つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
51 / 315

第51話 大人になんてならない

しおりを挟む
 私は学校から戻ると部屋で侍女服に着替え、ジェラルドさんが常駐する護衛官長室へと向かった。正確にはそこを通って、殿下のおわします執務室に入ることになるわけだけれども。

「お帰りなさいませ、ロザンヌ様」
「はい。ただいま戻りました」

 ジェラルドさんは私を笑顔で迎えてくれて、執務室に繋がる扉の前で殿下の入室許可を取ってくれた。

「失礼いたします」
「ああ、戻ったか」
「はい。ただいま戻りました」

 私は殿下のデスクの前に立って挨拶をする。

「今朝はご挨拶も無しに学校に向かいましたことを、深くお詫び申し上げます」

 馬車に乗ってから殿下に挨拶をしていなかったことに気付いたのだ。ユリアの事で頭がいっぱいだったからだけれど、それは言い訳にならない。だから、それは口に出さないでおく。

 本当はお隣の部屋だから、そこで挨拶したいところだけれど、殿下は私よりも早起きらしく、私が起きた頃にはお隣の殿下のお部屋は空っぽになっていて、執務室で既にお仕事をされている状況なのだ。なので、私は朝、学校に向かう前に執務室へとわざわざ・・・・足を運ばなければならないのである。

「いや。構わない。学校へ向かう前の朝の忙しい時間帯だ。私に挨拶する時間が無かったのだろう?」

 あら、意外。嫌味の一つでも言われるかと思っていたのに。殿下も少しは大人になっ――。

「たとえジェラルドに挨拶する時間はあったとしてもだ」

 ……うん。やっぱり大人ではないです、この人。ならば、殿下よりも三つも年下の私が大人になる必要はないでしょう。

「申し訳ございません。ユリア共々、昨日のジェラルド様へのご無礼に対して謝罪に上がっておりました。その事で頭でいっぱいになっておりましたとは言え、殿下のご機嫌伺いに……ご挨拶に伺わなかったのはわたくしの失態にございます。まだまだ成長段階の未熟者ゆえ、どうぞお許しくださいませ」
「引っかかる部分が無くもなかったが、やけに素直だな」
「まあ、ご冗談を。わたくしは常に素直にございます。――ああ、ところで」

 私は手を小さく合わせると、にっこりと笑った。

「ジェラルド様と申しますと、今朝はユリアについて質問されました。これからは王宮で主人を支える同じ立場となるので、ユリアのことをもっと知って理解したいと言ってくださったのです」
「そうか」
「ええ。それでユリアの調査はもうお済みになりましたか?」

 笑顔そのまま尋ねると、殿下はぴくりとわずかに眉を上げる。
 図星らしい。意外と顔に出やすいですね、殿下。大丈夫かなと心配になります。

「……彼女が君に言ったのか?」
「いいえ。ユリアは何も。わたくしが今朝、ジェラルド様とお話しして、そう感じただけです」

 すると殿下は一瞬黙り込んだが、すぐに大きくため息を吐いた。

「やはり君は侮れないな。なのに、なぜあの優秀なジェラルドが君の本性だけは見抜けない? なぜ彼は君に甘い? 君が丸め込んだのか? それともやはり君は、ジェラルドの前では猫を被っているのか?」
「本人を前にしながら、色々おっしゃっていますが、失礼な事を口にしている自覚はあるのでしょうか」

 無いな。うん、絶対無いよ。

「仕方がないだろう。根が正直なんだ。少し油断すると口から零れ出す」
「まあ! 初めて殿下と意見が合いました。わたくしも常々そう感じておりました。ですので今後、わたくしが失言してもどうぞご容赦を」

 にこにこと笑みを返すと、殿下はやられたなと嫌そうに苦笑いした。

「ところで殿下」

 私は一つ深呼吸して、場の雰囲気を切り替える。

「ユリアの話です。既にジェラルド様からご報告を受けられたとは思いますが、彼女は過去の事を悔やみ、悔やんでいると思……と、ともかく今は改心しております。うちに勤めてからはストリートチルドレン時代の知人にも一切接触を取っておりませんし、侍女としての誇りを持って真面目に勤め上げてくれています。今や、どこに出しても恥ずかしくな……ええっと、愛敬はひとまず横に置きまして」

 私はごほんと誤魔化し咳払いをした。

「今やとても有能な侍女となりました。どうぞ今の働きぶりをご評価いただければと存じます」
「ああ。それは分かっている。もちろん彼女の背景も気にはなったが、私が気にかかったのはそこではない」
「と、申しますと」

 殿下は言うか言うまいかと逡巡している様子だったが、私が返事待ちしているので、仕方なさそうに重い口を開いた。

「昨日、君の侍女には影が憑いていたんだ」
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...