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第262話 最終手段は決定
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日が暮れ出す前に私たちは王宮へと出発することになった。今から出発すれば、王宮に着く頃には夕暮れ時となっているだろう。
玄関先では私たちの見送りのために家族と侍従、侍女さんたちが出てきてくれている。
最初送り出された時を彷彿とさせるが、あの時は新たな王宮生活への憧れもあって、ワクワク感と寂しさが混在していた気がする。王宮の生活に慣れてしまった今、実家を離れる寂しさがやや強い。
「もうお帰りとは残念です。夕食もご一緒できればと思っていたのですが」
「ありがとうございます。それはまたぜひ次の機会に」
「はい。そうですね。その時を心より楽しみにしております」
父と殿下の会話を側で聞きながら、その約束はあまりにも美しい理想そのもので、果たすことは夢のまた夢のように思われた。
名残惜しくも家族らと挨拶と別れを告げ、感傷的な気分になる前に私は馬車へと乗り込んだ。馬車の中は、殿下の秘密をジェラルドさんに打ち明けられてからは、四人の時も私とユリアが横並びだ。
全員が乗り込み、ジェラルドさんの合図と共に馬車がゆっくり動き始める。
窓から見える家族の顔が段々と小さくなっていくことに寂しさを覚えつつも、流れゆく故郷の景色を一片たりとも見逃すのが惜しくて、私はただひたすら窓から外を眺めていた。
しばらくそんな状態を続けていたが、ふと我に返った時、馬車の中が静まり返っていることに気付いた。
もしかして別れを悲しんでいるのではと、気を遣わせてしまっただろうか。
私は慌てて窓から皆の方へと振り返る。
「も、申し訳ありません。わたくしのことなど構わず、お話ししていただいて良かったのですが」
「いや。君こそ、ゆっくり景色を眺めておけばいい」
「いいえ。もう大丈夫です。だってここは」
もう一度だけ窓の外に視線をやった後、ユリアを見、殿下に笑みを見せた。
「この地はわたくしとユリアの故郷なのです。季節が移り、風景が変化したとしても、いつだってわたくしたちを優しく迎えてくれます。――ね」
「はい」
最後はユリアに視線を流すと彼女は静かに頷いた。
「……そうだな」
「はい。あ、それよりも皆様。本日はありがとうございました。遠出でお疲れではないでしょうか」
労いのお言葉をかけてみる。
「いや。おかげさまでゆっくりさせてもらったよ。君を育てた土地なんだなとしみじみと感じた」
それは良い意味でしょうか。悪い意味でしょうか。尋ねてみることはしないけれど。
私はジェラルドさんに顔を向けると、彼も微笑した。
「はい。のどかな土地柄も、皆様お人柄も良く、本当に素晴らしい所でした。体中に気力が満ちた気がいたします。とても良い一日を過ごさせていただき、ありがとうございました」
「とんでもないお話でございます。ごゆるりとお過ごしいただけたのでしたら、何よりでございます」
ジェラルドさんは輝くような笑顔で、心からおっしゃってくださっているのが分かって、私はほっとする。
ユリアとはどんなお茶会をしたのだろう。後でユリアに聞いてみよ。
「しかし私こそ、急な訪問で君のご家族にはご迷惑をおかけした。あらためてお礼を申し上げる場を作ることができたらと思う」
先ほどまでのかしこまった丁寧な口調の殿下から、すっかりいつもの殿下に戻っていて、何だかおかしくなる。
「いいえ。両親も兄たちも本当に喜んでおりました。殿下にそう言っていただけるだけで十分でございます。こちらこそご訪問いただき、ありがとうございました。――それで、ルーベンス様のお墓についてですが」
気持ちを切り替えて気になっていたことを尋ねてみる。
殿下がネロを確認するように私を振り返った時のことだ。
「ネロの様子はいかがでしたか」
「ああ。エスメラルダ・ベルロンドが眠る地に出向いた時は、探るように歩いていたが、今日は目的先を知っているかのように軽やかに歩いていた。ルーベンス氏のお墓では、ネロは人に懐いているかのように身を寄せていたよ」
「つまりやはり」
ノエル・ルーベンス様はノエル・ブラックウェル様だということは確定でいいでしょう。
そこで私は墓苑からの帰り道にユリアから聞かされた話と、推理してみた話を伝えることにした。
「なるほど」
「わたくしは呪術を使えるわけではありませんし、血の契りもあくまでも推論ですが、ただこれが一番しっくり来るのではないかと」
「ああ。そうだな。これまで君の一族に、君のような者が現れなかったこともそれが条件だったとしたならば納得できる」
「はい。……ですから。呪いを解く方法は血なのではないかとは思うのですが」
だからと言って、さすがに殿下と私が血の契りをするわけにはいかないだろう。呪いが解ける鍵がそれではないのに実行した場合、ネロが殿下に移ってしまったら、影としてのネロが殿下を蝕むことになるかもしれない。実行するには危険な賭けだ。
「失敗したらどうしようもありませんし、それは最終手段ということですね」
「いや。最終手段どうこうではなく、血の契りで呪いが間違いなく断たれると確定してからにしようか……」
殿下は顔を引きつらせて笑った。
玄関先では私たちの見送りのために家族と侍従、侍女さんたちが出てきてくれている。
最初送り出された時を彷彿とさせるが、あの時は新たな王宮生活への憧れもあって、ワクワク感と寂しさが混在していた気がする。王宮の生活に慣れてしまった今、実家を離れる寂しさがやや強い。
「もうお帰りとは残念です。夕食もご一緒できればと思っていたのですが」
「ありがとうございます。それはまたぜひ次の機会に」
「はい。そうですね。その時を心より楽しみにしております」
父と殿下の会話を側で聞きながら、その約束はあまりにも美しい理想そのもので、果たすことは夢のまた夢のように思われた。
名残惜しくも家族らと挨拶と別れを告げ、感傷的な気分になる前に私は馬車へと乗り込んだ。馬車の中は、殿下の秘密をジェラルドさんに打ち明けられてからは、四人の時も私とユリアが横並びだ。
全員が乗り込み、ジェラルドさんの合図と共に馬車がゆっくり動き始める。
窓から見える家族の顔が段々と小さくなっていくことに寂しさを覚えつつも、流れゆく故郷の景色を一片たりとも見逃すのが惜しくて、私はただひたすら窓から外を眺めていた。
しばらくそんな状態を続けていたが、ふと我に返った時、馬車の中が静まり返っていることに気付いた。
もしかして別れを悲しんでいるのではと、気を遣わせてしまっただろうか。
私は慌てて窓から皆の方へと振り返る。
「も、申し訳ありません。わたくしのことなど構わず、お話ししていただいて良かったのですが」
「いや。君こそ、ゆっくり景色を眺めておけばいい」
「いいえ。もう大丈夫です。だってここは」
もう一度だけ窓の外に視線をやった後、ユリアを見、殿下に笑みを見せた。
「この地はわたくしとユリアの故郷なのです。季節が移り、風景が変化したとしても、いつだってわたくしたちを優しく迎えてくれます。――ね」
「はい」
最後はユリアに視線を流すと彼女は静かに頷いた。
「……そうだな」
「はい。あ、それよりも皆様。本日はありがとうございました。遠出でお疲れではないでしょうか」
労いのお言葉をかけてみる。
「いや。おかげさまでゆっくりさせてもらったよ。君を育てた土地なんだなとしみじみと感じた」
それは良い意味でしょうか。悪い意味でしょうか。尋ねてみることはしないけれど。
私はジェラルドさんに顔を向けると、彼も微笑した。
「はい。のどかな土地柄も、皆様お人柄も良く、本当に素晴らしい所でした。体中に気力が満ちた気がいたします。とても良い一日を過ごさせていただき、ありがとうございました」
「とんでもないお話でございます。ごゆるりとお過ごしいただけたのでしたら、何よりでございます」
ジェラルドさんは輝くような笑顔で、心からおっしゃってくださっているのが分かって、私はほっとする。
ユリアとはどんなお茶会をしたのだろう。後でユリアに聞いてみよ。
「しかし私こそ、急な訪問で君のご家族にはご迷惑をおかけした。あらためてお礼を申し上げる場を作ることができたらと思う」
先ほどまでのかしこまった丁寧な口調の殿下から、すっかりいつもの殿下に戻っていて、何だかおかしくなる。
「いいえ。両親も兄たちも本当に喜んでおりました。殿下にそう言っていただけるだけで十分でございます。こちらこそご訪問いただき、ありがとうございました。――それで、ルーベンス様のお墓についてですが」
気持ちを切り替えて気になっていたことを尋ねてみる。
殿下がネロを確認するように私を振り返った時のことだ。
「ネロの様子はいかがでしたか」
「ああ。エスメラルダ・ベルロンドが眠る地に出向いた時は、探るように歩いていたが、今日は目的先を知っているかのように軽やかに歩いていた。ルーベンス氏のお墓では、ネロは人に懐いているかのように身を寄せていたよ」
「つまりやはり」
ノエル・ルーベンス様はノエル・ブラックウェル様だということは確定でいいでしょう。
そこで私は墓苑からの帰り道にユリアから聞かされた話と、推理してみた話を伝えることにした。
「なるほど」
「わたくしは呪術を使えるわけではありませんし、血の契りもあくまでも推論ですが、ただこれが一番しっくり来るのではないかと」
「ああ。そうだな。これまで君の一族に、君のような者が現れなかったこともそれが条件だったとしたならば納得できる」
「はい。……ですから。呪いを解く方法は血なのではないかとは思うのですが」
だからと言って、さすがに殿下と私が血の契りをするわけにはいかないだろう。呪いが解ける鍵がそれではないのに実行した場合、ネロが殿下に移ってしまったら、影としてのネロが殿下を蝕むことになるかもしれない。実行するには危険な賭けだ。
「失敗したらどうしようもありませんし、それは最終手段ということですね」
「いや。最終手段どうこうではなく、血の契りで呪いが間違いなく断たれると確定してからにしようか……」
殿下は顔を引きつらせて笑った。
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