宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
178 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第178話 待ちわびた報告

しおりを挟む
 時は過ぎ、23歳の誕生日を越えた少し後のある日。執務室で仕事をしていた俺は、やや大きなノックの音を聞いて返事をする。すると勢いよく扉が開き、オーロラちゃんが中へと入ってきた。

「久しぶりねノヴァお兄様! 来ちゃったわ!」

「ああ、オーロラちゃん。本当に久しぶりだね」

 以前はこの屋敷に住み込んでいたこともあり、少しの時間会っていないだけでもオーロラちゃんと会うのは凄く久しぶりな気がした。それでも彼女はいつものように元気いっぱいで、健康に何の問題もなく日々を過ごせているのがよく分かる様子だ。

 そしてオーロラちゃんの奥から一人の小さなメイドが入ってきた。オーロラちゃんとは、うちの屋敷の中で一番仲が良いソニアちゃんだ。

「オーラちゃん、置いていかないでよ」

「ごめんごめん、ノヴァお兄様に久しぶりに会えるのが嬉しくてさ」

 そう言って頭に手を当てて微笑むオーロラちゃんを見て、ソニアちゃんとの身長差に気づいた。いや、正確にはオーロラちゃんがさらに成長して大きくなっている。
 俺が今23歳という事は、オーロラちゃんは17歳。すっかり大人な女性になったオーロラちゃんを見ていると、妹の成長を喜ぶ兄のような気持になってしまう。そんな彼女は今は北の領地の一つを任せられる分家の当主だ。

 他の貴族からの評判も良く、助かっているとシアから聞いている。魔法の腕のみならずこっちの方も天才だったか、と思ったのは記憶に新しい。まあ、塔での地獄のような勉強の日々のお陰であることは知っているから、そう考えると少し微妙なところだけど。

「お茶でも入れましょうか」

「ありがとう、ターニャ」

 お茶の準備にかかるターニャと、それを手伝うソニアちゃん。俺とオーロラちゃんはそんな二人を横目に、長椅子に腰かけた。

「それにしても、久しぶりに来たけどフォルス家はやっぱり良いわね。落ち着くわ」

「まあ、第二の実家みたいに思ってくれると嬉しいかな」

「思ってるわよ。久しぶりに兵の皆に訓練でもつけようかしら」

「おっ、オーロラ先生が帰ってくる?」

「先生は止めてちょうだい。グレイス先生の顔が頭を過ぎるわ」

 苦笑いするオーロラちゃんは今はもうグレイスさんに授業はしてもらっていない。けれど長い間先生と生徒という関係だったため、それが抜けきれていないらしい。この前は分家当主としてグレイスさんに敬語で挨拶されて背中が痒かったと笑いながら話していた。

「あ、そうだオーラちゃん、最近また良い豆が手に入って――」

 振り返ってオーロラちゃんに話しかけていたソニアちゃん。しかしその声は途中で中断されることになる。ソニアちゃんとオーロラちゃんの間に、急に金色の楕円が広がったからだ。

「あ」

 声を出したのも束の間、ゲートの魔法から人が出てくる。出てきたのは当然ゲートの魔法を使用できる唯一の魔法使い、シア。しかしその後には、もう一人見知った人が続いた。

「……ユティさん?」

 珍しいことに、シアに続いてゲートを通ってきたのはユティさんだった。その後には誰もいないようで、ユティさんが通り抜けてから少しして金色の楕円は閉じる。
 意図せずして、アークゲートの三姉妹が俺の執務室に初めて揃った瞬間だった。

「あら、オーラも来ていたんですね」

「こんにちはお姉様。ちょうどノヴァお兄様に久しぶりに会いに来たところでした」

「ふむ、ちょうど良いかもしれませんね」

 ちょうど良い、という言葉に首を傾げて俺はシアに尋ねる。

「シア? 何かあったの?」

 親睦会を開催してからしばらく時間が経つものの、最近は特に大きな問題もなく、こんな昼過ぎにシアが俺の部屋を訪れることもなかった。
 緊急事態かと一瞬思ったものの、シアは満面の笑み。どうやら悪い知らせではないみたいだ。

「ノヴァさん、ついにフォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を打ち消す薬が完成したそうです」

「本当ですか、ユティさん!?」

 ユティさんの言葉に俺は思わず大きな声を出してしまう。長い時間をかけて開発してきた薬がついにできたというのか。
 シアとユティさんは頷き、シアの方が今度は口を開いた。

「研究所にてナターシャが説明してくれるそうです。とりあえず完成した物を見に行こうと思い、ここを訪れた次第なのですが、仕事の方は大丈夫でしょうか?」

「うん、仕事は今日一日くらいなら穴を開けても大丈夫だよ。あ、でもお茶の準備が……」

 最近は時間が取れていたから仕事に追われているようなことはない。ただ先ほどオーロラちゃんが来たために、ターニャとソニアちゃんにお茶の用意をお願いしていた。
 もし用意が済んでいたらシアに頼んで保存をしてもらおうと思ったけれど、視線を向けてみるとターニャは首を横に振った。

「まだ準備を始めた段階だったので、こちらの事はお気になさらず」

「あら、我ながら良いタイミングでゲートを繋げられたようですね」

 クスクスと笑うシア。ゲートが繋がった段階でお茶の準備を途中で止めてくれたらしく、確かにソニアちゃんの近くにはお茶を準備する途中で放置されていた形跡があった。

 シアは手を素早く動かし、もう一度執務室内に金色の楕円を広げる。その先が王都の研究所に繋がっているのは聞くまでもなく分かった。

「オーラも来ますか?」

「はい、私にも関係することですので、確認したいです」

「では四人で行きましょう」

 シアは微笑んで頷き、俺の方へと近づいてくる。首を傾げていると、隣まで来たシアは振り返り並ぶ形になる。そして右手を俺の左手に絡めてきた。指と指がかみ合い、がっしりと結ばれる二つの手。小さなシアの手のひらから伝わる温度が胸を温かくしてくれる。

「行きましょうか、ノヴァさん。良い未来を創る第一歩を確認しに」

 俺を覗き込むようにして微笑むシア。その曇りもない綺麗な笑顔に、俺も自然な笑顔で返す。フォルス家とアークゲート家の関係とか、北と南の関係改善の大きな一歩とか、色々と理由はある。けれどこの薬はシアとの将来、つまり俺達の子供にも関係する大事なものだ。

 だから、大きく頷いて。

「うん、確認しに行こう。楽しみだよ」

 握り合う手に力を入れて、俺とシアは歩き出す。ゲートの魔法は使用するときに手をつなぐ必要はない。けれど俺達はただ手を繋ぎたいから繋いでいるだけだ。握り返される力を感じて、俺達はゲートへと入っていく。

 その様子を、ユティさんが穏やかな表情で見ていることや、オーロラちゃんが苦しそうな表情で見ていることには気づかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...