユティさんの言う「あの子」とはシアのことだろう。けど言うべきかどうか悩んでしまい、曖昧な問いを返した。
「えっと……どうして急に……」
「元々あの子は、この家においては不遇な立場でした。魔法を使えず、使っても暴走してしまう。ノヴァさんが知っているように、このような家に生まれたものにとってそれがどれだけの苦痛か」
「…………」
「けれどある日を境にあの子は力に目覚めました。魔力は暴走することがなくなり、そしてその力持って今の地位まで上り詰めました。これまでは何がきっかけでそうなったのか分かりませんでしたが、今日のあの子を見てきっかけがあなただということは分かりました。そうですね?」
「……はい」
シア本人から聞かされたことだ。あの雪の日、俺がシアの体内の魔力を叱ったことで、シアは魔力をコントロールすることが出来るようになったって。俺のそんな些細なことが今のシアの一部になっていると、そう思っていた。
「きっとあなたがあの子の問題を解決したその日から、あの子はあなただけを見てきているんです。だから膨大な力に呑まれずに使いこなした。だから当主にまでなった……」
違ったんだ。そんな些細だと思ていたことが、シアの人生を変えていたんだ。
「ノヴァさんは、あの子からの縁談の話をお受けするつもりなんですよね?」
「……はい。俺はシアを護りたいと思いました。必要ないかもしれないけど、頼りないかもしれないけど、護りたいと」
「あの子を、護るですか……」
やはり俺では力不足なのは否めないのか、そう呟いたユティさん。けど彼女はゆっくりと頭を下げた。
「姉として言います。あの子のこと、よろしくお願いします」
「……はい」
しっかりと返答すると、ユティさんは顔を上げてまた机へと向かっていってしまった。俺はそれ以上言葉を交わすことなく、不要だと言われた本の束をもって部屋を出て行く。長い廊下を歩きながら、さっきのユティさんの言葉を思い返した。
いいお姉さんだった。少なくとも俺の兄上達とは違うと思った。変わっている人だと思ったけど、いや変わっているけど良い人だ。
しかしその本の下からはロングスカートが伸びていて、そのスカートには見覚えがあった。小走りで駆け寄り、本の塔に声をかける。
「……ユティさん、大丈夫ですか? 持ちましょうか?」
「その声は、ノヴァさんですか?」
本の塔、もといそれを持ったユティさんが答える。俺はユティさんから了承を得る前に、半分以上の本の塔を崩して手に持った。背表紙だけしか見えなかったけど、魔法以外にも政治の本や歴史の本などジャンルは様々なようだ。
「すみません、お手数をおかけして」
「いえ、このくらいなんてことはないです」
「ありがとうございます……2階に自室があるので、そこまでお願いします」
「分かりました」
ユティさんを先頭に、俺は彼女についていく。入口から伸びる階段を上り、右に伸びる階段へと足を掛けるので、どうやらオーロラちゃんの部屋は左側に、ユティさんの部屋は右側にあるらしい。
「すみません、夢中になって読みたい本を手に取っていたら、持ちきれなくなってしまって」
「それでこんなにいっぱい……すごいですね。俺は剣術に関する本しか読まないので……」
「必要なことですから」
右に伸びる階段を登り切り、扉を背中で開けるユティさん。この人、俺がいなかったらどうやって本を持っていくつもりだったんだろうか。一回一回床に置いて、ということになるのかもしれないけど、それにしても大変なことだ。たまたま今のタイミングで出会えてよかった。
ユティさんの背中を追えば、曲がり角を曲がったところですぐそばの部屋の扉を開いた。その中へと入っていくユティさんについていこうとするときに、ふと左を見た。廊下の一番奥に、ユティさんの部屋よりも大きな扉があった。
シアの部屋かな?なんて事を思いつつ、ユティさんの部屋へと足を踏み入れる。彼女の部屋は貴族の長女の部屋らしく広いものの、本が乱雑に置いてあった。椅子の上にも、ベッドの上にも、本、本、本。この部屋だけで数えきれないほどの本が鎮座している。その光景に驚いていると、ユティさんに声をかけられた。
「そこのテーブルの脇に置いておいてください」
「ここ……ですか……」
テーブルの上ではなくテーブルの脇。床が見えている範囲がここなので、おそらくそうだろう。1階の図書室に行ったときに、やけに本が抜けているなと思ったが、この部屋にあったのか。俺は部屋の光景に呆気にとられながら、本の塔を床に下ろした。
ふぅ、と一息ついて見てみれば、ユティさんは残りの本の塔の一部分を持って止まっていたものの、やがてベッドの上にそれらを下ろした。
「すごい本の数ですね。全部使っているんですか?」
「いえ、全部は使っていません。返していないだけです」
ユティさんはそういうと机に座り、何かを書き始めた。仕事の邪魔になるかと思ったのだが、どうしても気になるから俺は声をかけてしまう。
「え、そうなんですか? 使わなくなった本を、本を借りに行くときに持っていけば減っていくのでは?」
「使う本か使わない本かを判断する時間が億劫に感じてしまって、長らくやっていないです」
「なるほど……」
大量の本を読むユティさんゆえの悩みということだろうか。本の背表紙を見ながら、シアの言葉を思い返す。確か、ユティさんってめちゃくちゃ頭が良いって言ってたような。それなら、何か助けになれるかもしれない。
「それなら俺が本のタイトルを言いますので、それで必要か不要か教えてもらえますか?」
「…………」
俺の言葉にユティさんは答えなかった。余計なことをいってしまったかもしれない、と思ったけど。
「いいんですか?」
「え? はい、全然」
「……では、お願いします」
ユティさんの言い方が少し気になったものの、俺は本の背表紙のタイトルを次々と言っていく。ユティさんは「いります」「いりません」の2通りの方法で答えてくれるので、「いりません」と言われた本だけを集める。そうして持てるギリギリの量まで集めた。
不要な本の束を一旦部屋の隅に置いて、再度ユティさんに本が要るかどうかを聞いていく。ユティさんの返答が早いから分別は早いけど、量が量だから時間はかかりそうだ。
そうして不要な本の束を作っていると、ユティさんが不意に尋ねて来た。
「ノヴァさんは、小さな頃にあの子と会ったことがありますか?」
「え?」
急に聞かれて思わず返してしまったけど、ユティさんの言う「あの子」とはシアのことだろう。けど言うべきかどうか悩んでしまい、曖昧な問いを返した。
「えっと……どうして急に……」
「元々あの子は、この家においては不遇な立場でした。魔法を使えず、使っても暴走してしまう。ノヴァさんが知っているように、このような家に生まれたものにとってそれがどれだけの苦痛か」
「…………」
「けれどある日を境にあの子は力に目覚めました。魔力は暴走することがなくなり、そしてその力持って今の地位まで上り詰めました。これまでは何がきっかけでそうなったのか分かりませんでしたが、今日のあの子を見てきっかけがあなただということは分かりました。そうですね?」
「……はい」
シア本人から聞かされたことだ。あの雪の日、俺がシアの体内の魔力を叱ったことで、シアは魔力をコントロールすることが出来るようになったって。俺のそんな些細なことが今のシアの一部になっていると、そう思っていた。
「きっとあなたがあの子の問題を解決したその日から、あの子はあなただけを見てきているんです。だから膨大な力に呑まれずに使いこなした。だから当主にまでなった……」
違ったんだ。そんな些細だと思ていたことが、シアの人生を変えていたんだ。
「ノヴァさんは、あの子からの縁談の話をお受けするつもりなんですよね?」
「……はい。俺はシアを護りたいと思いました。必要ないかもしれないけど、頼りないかもしれないけど、護りたいと」
「あの子を、護るですか……」
やはり俺では力不足なのは否めないのか、そう呟いたユティさん。けど彼女はゆっくりと頭を下げた。
「姉として言います。あの子のこと、よろしくお願いします」
「……はい」
しっかりと返答すると、ユティさんは顔を上げてまた机へと向かっていってしまった。俺はそれ以上言葉を交わすことなく、不要だと言われた本の束をもって部屋を出て行く。長い廊下を歩きながら、さっきのユティさんの言葉を思い返した。
いいお姉さんだった。少なくとも俺の兄上達とは違うと思った。変わっている人だと思ったけど、いや変わっているけど良い人だ。
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