宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第178話 待ちわびた報告

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 時は過ぎ、23歳の誕生日を越えた少し後のある日。執務室で仕事をしていた俺は、やや大きなノックの音を聞いて返事をする。すると勢いよく扉が開き、オーロラちゃんが中へと入ってきた。

「久しぶりねノヴァお兄様! 来ちゃったわ!」

「ああ、オーロラちゃん。本当に久しぶりだね」

 以前はこの屋敷に住み込んでいたこともあり、少しの時間会っていないだけでもオーロラちゃんと会うのは凄く久しぶりな気がした。それでも彼女はいつものように元気いっぱいで、健康に何の問題もなく日々を過ごせているのがよく分かる様子だ。

 そしてオーロラちゃんの奥から一人の小さなメイドが入ってきた。オーロラちゃんとは、うちの屋敷の中で一番仲が良いソニアちゃんだ。

「オーラちゃん、置いていかないでよ」

「ごめんごめん、ノヴァお兄様に久しぶりに会えるのが嬉しくてさ」

 そう言って頭に手を当てて微笑むオーロラちゃんを見て、ソニアちゃんとの身長差に気づいた。いや、正確にはオーロラちゃんがさらに成長して大きくなっている。
 俺が今23歳という事は、オーロラちゃんは17歳。すっかり大人な女性になったオーロラちゃんを見ていると、妹の成長を喜ぶ兄のような気持になってしまう。そんな彼女は今は北の領地の一つを任せられる分家の当主だ。

 他の貴族からの評判も良く、助かっているとシアから聞いている。魔法の腕のみならずこっちの方も天才だったか、と思ったのは記憶に新しい。まあ、塔での地獄のような勉強の日々のお陰であることは知っているから、そう考えると少し微妙なところだけど。

「お茶でも入れましょうか」

「ありがとう、ターニャ」

 お茶の準備にかかるターニャと、それを手伝うソニアちゃん。俺とオーロラちゃんはそんな二人を横目に、長椅子に腰かけた。

「それにしても、久しぶりに来たけどフォルス家はやっぱり良いわね。落ち着くわ」

「まあ、第二の実家みたいに思ってくれると嬉しいかな」

「思ってるわよ。久しぶりに兵の皆に訓練でもつけようかしら」

「おっ、オーロラ先生が帰ってくる?」

「先生は止めてちょうだい。グレイス先生の顔が頭を過ぎるわ」

 苦笑いするオーロラちゃんは今はもうグレイスさんに授業はしてもらっていない。けれど長い間先生と生徒という関係だったため、それが抜けきれていないらしい。この前は分家当主としてグレイスさんに敬語で挨拶されて背中が痒かったと笑いながら話していた。

「あ、そうだオーラちゃん、最近また良い豆が手に入って――」

 振り返ってオーロラちゃんに話しかけていたソニアちゃん。しかしその声は途中で中断されることになる。ソニアちゃんとオーロラちゃんの間に、急に金色の楕円が広がったからだ。

「あ」

 声を出したのも束の間、ゲートの魔法から人が出てくる。出てきたのは当然ゲートの魔法を使用できる唯一の魔法使い、シア。しかしその後には、もう一人見知った人が続いた。

「……ユティさん?」

 珍しいことに、シアに続いてゲートを通ってきたのはユティさんだった。その後には誰もいないようで、ユティさんが通り抜けてから少しして金色の楕円は閉じる。
 意図せずして、アークゲートの三姉妹が俺の執務室に初めて揃った瞬間だった。

「あら、オーラも来ていたんですね」

「こんにちはお姉様。ちょうどノヴァお兄様に久しぶりに会いに来たところでした」

「ふむ、ちょうど良いかもしれませんね」

 ちょうど良い、という言葉に首を傾げて俺はシアに尋ねる。

「シア? 何かあったの?」

 親睦会を開催してからしばらく時間が経つものの、最近は特に大きな問題もなく、こんな昼過ぎにシアが俺の部屋を訪れることもなかった。
 緊急事態かと一瞬思ったものの、シアは満面の笑み。どうやら悪い知らせではないみたいだ。

「ノヴァさん、ついにフォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を打ち消す薬が完成したそうです」

「本当ですか、ユティさん!?」

 ユティさんの言葉に俺は思わず大きな声を出してしまう。長い時間をかけて開発してきた薬がついにできたというのか。
 シアとユティさんは頷き、シアの方が今度は口を開いた。

「研究所にてナターシャが説明してくれるそうです。とりあえず完成した物を見に行こうと思い、ここを訪れた次第なのですが、仕事の方は大丈夫でしょうか?」

「うん、仕事は今日一日くらいなら穴を開けても大丈夫だよ。あ、でもお茶の準備が……」

 最近は時間が取れていたから仕事に追われているようなことはない。ただ先ほどオーロラちゃんが来たために、ターニャとソニアちゃんにお茶の用意をお願いしていた。
 もし用意が済んでいたらシアに頼んで保存をしてもらおうと思ったけれど、視線を向けてみるとターニャは首を横に振った。

「まだ準備を始めた段階だったので、こちらの事はお気になさらず」

「あら、我ながら良いタイミングでゲートを繋げられたようですね」

 クスクスと笑うシア。ゲートが繋がった段階でお茶の準備を途中で止めてくれたらしく、確かにソニアちゃんの近くにはお茶を準備する途中で放置されていた形跡があった。

 シアは手を素早く動かし、もう一度執務室内に金色の楕円を広げる。その先が王都の研究所に繋がっているのは聞くまでもなく分かった。

「オーラも来ますか?」

「はい、私にも関係することですので、確認したいです」

「では四人で行きましょう」

 シアは微笑んで頷き、俺の方へと近づいてくる。首を傾げていると、隣まで来たシアは振り返り並ぶ形になる。そして右手を俺の左手に絡めてきた。指と指がかみ合い、がっしりと結ばれる二つの手。小さなシアの手のひらから伝わる温度が胸を温かくしてくれる。

「行きましょうか、ノヴァさん。良い未来を創る第一歩を確認しに」

 俺を覗き込むようにして微笑むシア。その曇りもない綺麗な笑顔に、俺も自然な笑顔で返す。フォルス家とアークゲート家の関係とか、北と南の関係改善の大きな一歩とか、色々と理由はある。けれどこの薬はシアとの将来、つまり俺達の子供にも関係する大事なものだ。

 だから、大きく頷いて。

「うん、確認しに行こう。楽しみだよ」

 握り合う手に力を入れて、俺とシアは歩き出す。ゲートの魔法は使用するときに手をつなぐ必要はない。けれど俺達はただ手を繋ぎたいから繋いでいるだけだ。握り返される力を感じて、俺達はゲートへと入っていく。

 その様子を、ユティさんが穏やかな表情で見ていることや、オーロラちゃんが苦しそうな表情で見ていることには気づかなかった。
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