20 / 315
第20話 影とは
しおりを挟む
「ところで影についてなのですが、もう少し詳しくお教えいただけませんか」
私にも憑いている影、ネロが一体どういうものか、なぜ私に憑いているのか知りたい。
「分かった。じゃあ、ちょっと座って話そうか」
殿下はソファーへと私を誘導し、殿下が着座したのを見計らって私も腰を下ろした。
執務室と違って、身体が深く沈み込みそうなくらいのクッション性があるのは来客にリラックスしてもらうためで、仕事の来客とは用途が違うのだろうか。こんな人間を駄目にするソファーなら、仕事中に使うと集中力が無くなりそうだもんね。
などと、どうでもいい事を考えていると殿下が長い足を組んだ。
美しい人はやはり行動一つ一つとってもサマになるなぁと思う。
「まず影についてだが」
口を開いた殿下に、私は意識を戻して姿勢を正す。
「はい」
「以前、影は人間や動物のなれの果てと言ったと思う。人や動物の未練や恨み妬みという強い思いが、長く地に滞在しすぎて負のエネルギーが蓄積し、闇色に染まったものだと私は見ている」
未練や恨み妬みなどの悪意は負の熱量がすごそうだ。元々私に対して持っていた感情なのか、標的を見つけて日頃から溜まっている負の感情を発散したかったのかは分からないけれど、カトリーヌ嬢ご一行様の熱意はすごかったもの。
「負のエネルギーが強いから取り憑いた相手を不調に陥れ、そして祓うのに時間がかかるのですね」
「そうだな。後者はそうだと思っていた」
「後者?」
殿下はおもむろに頷いた。
「これは君に影祓いしてもらって気付いたのだが、呪術師とは違って君の影祓いはまさにその闇の部分だけを祓っているようなんだ」
「闇の部分」
「そう。闇の部分だけを君の獣、ネロが祓う、あるいは事後、ネロが大きくなり力が増しているところを見ると吸収とでも言うのか。そのことによって闇の足枷が外れてただ純粋な思い、視覚的には光に見えたが、それが高い空へと昇って溶け込んだ。片や呪術師の影祓いは辺り一帯燃やし尽くしてしまうような、何もかも無に帰してしまうような術式だ。私に後遺症が出るのもそのせいかもしれない」
一方は浄化されて光となって穏やかに溶けゆき、もう一方は辺りを焼き払うため、術を受ける者にも影響を受けるということかな。そう聞くと呪術師様の影祓いは強力なのだろうけれども、恐ろしそうな術だ。
「影はどんな人にも憑いているのですか?」
「いや。影は言わば悪意の塊みたいなものだ。それに共鳴するような人間をより好んで取り憑くようだ。あとは影のエネルギーより下回るような人間、つまり身体が弱っている人間、心が弱っている人間ということになる。私の場合はまた特殊で、引き寄せ体質だから不調ではない時にも憑いてしまう」
引き寄せ体質ではなく、単に殿下に秘められた悪意に共鳴して取り憑くのでは? などと失礼なことを考えてしまう。
「本当に君は失礼だな。何度も言うが、私はこの国の第一王子だぞ?」
考えていなかった。口に出していた。
「申し訳ございません。つい」
言葉ほど怒っておらず、偉ぶってもいない殿下に、素直に謝っておく。
「ついは余計だ。……まあいい。続けよう。憑かれた人間は身体に変調をきたすことがほとんどだ。ただし、人によって程度もまた様々のようだが、多少なりとも何らかの異変を感じているようだ。しかし、君の場合は全く異変がない、あるいは単に気付いていない鈍感体質なだけかもしれないが、不調が起こっていないところを見ると、また特殊のようだな」
私が何も気付いていないだけの鈍感体質って。まるで脳天気なお馬鹿みたいじゃないですか。――はっ。もしや、これまでの逆襲だろうか。
「それで君の影についてだが」
「あ、はい!」
いつの間にか、ゆったりとソファーの感触を楽しんでいた私はその言葉で前のめりになる。
「正直分からない」
「…………あ、はい。正直にありがとうございました」
ここまでのお話、お疲れ様でした。
自分に労をねぎらって、私は再びソファーへと埋まった。
私にも憑いている影、ネロが一体どういうものか、なぜ私に憑いているのか知りたい。
「分かった。じゃあ、ちょっと座って話そうか」
殿下はソファーへと私を誘導し、殿下が着座したのを見計らって私も腰を下ろした。
執務室と違って、身体が深く沈み込みそうなくらいのクッション性があるのは来客にリラックスしてもらうためで、仕事の来客とは用途が違うのだろうか。こんな人間を駄目にするソファーなら、仕事中に使うと集中力が無くなりそうだもんね。
などと、どうでもいい事を考えていると殿下が長い足を組んだ。
美しい人はやはり行動一つ一つとってもサマになるなぁと思う。
「まず影についてだが」
口を開いた殿下に、私は意識を戻して姿勢を正す。
「はい」
「以前、影は人間や動物のなれの果てと言ったと思う。人や動物の未練や恨み妬みという強い思いが、長く地に滞在しすぎて負のエネルギーが蓄積し、闇色に染まったものだと私は見ている」
未練や恨み妬みなどの悪意は負の熱量がすごそうだ。元々私に対して持っていた感情なのか、標的を見つけて日頃から溜まっている負の感情を発散したかったのかは分からないけれど、カトリーヌ嬢ご一行様の熱意はすごかったもの。
「負のエネルギーが強いから取り憑いた相手を不調に陥れ、そして祓うのに時間がかかるのですね」
「そうだな。後者はそうだと思っていた」
「後者?」
殿下はおもむろに頷いた。
「これは君に影祓いしてもらって気付いたのだが、呪術師とは違って君の影祓いはまさにその闇の部分だけを祓っているようなんだ」
「闇の部分」
「そう。闇の部分だけを君の獣、ネロが祓う、あるいは事後、ネロが大きくなり力が増しているところを見ると吸収とでも言うのか。そのことによって闇の足枷が外れてただ純粋な思い、視覚的には光に見えたが、それが高い空へと昇って溶け込んだ。片や呪術師の影祓いは辺り一帯燃やし尽くしてしまうような、何もかも無に帰してしまうような術式だ。私に後遺症が出るのもそのせいかもしれない」
一方は浄化されて光となって穏やかに溶けゆき、もう一方は辺りを焼き払うため、術を受ける者にも影響を受けるということかな。そう聞くと呪術師様の影祓いは強力なのだろうけれども、恐ろしそうな術だ。
「影はどんな人にも憑いているのですか?」
「いや。影は言わば悪意の塊みたいなものだ。それに共鳴するような人間をより好んで取り憑くようだ。あとは影のエネルギーより下回るような人間、つまり身体が弱っている人間、心が弱っている人間ということになる。私の場合はまた特殊で、引き寄せ体質だから不調ではない時にも憑いてしまう」
引き寄せ体質ではなく、単に殿下に秘められた悪意に共鳴して取り憑くのでは? などと失礼なことを考えてしまう。
「本当に君は失礼だな。何度も言うが、私はこの国の第一王子だぞ?」
考えていなかった。口に出していた。
「申し訳ございません。つい」
言葉ほど怒っておらず、偉ぶってもいない殿下に、素直に謝っておく。
「ついは余計だ。……まあいい。続けよう。憑かれた人間は身体に変調をきたすことがほとんどだ。ただし、人によって程度もまた様々のようだが、多少なりとも何らかの異変を感じているようだ。しかし、君の場合は全く異変がない、あるいは単に気付いていない鈍感体質なだけかもしれないが、不調が起こっていないところを見ると、また特殊のようだな」
私が何も気付いていないだけの鈍感体質って。まるで脳天気なお馬鹿みたいじゃないですか。――はっ。もしや、これまでの逆襲だろうか。
「それで君の影についてだが」
「あ、はい!」
いつの間にか、ゆったりとソファーの感触を楽しんでいた私はその言葉で前のめりになる。
「正直分からない」
「…………あ、はい。正直にありがとうございました」
ここまでのお話、お疲れ様でした。
自分に労をねぎらって、私は再びソファーへと埋まった。
50
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる