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第223話 命令一ツデ敵ト見ナシ攻撃イタシマス
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ユリアが先ほどよりも時間をたっぷり取って戻って来た後は、殿下もそれではそろそろ仕事に戻ると言って、部屋から去って行った。
何だかとても慌ただしかった。心が。
それにしても部屋には三つの白湯が用意されたが、殿下の白湯を本当に用意する必要はなかったと思うのだけれど、ユリアは真面目と言うか何と言うか……。
最初の白湯はすでに温くなっており、丁度飲み頃だ。ほんのり伝わる温かさと喉の渇きが癒えて、私はほっと一息をついた。
横を見ると、ユリアは黙々と私の周りを整えてくれている。
「あ、あのね。ユリ――」
「ロザンヌ様、お顔の色が良くなりましたね」
「え、あ。う、うん」
声をかけようとしたと同時に、手を止めてこちらを見たユリアが私に声をかけた。
「良かったです」
「ありがとう。心配かけてごめんね」
「いえ。お医者様は疲れによるものだろうとおっしゃっていましたが、心がお疲れだったのでしょうか」
思いがけずとんでもない事を口走ってしまって、心と頭のバランスが取れなくなったのだろうから、心労と言えば心労なのかな。
というか、ユリアのそれは体だけは丈夫ですもんねと暗に言っていないだろうか。
「まあ、色々悩みはあったかもしれない」
「お元気になられたご様子ですし、お悩みは解決したのでしょうか」
「え? あ、うーん。……別の悩みができたかな。でも親愛と恋愛の違いが少しだけ分かったかも」
ユリアは興味深そうに眉を上げる。
「親愛と恋愛は相手との距離が違うと思う。恋愛はより相手との距離を詰めたいと思うものかな、と」
「相手との距離を詰めたい。――つまり相手の懐に入りたいということでしょうか」
「うん。多分、ユリアの考えている懐とはちょっと意味が違うと思う……」
ごめんなさい、やっぱり分かりませんでしたと私は謝罪した。
夕方、殿下の部屋に繋がる扉をノックされ、思わず飛び上がってしまった。けれど返事をしないと殿下はすぐに扉を開けようとするので、私は扉の前へと駆けて行く。
「は、はーい。少々お待ちください!」
扉の向こうにいる殿下に声をかけてユリアに振り返り、慌てて髪を撫でながら尋ねる。
「ユ、ユリア。わ、わたくし変じゃない?」
「いつもとお変わりないです」
「え? つまり、それって変ではないってこと? 変ってこと?」
良くも悪くも表情を動かさないユリアに、私はさらに踏み込む。
「この際ですから正直に申し上げます。薄々気付いてはいたのですが、王宮に来て、はっきりと分かりました。ロザンヌ様は変だったのだと。でも変なのがロザンヌ様の普通です。ですからお気になさらずに」
「ちょっとぉ! それ、どういう意味!?」
ユリアに文句を言っていると、ノックと共にどうしたと扉越しに殿下から声がかけられた。
「あ」
殿下をお待たせしているのだから、言い争いをしている場合ではない。
私はもう一度、髪を何となく撫でると返事する。
「だ、大丈夫です。どうぞ」
私の返事と共に扉がゆっくりと内側へと引かれ、殿下の姿が見え始め。
「体調はどうだ。ロザ」
私に声をかけた殿下が目を見張って言葉を切った。
その理由は分かる。私が――ユリアの背に隠れてこっそり窺っているからだ。
「ロザンヌ様」
「は、はい!」
ユリアは前を向いたままで私に声をかけてきた。
思わず身を正す。
「私を盾にするということは、目の前の人物を敵と見なして排除しろというご命令だと解釈してよろしいのですね?」
「え!? だ、駄目よ駄目! さ、下がってくれていいわ」
本気でやりかねないユリアの言葉に、慌てて彼女の背から出て止める。
するとユリアは澄ました顔で小さく頷く。
「承知いたしました。それでは私は失礼いたします」
それだけ残すとユリアはあっという間に気配を消した。
……彼女にしてやられた気分だ。
「ロザンヌ嬢」
「――はっ。も、申し訳ありません、殿下。そ、その」
一瞬逃避しかけたが、ちゃんと目の前の方と向き合わなければ。
「な、何だか気恥ずかしくて……」
「君にも恥ずかしいという気持ちを持っていたんだな」
「え!? 当たり前ですよ! 酷い!」
眉を上げて膨れっ面をすると、殿下は吹き出す。
「冗談だ。元気になったみたいで良かった」
あ、そっか。
私の肩の力を抜いてくださったんだ。これまでと同じ関係でいられるように。
「はい。ありがとうございます。殿下のご温情、感謝いたします」
「……あー。君が何に対して感謝しているのか知らないが、もしかしたらあまり期待しない方がいいかもな」
笑顔でお礼を述べると、どういうわけか殿下は苦笑いして頬を掻いた。
何だかとても慌ただしかった。心が。
それにしても部屋には三つの白湯が用意されたが、殿下の白湯を本当に用意する必要はなかったと思うのだけれど、ユリアは真面目と言うか何と言うか……。
最初の白湯はすでに温くなっており、丁度飲み頃だ。ほんのり伝わる温かさと喉の渇きが癒えて、私はほっと一息をついた。
横を見ると、ユリアは黙々と私の周りを整えてくれている。
「あ、あのね。ユリ――」
「ロザンヌ様、お顔の色が良くなりましたね」
「え、あ。う、うん」
声をかけようとしたと同時に、手を止めてこちらを見たユリアが私に声をかけた。
「良かったです」
「ありがとう。心配かけてごめんね」
「いえ。お医者様は疲れによるものだろうとおっしゃっていましたが、心がお疲れだったのでしょうか」
思いがけずとんでもない事を口走ってしまって、心と頭のバランスが取れなくなったのだろうから、心労と言えば心労なのかな。
というか、ユリアのそれは体だけは丈夫ですもんねと暗に言っていないだろうか。
「まあ、色々悩みはあったかもしれない」
「お元気になられたご様子ですし、お悩みは解決したのでしょうか」
「え? あ、うーん。……別の悩みができたかな。でも親愛と恋愛の違いが少しだけ分かったかも」
ユリアは興味深そうに眉を上げる。
「親愛と恋愛は相手との距離が違うと思う。恋愛はより相手との距離を詰めたいと思うものかな、と」
「相手との距離を詰めたい。――つまり相手の懐に入りたいということでしょうか」
「うん。多分、ユリアの考えている懐とはちょっと意味が違うと思う……」
ごめんなさい、やっぱり分かりませんでしたと私は謝罪した。
夕方、殿下の部屋に繋がる扉をノックされ、思わず飛び上がってしまった。けれど返事をしないと殿下はすぐに扉を開けようとするので、私は扉の前へと駆けて行く。
「は、はーい。少々お待ちください!」
扉の向こうにいる殿下に声をかけてユリアに振り返り、慌てて髪を撫でながら尋ねる。
「ユ、ユリア。わ、わたくし変じゃない?」
「いつもとお変わりないです」
「え? つまり、それって変ではないってこと? 変ってこと?」
良くも悪くも表情を動かさないユリアに、私はさらに踏み込む。
「この際ですから正直に申し上げます。薄々気付いてはいたのですが、王宮に来て、はっきりと分かりました。ロザンヌ様は変だったのだと。でも変なのがロザンヌ様の普通です。ですからお気になさらずに」
「ちょっとぉ! それ、どういう意味!?」
ユリアに文句を言っていると、ノックと共にどうしたと扉越しに殿下から声がかけられた。
「あ」
殿下をお待たせしているのだから、言い争いをしている場合ではない。
私はもう一度、髪を何となく撫でると返事する。
「だ、大丈夫です。どうぞ」
私の返事と共に扉がゆっくりと内側へと引かれ、殿下の姿が見え始め。
「体調はどうだ。ロザ」
私に声をかけた殿下が目を見張って言葉を切った。
その理由は分かる。私が――ユリアの背に隠れてこっそり窺っているからだ。
「ロザンヌ様」
「は、はい!」
ユリアは前を向いたままで私に声をかけてきた。
思わず身を正す。
「私を盾にするということは、目の前の人物を敵と見なして排除しろというご命令だと解釈してよろしいのですね?」
「え!? だ、駄目よ駄目! さ、下がってくれていいわ」
本気でやりかねないユリアの言葉に、慌てて彼女の背から出て止める。
するとユリアは澄ました顔で小さく頷く。
「承知いたしました。それでは私は失礼いたします」
それだけ残すとユリアはあっという間に気配を消した。
……彼女にしてやられた気分だ。
「ロザンヌ嬢」
「――はっ。も、申し訳ありません、殿下。そ、その」
一瞬逃避しかけたが、ちゃんと目の前の方と向き合わなければ。
「な、何だか気恥ずかしくて……」
「君にも恥ずかしいという気持ちを持っていたんだな」
「え!? 当たり前ですよ! 酷い!」
眉を上げて膨れっ面をすると、殿下は吹き出す。
「冗談だ。元気になったみたいで良かった」
あ、そっか。
私の肩の力を抜いてくださったんだ。これまでと同じ関係でいられるように。
「はい。ありがとうございます。殿下のご温情、感謝いたします」
「……あー。君が何に対して感謝しているのか知らないが、もしかしたらあまり期待しない方がいいかもな」
笑顔でお礼を述べると、どういうわけか殿下は苦笑いして頬を掻いた。
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