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第68話 真綿で柔らかく押し切るジェラルド様
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学校から戻って部屋で少し休憩を取る。殿下のために立ち回されているのだから、それぐらい許されていいはずだ、うん。
私はソファーからユリアを仰ぎ見た。
「あのね、ユリア」
「何でしょうか」
「もしユリアがジェラルド様を……苦手としているのならば、別の方に就いていただけるか、殿下にお尋ねしてみましょうか」
ユリアは意外そうに眉を上げる。
「いえ。別に私は何とも思っていませんが」
「そう? 失礼な態度とか取っていない?」
「失礼な態度」
まるで思いつきませんとでも言いたげに、わずかに首を傾げる彼女に私は苦笑いしてしまう。
「ほら。馬車に乗る時、ジェラルド様の手を無視してさっさと乗り込んでいるでしょう。あれ、結構失礼だと思うのよね」
せっかくご厚意で補助を買って出て下さっているのに、それを無視する形はジェラルドさんにとって、立つ瀬がないと思う。
「ジェラルド様は殿下直属の護衛官長様であり、殿下よりロザンヌ様もお守りするよう命を下されているお方です。対して私はロザンヌ様の侍女に過ぎず、守られるべき存在ではありません。お手を煩わせるのもどうかと」
言いたい事は分かる。分かるぞ。だがね。手持ちぶさたになっておられるジェラルド様を見ていると、私の胸が痛むのです!
「わたくしがジェラルド様のお手をお借りしてと言ったら応じてくれる?」
「致しません」
「ですよねー。うん、知ってた……」
即答された私は涙を呑みつつ護衛官室へと向かった。
「失礼いたします」
入室許可を得て中に入ると、ジェラルドさんはすぐに立ち上がってくださる。
「ロザンヌ様。本日はお迎えに上がれず、失礼いたしました」
「いいえ、そんな。むしろいつもお忙しい中、送迎してくださって感謝しております」
こちらが恐縮するほどの謝罪体勢だ。
「ご無礼かとも考えたのですが、突然の変更を不安に思われるかと、ロザンヌ様がご存知のカルロ・アレオン護衛官を手配いたしました。何か不手際はなかったでしょうか」
「ええ。ご心配なさるような事は何もありません。アレオン護衛官様はよくやってくださいました。そ、それよりですね」
私はこほんと咳払いする。
「こちらこそ、ユリアがジェラルド様に何か失礼な態度を取ったりはしなかったでしょうか」
「いいえ。私にまでお気遣いいただき、ありがとうございます」
あまりにも穏やかな笑顔で応対してくださるので、その言葉が本当か否かが分からない。
「えっと。ユリアは問いに対して自分の考えを素直に返事するだけで、た、他意はないのです。ジェラルド様の補助をお借りしないのも、侍女ごときがお手を煩わせてはいけないと考えているからでしてっ!」
「はい。承知しております。彼女はとても実直な方ですね」
実直? ま、まあ。良い方向に取っていただけると、そういう事になるやもしれませんが。
「あの……。殿下のご配慮はとてもありがたく存じますが、ジェラルド様もとてもお忙しい御身ですし、わたくしの送迎ごときで官長様が自ら動いていただくなどあまりにも役不足です。僭越ながら、送迎時の同乗を他の方に変更していただくよう殿下にお願い申し上げようと考えております」
ジェラルド様は好意的に取ってくださっているけれど、やはりユリアの対応も気になるし、朝、説得できなかったことがここでできるチャンスでもある。
「ロザンヌ様は、やはり私ではご不満でしょうか。確かに今回のように、急務に対応しきれなかった私にご不安を持たれたのだとは承知しておりますが」
私は慌てて否定の手を振る。
「いいえ。そんなジェラルド様に不満とか不安だなんて! とんでもないことです! 代理の方が来られること自体は何とも思っておりませんし、むしろジェラルド様がお忙しい中を縫ってわたくしごときに付いてくださることに対して、申し訳ないと思っている次第でありまして」
「そうでしたか。それを伺って安心いたしました」
ジェラルドさんは硬かった表情をふっと崩した。
……ん?
「ではこれからも、私がロザンヌ様にお供させていただいてもよろしいのですね」
「え?」
「私はロザンヌ様の護衛に付かせていただいていることを光栄に思っております」
うっ……。
そう言われてしまうと、何とも返答に困ってしまう。
「で、ですが。ユリアの言動でご気分を害したりしておりませんか?」
「私がですか? いえ。とんでもないことです。ユリアさんとは互いに協力しあって、ロザンヌ様をお支えしたいと思っております。ですので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
輝くような笑顔で言われれば、さすがに私もそれ以上の言葉を繋げない。
「は、はあ。こちらこそよろしくお願いいたします」
結局、真綿で押されるように柔らかく柔らかく押し切られた。……完敗です。
私はソファーからユリアを仰ぎ見た。
「あのね、ユリア」
「何でしょうか」
「もしユリアがジェラルド様を……苦手としているのならば、別の方に就いていただけるか、殿下にお尋ねしてみましょうか」
ユリアは意外そうに眉を上げる。
「いえ。別に私は何とも思っていませんが」
「そう? 失礼な態度とか取っていない?」
「失礼な態度」
まるで思いつきませんとでも言いたげに、わずかに首を傾げる彼女に私は苦笑いしてしまう。
「ほら。馬車に乗る時、ジェラルド様の手を無視してさっさと乗り込んでいるでしょう。あれ、結構失礼だと思うのよね」
せっかくご厚意で補助を買って出て下さっているのに、それを無視する形はジェラルドさんにとって、立つ瀬がないと思う。
「ジェラルド様は殿下直属の護衛官長様であり、殿下よりロザンヌ様もお守りするよう命を下されているお方です。対して私はロザンヌ様の侍女に過ぎず、守られるべき存在ではありません。お手を煩わせるのもどうかと」
言いたい事は分かる。分かるぞ。だがね。手持ちぶさたになっておられるジェラルド様を見ていると、私の胸が痛むのです!
「わたくしがジェラルド様のお手をお借りしてと言ったら応じてくれる?」
「致しません」
「ですよねー。うん、知ってた……」
即答された私は涙を呑みつつ護衛官室へと向かった。
「失礼いたします」
入室許可を得て中に入ると、ジェラルドさんはすぐに立ち上がってくださる。
「ロザンヌ様。本日はお迎えに上がれず、失礼いたしました」
「いいえ、そんな。むしろいつもお忙しい中、送迎してくださって感謝しております」
こちらが恐縮するほどの謝罪体勢だ。
「ご無礼かとも考えたのですが、突然の変更を不安に思われるかと、ロザンヌ様がご存知のカルロ・アレオン護衛官を手配いたしました。何か不手際はなかったでしょうか」
「ええ。ご心配なさるような事は何もありません。アレオン護衛官様はよくやってくださいました。そ、それよりですね」
私はこほんと咳払いする。
「こちらこそ、ユリアがジェラルド様に何か失礼な態度を取ったりはしなかったでしょうか」
「いいえ。私にまでお気遣いいただき、ありがとうございます」
あまりにも穏やかな笑顔で応対してくださるので、その言葉が本当か否かが分からない。
「えっと。ユリアは問いに対して自分の考えを素直に返事するだけで、た、他意はないのです。ジェラルド様の補助をお借りしないのも、侍女ごときがお手を煩わせてはいけないと考えているからでしてっ!」
「はい。承知しております。彼女はとても実直な方ですね」
実直? ま、まあ。良い方向に取っていただけると、そういう事になるやもしれませんが。
「あの……。殿下のご配慮はとてもありがたく存じますが、ジェラルド様もとてもお忙しい御身ですし、わたくしの送迎ごときで官長様が自ら動いていただくなどあまりにも役不足です。僭越ながら、送迎時の同乗を他の方に変更していただくよう殿下にお願い申し上げようと考えております」
ジェラルド様は好意的に取ってくださっているけれど、やはりユリアの対応も気になるし、朝、説得できなかったことがここでできるチャンスでもある。
「ロザンヌ様は、やはり私ではご不満でしょうか。確かに今回のように、急務に対応しきれなかった私にご不安を持たれたのだとは承知しておりますが」
私は慌てて否定の手を振る。
「いいえ。そんなジェラルド様に不満とか不安だなんて! とんでもないことです! 代理の方が来られること自体は何とも思っておりませんし、むしろジェラルド様がお忙しい中を縫ってわたくしごときに付いてくださることに対して、申し訳ないと思っている次第でありまして」
「そうでしたか。それを伺って安心いたしました」
ジェラルドさんは硬かった表情をふっと崩した。
……ん?
「ではこれからも、私がロザンヌ様にお供させていただいてもよろしいのですね」
「え?」
「私はロザンヌ様の護衛に付かせていただいていることを光栄に思っております」
うっ……。
そう言われてしまうと、何とも返答に困ってしまう。
「で、ですが。ユリアの言動でご気分を害したりしておりませんか?」
「私がですか? いえ。とんでもないことです。ユリアさんとは互いに協力しあって、ロザンヌ様をお支えしたいと思っております。ですので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
輝くような笑顔で言われれば、さすがに私もそれ以上の言葉を繋げない。
「は、はあ。こちらこそよろしくお願いいたします」
結局、真綿で押されるように柔らかく柔らかく押し切られた。……完敗です。
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