つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第67話 ジェラルド様のご配慮

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「お疲れ様でした、ロザンヌ様」

 表情の乏しい顔で労りの言葉をかけてくれるのは、もちろん校門前で待機していたユリアだ。

「ええ。今日は本当に疲れたわ。精神的に」

 でもあれだけカトリーヌ嬢に自分の立場を理解させておけば、プライドの高い彼女は家の名に恥じぬ行動を心がけるようになるでしょう。そして彼女のお友達はそれに従うはず。
 とりあえず教室内ではようやく一息つけるというところか。

「そうですか。では帰って少しお休みになられては」
「ええ。そうね。その後またお仕事だし……ん? あれ? ジェラルド様はどうなさったの?」

 彼の姿が見えないことに私は疑問を感じた。

「ジェラルド様より予定に変更があり、別の者を同乗させると直接ご説明いただきました。それと急な変更による謝罪も」
「そ、そう」

 ジェラルドさんのことだからかしこまって謝罪されたのだろうと容易に想像がつく。それを無表情極まったユリアがそうですかと冷めた目で受けたことを想像すると、また胸が痛くなってきましたよ。

 ユリアは状況を受けて、ただ返事しただけで他意はありませんから。
 ……って後で、しっかり伝えないと。

「それでその代理の方は?」
「あちらでお待ちです」

 ユリアが伸ばす手先を追うと迎えの馬車のすぐ側に、どこか居心地悪そうに護衛官が立っている。

「あら。彼は確かわたくしの部屋の扉前に立っていた……」

 私を決してロザンヌ・ダングルベールと認めず、不審者扱いしてくれちゃったカルロ・アレオン護衛官だ。確か第二部隊所属だったか。

「はい。ご指摘の通りあの時の護衛官です。ロザンヌ様が見知った顔の護衛官の方が安心なさるのではないかと、ジェラルド様が」

 なるほど。私にとっては忘れられない(忘れたくもない)顔で、確実にジェラルド様の部下だとは分かる。だから安心は安心だけれども、アレオン護衛官にとって私は最も対応したくない人物だろう。なぜなら陰湿な嫌味を言うであろう(まさか! 致しません)私と、無表情無言(これは地)で彼を見つめるユリアを共にする帰り道はさぞかし地獄だろうから。

 これがジェラルドさんの言う処罰の一つだったとしたら、なかなか彼も手厳しいのかもしれない。しかし、ジェラルドさんがそんな公私混同するような人ではないのは確実で、純粋に私のことを思っての配慮だと思う。

 だが、そういうことを意図的にする人物を私は知っている。その名はそう――エルベルト殿下だ! あやつならする。確実にする!
 私は手でぐっと握り拳を作ったところで。

「ロザンヌ様。いつまでここにいるのですか。代理の不満は直接ジェラルド様に言ってください」

 ユリアの冷めた声で我に返る。

「あ、ああ。そうね。帰りましょう。あ、でもジェラルド様に不満は無いからねっ」

 不満があるとすればそれは殿下のみである。

「そうですか。……ジェラルド様を信頼しているのですね」
「ええ。もちろんよ。とても信頼しているわ。ユリアの次にね」
「――っ!」

 さりげなく言った言葉に対して、ユリアの顔に感情が灯る。少し照れたような、むず痒そうな表情だ。
 私はくすくす笑いながら、さあ帰りましょうと彼女を促した。そして馬車に近付くと、私と目が合ったアレン護衛官は一瞬肩を震わせ、続いてびしりと背筋を正した。

「ロザンヌ様! せ、先日は失礼いたしました!」
「いいえ。別に気にしておりません。お気遣いなく」
「は、はい! ありがとうございます!」
「た・だ」

 私は片目を伏せて唇を薄く引き、人差し指を立てた。

「どこにでもいそうな平凡な侍女どころか、不審者に間違えられるような容姿ですが、以後、お見知りおきくださいね」
「……はい。ま、誠に申し訳ありませんでした」


 馬車の中にて。

「と、ところでね。ユリア」

 私は恐る恐る話を切り出した。

「はい」
「今朝の学校からの帰り、ジェラルド様と何かお話ししていた?」
「そうですね。王宮勤めは慣れたかとか、何か困っていることはないかとか、そういうことを聞かれました」

 さすがジェラルド様! ユリアを気遣ってくださっているのですね。感涙です。

「そ、それで!? ユリアは何と答えたの?」
「慣れました。特にありませんと」

 さすがユリア。会話をぶった切るあまりにも端的な返しですね。滝涙です……。
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