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第51話 大人になんてならない
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私は学校から戻ると部屋で侍女服に着替え、ジェラルドさんが常駐する護衛官長室へと向かった。正確にはそこを通って、殿下のおわします執務室に入ることになるわけだけれども。
「お帰りなさいませ、ロザンヌ様」
「はい。ただいま戻りました」
ジェラルドさんは私を笑顔で迎えてくれて、執務室に繋がる扉の前で殿下の入室許可を取ってくれた。
「失礼いたします」
「ああ、戻ったか」
「はい。ただいま戻りました」
私は殿下のデスクの前に立って挨拶をする。
「今朝はご挨拶も無しに学校に向かいましたことを、深くお詫び申し上げます」
馬車に乗ってから殿下に挨拶をしていなかったことに気付いたのだ。ユリアの事で頭がいっぱいだったからだけれど、それは言い訳にならない。だから、それは口に出さないでおく。
本当はお隣の部屋だから、そこで挨拶したいところだけれど、殿下は私よりも早起きらしく、私が起きた頃にはお隣の殿下のお部屋は空っぽになっていて、執務室で既にお仕事をされている状況なのだ。なので、私は朝、学校に向かう前に執務室へとわざわざ足を運ばなければならないのである。
「いや。構わない。学校へ向かう前の朝の忙しい時間帯だ。私に挨拶する時間が無かったのだろう?」
あら、意外。嫌味の一つでも言われるかと思っていたのに。殿下も少しは大人になっ――。
「たとえジェラルドに挨拶する時間はあったとしてもだ」
……うん。やっぱり大人ではないです、この人。ならば、殿下よりも三つも年下の私が大人になる必要はないでしょう。
「申し訳ございません。ユリア共々、昨日のジェラルド様へのご無礼に対して謝罪に上がっておりました。その事で頭でいっぱいになっておりましたとは言え、殿下のご機嫌伺いに……ご挨拶に伺わなかったのはわたくしの失態にございます。まだまだ成長段階の未熟者ゆえ、どうぞお許しくださいませ」
「引っかかる部分が無くもなかったが、やけに素直だな」
「まあ、ご冗談を。わたくしは常に素直にございます。――ああ、ところで」
私は手を小さく合わせると、にっこりと笑った。
「ジェラルド様と申しますと、今朝はユリアについて質問されました。これからは王宮で主人を支える同じ立場となるので、ユリアのことをもっと知って理解したいと言ってくださったのです」
「そうか」
「ええ。それでユリアの調査はもうお済みになりましたか?」
笑顔そのまま尋ねると、殿下はぴくりとわずかに眉を上げる。
図星らしい。意外と顔に出やすいですね、殿下。大丈夫かなと心配になります。
「……彼女が君に言ったのか?」
「いいえ。ユリアは何も。わたくしが今朝、ジェラルド様とお話しして、そう感じただけです」
すると殿下は一瞬黙り込んだが、すぐに大きくため息を吐いた。
「やはり君は侮れないな。なのに、なぜあの優秀なジェラルドが君の本性だけは見抜けない? なぜ彼は君に甘い? 君が丸め込んだのか? それともやはり君は、ジェラルドの前では猫を被っているのか?」
「本人を前にしながら、色々おっしゃっていますが、失礼な事を口にしている自覚はあるのでしょうか」
無いな。うん、絶対無いよ。
「仕方がないだろう。根が正直なんだ。少し油断すると口から零れ出す」
「まあ! 初めて殿下と意見が合いました。わたくしも常々そう感じておりました。ですので今後、わたくしが失言してもどうぞご容赦を」
にこにこと笑みを返すと、殿下はやられたなと嫌そうに苦笑いした。
「ところで殿下」
私は一つ深呼吸して、場の雰囲気を切り替える。
「ユリアの話です。既にジェラルド様からご報告を受けられたとは思いますが、彼女は過去の事を悔やみ、悔やんでいると思……と、ともかく今は改心しております。うちに勤めてからはストリートチルドレン時代の知人にも一切接触を取っておりませんし、侍女としての誇りを持って真面目に勤め上げてくれています。今や、どこに出しても恥ずかしくな……ええっと、愛敬はひとまず横に置きまして」
私はごほんと誤魔化し咳払いをした。
「今やとても有能な侍女となりました。どうぞ今の働きぶりをご評価いただければと存じます」
「ああ。それは分かっている。もちろん彼女の背景も気にはなったが、私が気にかかったのはそこではない」
「と、申しますと」
殿下は言うか言うまいかと逡巡している様子だったが、私が返事待ちしているので、仕方なさそうに重い口を開いた。
「昨日、君の侍女には影が憑いていたんだ」
「お帰りなさいませ、ロザンヌ様」
「はい。ただいま戻りました」
ジェラルドさんは私を笑顔で迎えてくれて、執務室に繋がる扉の前で殿下の入室許可を取ってくれた。
「失礼いたします」
「ああ、戻ったか」
「はい。ただいま戻りました」
私は殿下のデスクの前に立って挨拶をする。
「今朝はご挨拶も無しに学校に向かいましたことを、深くお詫び申し上げます」
馬車に乗ってから殿下に挨拶をしていなかったことに気付いたのだ。ユリアの事で頭がいっぱいだったからだけれど、それは言い訳にならない。だから、それは口に出さないでおく。
本当はお隣の部屋だから、そこで挨拶したいところだけれど、殿下は私よりも早起きらしく、私が起きた頃にはお隣の殿下のお部屋は空っぽになっていて、執務室で既にお仕事をされている状況なのだ。なので、私は朝、学校に向かう前に執務室へとわざわざ足を運ばなければならないのである。
「いや。構わない。学校へ向かう前の朝の忙しい時間帯だ。私に挨拶する時間が無かったのだろう?」
あら、意外。嫌味の一つでも言われるかと思っていたのに。殿下も少しは大人になっ――。
「たとえジェラルドに挨拶する時間はあったとしてもだ」
……うん。やっぱり大人ではないです、この人。ならば、殿下よりも三つも年下の私が大人になる必要はないでしょう。
「申し訳ございません。ユリア共々、昨日のジェラルド様へのご無礼に対して謝罪に上がっておりました。その事で頭でいっぱいになっておりましたとは言え、殿下のご機嫌伺いに……ご挨拶に伺わなかったのはわたくしの失態にございます。まだまだ成長段階の未熟者ゆえ、どうぞお許しくださいませ」
「引っかかる部分が無くもなかったが、やけに素直だな」
「まあ、ご冗談を。わたくしは常に素直にございます。――ああ、ところで」
私は手を小さく合わせると、にっこりと笑った。
「ジェラルド様と申しますと、今朝はユリアについて質問されました。これからは王宮で主人を支える同じ立場となるので、ユリアのことをもっと知って理解したいと言ってくださったのです」
「そうか」
「ええ。それでユリアの調査はもうお済みになりましたか?」
笑顔そのまま尋ねると、殿下はぴくりとわずかに眉を上げる。
図星らしい。意外と顔に出やすいですね、殿下。大丈夫かなと心配になります。
「……彼女が君に言ったのか?」
「いいえ。ユリアは何も。わたくしが今朝、ジェラルド様とお話しして、そう感じただけです」
すると殿下は一瞬黙り込んだが、すぐに大きくため息を吐いた。
「やはり君は侮れないな。なのに、なぜあの優秀なジェラルドが君の本性だけは見抜けない? なぜ彼は君に甘い? 君が丸め込んだのか? それともやはり君は、ジェラルドの前では猫を被っているのか?」
「本人を前にしながら、色々おっしゃっていますが、失礼な事を口にしている自覚はあるのでしょうか」
無いな。うん、絶対無いよ。
「仕方がないだろう。根が正直なんだ。少し油断すると口から零れ出す」
「まあ! 初めて殿下と意見が合いました。わたくしも常々そう感じておりました。ですので今後、わたくしが失言してもどうぞご容赦を」
にこにこと笑みを返すと、殿下はやられたなと嫌そうに苦笑いした。
「ところで殿下」
私は一つ深呼吸して、場の雰囲気を切り替える。
「ユリアの話です。既にジェラルド様からご報告を受けられたとは思いますが、彼女は過去の事を悔やみ、悔やんでいると思……と、ともかく今は改心しております。うちに勤めてからはストリートチルドレン時代の知人にも一切接触を取っておりませんし、侍女としての誇りを持って真面目に勤め上げてくれています。今や、どこに出しても恥ずかしくな……ええっと、愛敬はひとまず横に置きまして」
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「ああ。それは分かっている。もちろん彼女の背景も気にはなったが、私が気にかかったのはそこではない」
「と、申しますと」
殿下は言うか言うまいかと逡巡している様子だったが、私が返事待ちしているので、仕方なさそうに重い口を開いた。
「昨日、君の侍女には影が憑いていたんだ」
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