66 / 315
第66話 聡明で高潔で誇り高いカトリーヌ様
しおりを挟む
私はにっこりと笑みを見せた。
「実はお話しさせていただきたかったのは、今回の一連の出来事です」
「……何よ。あなたに謝ったでしょ。別にもう、あなたに手出しはしないわよ。まだ文句あるの」
彼女は腕を組んでこちらを睨み付ける。
いやいや。文句があるのはそちらではないのか、という言葉を私はこくんと呑み込む。
「いいえ。謝罪いただきましたし、わたくしの方は何も文句はございません。ですが、カトリーヌ様が誤解なさったままではご不愉快な気持ちは消えないかと思いまして」
「誤解って何よ」
「今回、カトリーヌ様がわたくしに敵意を見せられたのは、社交場でのお噂を耳にされたからなのですよね。わたくしが王族である殿下に無礼を働いたのではないかと勘違いなさって。それも致し方ないことです。その場では何の釈明も頂けなかったのですから」
あの時の事を思い出すと、居たたまれなかった気持ちを思い出して嫌な気分になる。
あー。なんか殿下に対して、段々腹が立ってきたぞ。なぜ何の罪も無い私がここまで立ち回らなければならないのかという話だ!
しかし感情を抑え、私は笑顔で続ける。
「王家に恥をかかせたと誤解されたカトリーヌ様が、わたくしに抗議の意味で応対されたのでしょう? そうでなければ、まさか誇り高き伯爵令嬢であるカトリーヌ様が、しがない子爵家の娘に対し、ちっぽけな優越感のために蔑むような真似はなさらないでしょうし」
彼女に自分の立場を思い出させてさしあげる。
相手にけんかを吹っかけるのは、心に余裕が無い同程度の人間がするということを。下の者に対してけんかを買うこと、まして売ることは粋じゃないということを。いわゆる金持ち喧嘩せず、というやつだ。
「も、もちろんよ!? あ、当たり前じゃない!」
時折強調しながら確認すると、彼女はここぞとばかりに頷いた。
やはり爵位の名を汚したくないという彼女なりのプライドがあるらしい。
「そうでしょう。そうだと思っておりました。わたくしたち民は王家に忠誠を誓っておりますものね。特に清廉潔癖なカトリーヌ様のことです。勘違いとは言え、私が許せなかったのでしょう。カトリーヌ様のわたくしへの行為も王家を崇敬するあまりのことだった。そうですわよね」
「そ、そうよ。そうだと言っているじゃない! わたくしは王家を汚す者を粛正しなければと思ってのことだったのよ!」
再度念押しすると彼女は顔を赤らめ、ムキになって肯定する。
まあ、王家を差し置いてあなたに粛正する権利などないのですがね。
などと言ったらまた面倒な事になるので、我慢我慢。大人になれ、私。
「ええ、ええ。もちろん理解しております。高潔であるカトリーヌ様のこと。わたくしもそうではないかと思っておりました」
「そ、そうよ。そうなのよ」
腕を組んだまま、そっぽを向いているカトリーヌ嬢が何だか可愛く見えてきたから不思議だ。
笑いを懸命にこらえつつ、神妙な顔を作ってみせる。
「ですが、わたくしもまた王家に忠誠を誓っている身であることをご理解いただきたいのです。そしてそれを証明する形で殿下よりご厚遇を賜りました」
「そ、そうね。そうだと思うわ。殿下からご厚情を頂いたのだもの。それぐらいわたくしにも分かっているわ」
そこで私は深く頷いた。
「そうですか。やはりご理解いただいていたのですね。おそらく聡明なカトリーヌ様には既にご理解いただいているのではないかとは思っていたのですが、一方で果たして本当に誤解が解けたのかと不安になり、念のためにと確認に上がった次第なのです」
けんか腰では相手もまた感情的になるだろうから、少々不本意だけれども彼女のプライドを立てるように下手に出て、しおらしく確認を取る姿勢を見せる。
「……ええ。解けたわ。解いたわよ。あなたが王家に忠誠を誓っているのは証明されたし、理解しているわ」
「そうですか。良かった!」
私はぱっと表情を明るくすると、唇の前でぱちりと手を合わせた。
「それでは、これからも同じく王家を崇拝する民として、共に手を取り合って王族の方々をお支えしていきましょう」
だめ押ししてカトリーヌ嬢の両手をがっちり取ると、彼女は一瞬ぎょっとしたけれど、ええそうねとすっかり最初の勢いを失った様子で肩を落とした。
「実はお話しさせていただきたかったのは、今回の一連の出来事です」
「……何よ。あなたに謝ったでしょ。別にもう、あなたに手出しはしないわよ。まだ文句あるの」
彼女は腕を組んでこちらを睨み付ける。
いやいや。文句があるのはそちらではないのか、という言葉を私はこくんと呑み込む。
「いいえ。謝罪いただきましたし、わたくしの方は何も文句はございません。ですが、カトリーヌ様が誤解なさったままではご不愉快な気持ちは消えないかと思いまして」
「誤解って何よ」
「今回、カトリーヌ様がわたくしに敵意を見せられたのは、社交場でのお噂を耳にされたからなのですよね。わたくしが王族である殿下に無礼を働いたのではないかと勘違いなさって。それも致し方ないことです。その場では何の釈明も頂けなかったのですから」
あの時の事を思い出すと、居たたまれなかった気持ちを思い出して嫌な気分になる。
あー。なんか殿下に対して、段々腹が立ってきたぞ。なぜ何の罪も無い私がここまで立ち回らなければならないのかという話だ!
しかし感情を抑え、私は笑顔で続ける。
「王家に恥をかかせたと誤解されたカトリーヌ様が、わたくしに抗議の意味で応対されたのでしょう? そうでなければ、まさか誇り高き伯爵令嬢であるカトリーヌ様が、しがない子爵家の娘に対し、ちっぽけな優越感のために蔑むような真似はなさらないでしょうし」
彼女に自分の立場を思い出させてさしあげる。
相手にけんかを吹っかけるのは、心に余裕が無い同程度の人間がするということを。下の者に対してけんかを買うこと、まして売ることは粋じゃないということを。いわゆる金持ち喧嘩せず、というやつだ。
「も、もちろんよ!? あ、当たり前じゃない!」
時折強調しながら確認すると、彼女はここぞとばかりに頷いた。
やはり爵位の名を汚したくないという彼女なりのプライドがあるらしい。
「そうでしょう。そうだと思っておりました。わたくしたち民は王家に忠誠を誓っておりますものね。特に清廉潔癖なカトリーヌ様のことです。勘違いとは言え、私が許せなかったのでしょう。カトリーヌ様のわたくしへの行為も王家を崇敬するあまりのことだった。そうですわよね」
「そ、そうよ。そうだと言っているじゃない! わたくしは王家を汚す者を粛正しなければと思ってのことだったのよ!」
再度念押しすると彼女は顔を赤らめ、ムキになって肯定する。
まあ、王家を差し置いてあなたに粛正する権利などないのですがね。
などと言ったらまた面倒な事になるので、我慢我慢。大人になれ、私。
「ええ、ええ。もちろん理解しております。高潔であるカトリーヌ様のこと。わたくしもそうではないかと思っておりました」
「そ、そうよ。そうなのよ」
腕を組んだまま、そっぽを向いているカトリーヌ嬢が何だか可愛く見えてきたから不思議だ。
笑いを懸命にこらえつつ、神妙な顔を作ってみせる。
「ですが、わたくしもまた王家に忠誠を誓っている身であることをご理解いただきたいのです。そしてそれを証明する形で殿下よりご厚遇を賜りました」
「そ、そうね。そうだと思うわ。殿下からご厚情を頂いたのだもの。それぐらいわたくしにも分かっているわ」
そこで私は深く頷いた。
「そうですか。やはりご理解いただいていたのですね。おそらく聡明なカトリーヌ様には既にご理解いただいているのではないかとは思っていたのですが、一方で果たして本当に誤解が解けたのかと不安になり、念のためにと確認に上がった次第なのです」
けんか腰では相手もまた感情的になるだろうから、少々不本意だけれども彼女のプライドを立てるように下手に出て、しおらしく確認を取る姿勢を見せる。
「……ええ。解けたわ。解いたわよ。あなたが王家に忠誠を誓っているのは証明されたし、理解しているわ」
「そうですか。良かった!」
私はぱっと表情を明るくすると、唇の前でぱちりと手を合わせた。
「それでは、これからも同じく王家を崇拝する民として、共に手を取り合って王族の方々をお支えしていきましょう」
だめ押ししてカトリーヌ嬢の両手をがっちり取ると、彼女は一瞬ぎょっとしたけれど、ええそうねとすっかり最初の勢いを失った様子で肩を落とした。
38
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる