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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第177話 誰にも見つからず動き出す者
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閉じる扉を執務室の窓越しに見た人影は、用事が済んだとばかりにその場を離れる。闇夜に溶ける人影は黒い外套に身を包んでいるものの、それだけで闇に紛れているわけではない。
周りに感知されないほど高等な隠匿魔法を使用している。見つけることはほぼ不可能。魔法の名家、アークゲート家の直系最年長ユースティティア・アークゲートや、天才児であるオーロラ・アークゲートでも気づけないだろう。
ただ、その二人と比較しても隔絶した実力を持つレティシア・アークゲートならば気づけるかもしれない。けれどそこは問題ない。
人影は、そもそもレティシア・アークゲートの近くに『居ない』ことを徹底しているからだ。かのアークゲート家歴代最強当主に捕捉されなければ他は何とでもなる。そう信じていたし、事実それだけの実力を外套の人物は有していた。
離れた場所へ移動した人影は、自らが開発した魔法を使い、移動する。レティシアのゲートとは違う魔法。それを使い、隠され、誰にも見つけられない小屋の中へと転移した。かつてその人物が居た場所に比べるとあまりにも見すぼらしい木製の年季の入った小屋。だがその人物はそんなことを気にしてはいなかった。
「…………」
無言で椅子に座り、木製のテーブルの上で散乱した大量の紙に視線を送る。その全てが、フォルス家かアークゲート家に関する情報が纏められたものだった。
「……全ては上手く行っている」
綺麗な、しかし低く、威厳を感じさせる声が響く。指を動かし、魔法で浮かび上がらせたのはアークゲート家現当主、レティシア・アークゲートの名が書かれた紙だった。その紙に隣り合うようにフォルス家当主、ノヴァ・フォルスの名が書かれた紙も浮かび上がる。
「二人は結ばれた。縁談、入籍、そしてその後、ノヴァを当主に据えるために化け物は動き出した」
続けて浮かびあがったのはフォルス家前当主、トラヴィス・フォルスの名前が書かれた紙だった。
「トラヴィスを監視し、その副産物として体調不良になり紆余曲折を経て、結果としてノヴァがフォルス家の当主へ収まる」
トラヴィスの名が書かれた紙がゆっくりと落ちていく。それを見て、笑う。
「フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を無くす薬の開発に、化け物たちに少なからず悪感情を持つ者達。舞台は整いつつある。私が何もしなくても、時は迫っている」
浮かび上がる紙は、ティアラ・アークゲートやライラック・フォルス、カイラス・フォルスといった名前が書かれたものばかり。それらを見て、人影は笑った。
言った通り、多くの事はしていない。ただしたことと言えば、情報を集める副産物としてトラヴィスが重い体調不良になっただけだ。
それも結果としてノヴァ・フォルスとレティシア・アークゲートを手助けする一端となった。本来なら、この人影にとって許されない結果、しかしそれも、最終的な目的を考えれば必要なことと割り切れた。
「……オズワルドにはもう取り入った」
少し前の事を思い出して、人影は笑う。国王の前に現れたときのオズワルドの様子は面白かった。もしも、かの化け物を滅ぼせるなら手を貸すかという質問に、オズワルドは二つ返事で了承した。
断れば命はないと感じていたのかもしれないが、けれどあの時の笑顔には覚えがある。苦境からようやく報われると信じたものの顔だ。これで、もっとも必要な一人を傘下に加えた。
「ティアラ、ライラック、カイラス辺りを駒にすれば、もう準備は良いだろう。そこまで多くは必要ない」
ふわふわと三人の名前が書かれた紙を揺らし、人影は笑う。しかしそこに油断は一切ない。相手が油断など出来る相手ではないと、知っているから。
「薬の完成から一年以内に時は来る。その時を、ただ待てばいい。動く必要もない。向こうが勝手に問題を解消し、最適な時を迎えてくれる」
一枚の紙目がけてそれを斬るように指を動かす。斜めの線が紙に入り、そして。
レティシア・アークゲートの文字が書かれた紙が切り裂かれ、そして火に焼かれて灰になった。
「あの化け物さえいなくなれば、後はもうどうでもいい。どうとでもなる。どうとでもできる」
手のひらを上に向ければ、また様々な紙が浮かび上がってくる。ユースティティアやオーロラ、システィなど人物の名前が書かれた紙が多数浮かび上がり、そして。
拳を握った瞬間に、それらの名前が書かれた紙がすべて燃え、灰になって消え去る。最初に浮かび上がったノヴァの文字が書かれた紙も、ライラックの文字が書かれた紙も全て、跡形もなく消失した。
そう、この人物にとってレティシア・アークゲート以外はどうでもいい。化け物以外は、取るに足らない存在なのだから。
直系の最年長、ユースティティア・アークゲート? 天才児、オーロラ・アークゲート? 彼女たち二人掛かりでもこの人物には敵わない。敵うわけがない。
「必ず消してやる。覚悟しろ、化け物」
誰もいない、誰にも知覚されない小屋の中で、帰ってきた歴代最高の当主、エリザベート・アークゲートは決意の炎に燃える瞳を燃え散ったレティシア・アークゲートの名が書かれた紙のあった場所に向けていた。
周りに感知されないほど高等な隠匿魔法を使用している。見つけることはほぼ不可能。魔法の名家、アークゲート家の直系最年長ユースティティア・アークゲートや、天才児であるオーロラ・アークゲートでも気づけないだろう。
ただ、その二人と比較しても隔絶した実力を持つレティシア・アークゲートならば気づけるかもしれない。けれどそこは問題ない。
人影は、そもそもレティシア・アークゲートの近くに『居ない』ことを徹底しているからだ。かのアークゲート家歴代最強当主に捕捉されなければ他は何とでもなる。そう信じていたし、事実それだけの実力を外套の人物は有していた。
離れた場所へ移動した人影は、自らが開発した魔法を使い、移動する。レティシアのゲートとは違う魔法。それを使い、隠され、誰にも見つけられない小屋の中へと転移した。かつてその人物が居た場所に比べるとあまりにも見すぼらしい木製の年季の入った小屋。だがその人物はそんなことを気にしてはいなかった。
「…………」
無言で椅子に座り、木製のテーブルの上で散乱した大量の紙に視線を送る。その全てが、フォルス家かアークゲート家に関する情報が纏められたものだった。
「……全ては上手く行っている」
綺麗な、しかし低く、威厳を感じさせる声が響く。指を動かし、魔法で浮かび上がらせたのはアークゲート家現当主、レティシア・アークゲートの名が書かれた紙だった。その紙に隣り合うようにフォルス家当主、ノヴァ・フォルスの名が書かれた紙も浮かび上がる。
「二人は結ばれた。縁談、入籍、そしてその後、ノヴァを当主に据えるために化け物は動き出した」
続けて浮かびあがったのはフォルス家前当主、トラヴィス・フォルスの名前が書かれた紙だった。
「トラヴィスを監視し、その副産物として体調不良になり紆余曲折を経て、結果としてノヴァがフォルス家の当主へ収まる」
トラヴィスの名が書かれた紙がゆっくりと落ちていく。それを見て、笑う。
「フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発を無くす薬の開発に、化け物たちに少なからず悪感情を持つ者達。舞台は整いつつある。私が何もしなくても、時は迫っている」
浮かび上がる紙は、ティアラ・アークゲートやライラック・フォルス、カイラス・フォルスといった名前が書かれたものばかり。それらを見て、人影は笑った。
言った通り、多くの事はしていない。ただしたことと言えば、情報を集める副産物としてトラヴィスが重い体調不良になっただけだ。
それも結果としてノヴァ・フォルスとレティシア・アークゲートを手助けする一端となった。本来なら、この人影にとって許されない結果、しかしそれも、最終的な目的を考えれば必要なことと割り切れた。
「……オズワルドにはもう取り入った」
少し前の事を思い出して、人影は笑う。国王の前に現れたときのオズワルドの様子は面白かった。もしも、かの化け物を滅ぼせるなら手を貸すかという質問に、オズワルドは二つ返事で了承した。
断れば命はないと感じていたのかもしれないが、けれどあの時の笑顔には覚えがある。苦境からようやく報われると信じたものの顔だ。これで、もっとも必要な一人を傘下に加えた。
「ティアラ、ライラック、カイラス辺りを駒にすれば、もう準備は良いだろう。そこまで多くは必要ない」
ふわふわと三人の名前が書かれた紙を揺らし、人影は笑う。しかしそこに油断は一切ない。相手が油断など出来る相手ではないと、知っているから。
「薬の完成から一年以内に時は来る。その時を、ただ待てばいい。動く必要もない。向こうが勝手に問題を解消し、最適な時を迎えてくれる」
一枚の紙目がけてそれを斬るように指を動かす。斜めの線が紙に入り、そして。
レティシア・アークゲートの文字が書かれた紙が切り裂かれ、そして火に焼かれて灰になった。
「あの化け物さえいなくなれば、後はもうどうでもいい。どうとでもなる。どうとでもできる」
手のひらを上に向ければ、また様々な紙が浮かび上がってくる。ユースティティアやオーロラ、システィなど人物の名前が書かれた紙が多数浮かび上がり、そして。
拳を握った瞬間に、それらの名前が書かれた紙がすべて燃え、灰になって消え去る。最初に浮かび上がったノヴァの文字が書かれた紙も、ライラックの文字が書かれた紙も全て、跡形もなく消失した。
そう、この人物にとってレティシア・アークゲート以外はどうでもいい。化け物以外は、取るに足らない存在なのだから。
直系の最年長、ユースティティア・アークゲート? 天才児、オーロラ・アークゲート? 彼女たち二人掛かりでもこの人物には敵わない。敵うわけがない。
「必ず消してやる。覚悟しろ、化け物」
誰もいない、誰にも知覚されない小屋の中で、帰ってきた歴代最高の当主、エリザベート・アークゲートは決意の炎に燃える瞳を燃え散ったレティシア・アークゲートの名が書かれた紙のあった場所に向けていた。
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