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第224話 後光が差すのは
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翌日。
すっかり元気になっていた私は学校へ行く準備をし、殿下へ朝のご挨拶をしようと扉前に立つ。
身なりと息を整えてノックするとすぐに返事があった。
「失礼いたします」
いつもになく遠慮がちに静かに開けると(別にいつも乱暴に開けているわけではない)、既に準備を整えていた殿下が私に笑みを見せた。
その笑顔にどきりとする。
こ、こんなに煌びやかな笑みを見せる方だったかしら。あ、待って。初対面の時は確かに王子様という後光効果で、キラキラしていたような気はする。でも今じゃすっかり慣れて後光を感じなくなったのに、今日はなぜこんなに殿下が輝いて見えるのでしょう。
いや、それはともかくですね。さっきから自分の心臓の音がうるさいです。
朝からとくとくと鼓動が速くなる。
「おはよう」
「お、はようございます」
うぅっ。
殿下はせっかく普通に接してくださっているのに、私だけいつもと普通じゃないよー。
「制服を着ているが、もう今日から登校するのか?」
「え? あ、はい。熱も下がりましたし、体は至って元気ですし」
殿下はこちらへと近付いてくるが、私は無意識に下がってしまう。
「もう一日ぐらい休んだらどうだ?」
「いえ。もう大丈夫です」
「そうか? まだ顔が赤いような気がするが?」
「っ。そ、それは殿下のせいです」
いつの間にか壁際まで押し迫られ、たまらず殿下を仰ぎ見て睨んだ。
「なぜこんなに接近してくるのですか」
「君が私から遠ざかろうとするからだ」
殿下は壁に手をついて、逃走経路を塞いだ。
な、何と卑怯な!
「殿下がっ、先に近づいて来られたからですっ」
「私が近付いたらなぜ逃げる」
「そ、それは」
分からないけれど。何となく。
しかし、はっと思いついて私はぽんと手を打つ。
「殿下の御身を考えてのことです! ほら、わたくしに下手に近付きますと倒れますし」
「今思いついただろう」
殿下は不機嫌そうに身を起こして腕を組むので、私は身を小さくした。
「……はい。申し訳ありません。本日は殿下が王子様みたいに輝いて見えたものですから、ちょっと怯んでしまいました」
「うーん。貶されているのか、褒めてくれているのか、判断が難しいところだな」
苦笑いする殿下に、いつもと変わらぬ日常が戻ってきた気がして、私はほっと笑顔を取り戻す。
「でも、君の目に映る私がいつもと違うのならば、それは君のせいだ」
「――っ!」
やっぱりいつもと同じ日常ではない! 朝から色気がありすぎなのですが!
体温が伝わってくるぐらいの距離まで私の頬に手を寄せてくる殿下に顔が熱くなる。
「あ、あの。殿下」
「触れられないのは残念だ」
呼吸を止めて我慢していたが耐えきれず声をかけると、殿下は諦めたように手を下ろした。
「そ、それではわたくしはそろそろ参りますね」
「ああ。気をつけて」
「ありがとうございます。……では行って参ります」
私は何とか笑顔を作って礼を取り、逃げるように部屋を出た。
はぁ。
身がもたない……。これもその内に慣れるものなのだろうか。だけど、決して嫌でもないし、止めてほしいわけじゃない。むしろ――むしろ何!?
私は思考を追い出すように頭をぶんぶんと勢いよく振る。
「ロザンヌ様。そんなに頭を振りながら歩いたら転びます」
「あ、ああ。うん。ごめんなさい」
ユリアと共に馬車の停留場所へと向かっている途中だった。
変に思われたかなと、ちらりと横顔を窺うと相変わらずの無表情顔だ。
「何か」
「ううん。ユリアの平常心が羨ましいなと」
「だとしたら、肉体鍛錬の賜です。鍛錬には精神力も必要ですから。ロザンヌ様も一緒になさいますか」
「いえ。結構」
ユリアと同じメニューをこなすことになったら、肉体も精神も崩壊しそうだ。
即座に私は断った。
「ロザンヌ様は、最近運動不足なのではないでしょうか」
「まあ。確かに実家にいる頃に比べれば、そうよね」
実家では自分でやれることは自分でやることが鉄則だったし、ここではあまり自由に動き回れないけれど、少し歩けば必要な物が手に入るし。
「ではやはり私と一緒に鍛錬いたしましょう」
「いえ、だからね――あ。ジェラルド様。おはようございまーす」
ユリアに再び迫られて私は目の前に見えた助け船に駆け寄ったが。
「――あ」
足元の何かに引っかかって身を崩す。
転ける――と思った瞬間、ふわりと前から抱きかかえられた。
見上げるとジェラルドさんの笑顔が降ってくる。
「お怪我はありませんか、ロザンヌ様」
不思議。
ジェラルド様は最初にお会いした時からその輝きが失われていない。なぜ? ……あら。殿下はまるで輝きを失っているみたいで、失礼だったかしら。
あ。いけない。お礼お礼。
「ジェラルド様。ありがと――うぇっ?」
直後、腕を引かれて景色が流れる。そして背後のユリアの中にしっかりと収まった。
「だから申しました。転びますよと」
「あ、うん。ごめんなさい。……あら? 何か怒っている?」
「怒っていません」
解放されて、ユリアに向き直った私は笑顔を向ける。
「あ、分かったぁ。ユリアったら、妬いたのね」
……ん? 妬いたって誰に対して? ジェラルド様? それとも。
「ねねね。もしかしてジェラルド様に助けられたわたくしに嫉妬したの?」
ユリアにだけ聞こえるようにこそこそと尋ねると、彼女は片眉を上げる。
「あ、動揺した!」
「妬いていませんし、動揺もしていません」
私が指摘すると、彼女はますます表情を引き締めた。
すっかり元気になっていた私は学校へ行く準備をし、殿下へ朝のご挨拶をしようと扉前に立つ。
身なりと息を整えてノックするとすぐに返事があった。
「失礼いたします」
いつもになく遠慮がちに静かに開けると(別にいつも乱暴に開けているわけではない)、既に準備を整えていた殿下が私に笑みを見せた。
その笑顔にどきりとする。
こ、こんなに煌びやかな笑みを見せる方だったかしら。あ、待って。初対面の時は確かに王子様という後光効果で、キラキラしていたような気はする。でも今じゃすっかり慣れて後光を感じなくなったのに、今日はなぜこんなに殿下が輝いて見えるのでしょう。
いや、それはともかくですね。さっきから自分の心臓の音がうるさいです。
朝からとくとくと鼓動が速くなる。
「おはよう」
「お、はようございます」
うぅっ。
殿下はせっかく普通に接してくださっているのに、私だけいつもと普通じゃないよー。
「制服を着ているが、もう今日から登校するのか?」
「え? あ、はい。熱も下がりましたし、体は至って元気ですし」
殿下はこちらへと近付いてくるが、私は無意識に下がってしまう。
「もう一日ぐらい休んだらどうだ?」
「いえ。もう大丈夫です」
「そうか? まだ顔が赤いような気がするが?」
「っ。そ、それは殿下のせいです」
いつの間にか壁際まで押し迫られ、たまらず殿下を仰ぎ見て睨んだ。
「なぜこんなに接近してくるのですか」
「君が私から遠ざかろうとするからだ」
殿下は壁に手をついて、逃走経路を塞いだ。
な、何と卑怯な!
「殿下がっ、先に近づいて来られたからですっ」
「私が近付いたらなぜ逃げる」
「そ、それは」
分からないけれど。何となく。
しかし、はっと思いついて私はぽんと手を打つ。
「殿下の御身を考えてのことです! ほら、わたくしに下手に近付きますと倒れますし」
「今思いついただろう」
殿下は不機嫌そうに身を起こして腕を組むので、私は身を小さくした。
「……はい。申し訳ありません。本日は殿下が王子様みたいに輝いて見えたものですから、ちょっと怯んでしまいました」
「うーん。貶されているのか、褒めてくれているのか、判断が難しいところだな」
苦笑いする殿下に、いつもと変わらぬ日常が戻ってきた気がして、私はほっと笑顔を取り戻す。
「でも、君の目に映る私がいつもと違うのならば、それは君のせいだ」
「――っ!」
やっぱりいつもと同じ日常ではない! 朝から色気がありすぎなのですが!
体温が伝わってくるぐらいの距離まで私の頬に手を寄せてくる殿下に顔が熱くなる。
「あ、あの。殿下」
「触れられないのは残念だ」
呼吸を止めて我慢していたが耐えきれず声をかけると、殿下は諦めたように手を下ろした。
「そ、それではわたくしはそろそろ参りますね」
「ああ。気をつけて」
「ありがとうございます。……では行って参ります」
私は何とか笑顔を作って礼を取り、逃げるように部屋を出た。
はぁ。
身がもたない……。これもその内に慣れるものなのだろうか。だけど、決して嫌でもないし、止めてほしいわけじゃない。むしろ――むしろ何!?
私は思考を追い出すように頭をぶんぶんと勢いよく振る。
「ロザンヌ様。そんなに頭を振りながら歩いたら転びます」
「あ、ああ。うん。ごめんなさい」
ユリアと共に馬車の停留場所へと向かっている途中だった。
変に思われたかなと、ちらりと横顔を窺うと相変わらずの無表情顔だ。
「何か」
「ううん。ユリアの平常心が羨ましいなと」
「だとしたら、肉体鍛錬の賜です。鍛錬には精神力も必要ですから。ロザンヌ様も一緒になさいますか」
「いえ。結構」
ユリアと同じメニューをこなすことになったら、肉体も精神も崩壊しそうだ。
即座に私は断った。
「ロザンヌ様は、最近運動不足なのではないでしょうか」
「まあ。確かに実家にいる頃に比べれば、そうよね」
実家では自分でやれることは自分でやることが鉄則だったし、ここではあまり自由に動き回れないけれど、少し歩けば必要な物が手に入るし。
「ではやはり私と一緒に鍛錬いたしましょう」
「いえ、だからね――あ。ジェラルド様。おはようございまーす」
ユリアに再び迫られて私は目の前に見えた助け船に駆け寄ったが。
「――あ」
足元の何かに引っかかって身を崩す。
転ける――と思った瞬間、ふわりと前から抱きかかえられた。
見上げるとジェラルドさんの笑顔が降ってくる。
「お怪我はありませんか、ロザンヌ様」
不思議。
ジェラルド様は最初にお会いした時からその輝きが失われていない。なぜ? ……あら。殿下はまるで輝きを失っているみたいで、失礼だったかしら。
あ。いけない。お礼お礼。
「ジェラルド様。ありがと――うぇっ?」
直後、腕を引かれて景色が流れる。そして背後のユリアの中にしっかりと収まった。
「だから申しました。転びますよと」
「あ、うん。ごめんなさい。……あら? 何か怒っている?」
「怒っていません」
解放されて、ユリアに向き直った私は笑顔を向ける。
「あ、分かったぁ。ユリアったら、妬いたのね」
……ん? 妬いたって誰に対して? ジェラルド様? それとも。
「ねねね。もしかしてジェラルド様に助けられたわたくしに嫉妬したの?」
ユリアにだけ聞こえるようにこそこそと尋ねると、彼女は片眉を上げる。
「あ、動揺した!」
「妬いていませんし、動揺もしていません」
私が指摘すると、彼女はますます表情を引き締めた。
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