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第261話 それぞれの過ごし方
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昼食会は最初は皆、緊張の中での食事だったが、殿下の気さくな対応で次第に和やかな雰囲気で進行され、無事に終了することができた。
こう客観的に見てみると、やはり殿下は気遣いができるお方で凄かったのだなと思う。
もう少しゆっくりしてから帰宅しようということで、午後からは各自別行動を取ることになった。
地方貴族の歴史を研究中という前提で来ているからか、父と殿下は政のお話をするようで、お二人部屋にこもるらしい。
ジェラルドさんは当然、殿下の側で控えようとしていたようだけれど、殿下に拒否されたようだ。
もちろんこんなのどかな田舎町で何か事が起こることもないと判断されたのだろうけれど、ジェラルドさんにもたまには職務から離れて自然豊かなこの地でゆっくりしてもらいたいという気持ちが大きかったのではないかと私は勝手に推測する。
「ジェラルド様。先ほどの昼食会の件ですが、毒見についてはどのようにお考えだったのでしょうか」
殿下から部屋を追い出されて途方に暮れるジェラルドさんに私はお尋ねしてみた。
「そうですね。王宮においては必ず為されていることですから、私もそのことについては頭を過ぎりました。ですがロザンヌ様のご生家ですし、この土地柄とお人柄を感じることで、そんなことを考えること自体、ご無礼に当たるかと思い、葛藤いたしました」
さすがは誠実なジェラルドさんだ。自分のお気持ちを包み隠さずおっしゃってくださる。
「するとユリアさんがお呼びになるので参りますと、厨房に連れて行かれました。そこで、料理長の方が殿下にお出しする前にお口に合うか味見をしてくれと申されまして」
ジェラルドさんは自嘲するように小さく笑う。
「お皿に盛る前の鍋からの試食でしたので毒見役という訳には参りませんでしたが、とても美味しいですと味の感想をお伝えすると、料理長様がそれはもう嬉しそうに目を輝かせたのです」
ルーサーさんのことだから他にも味見をしてくれと、ジェラルドさんを引っ張っただろうということは想像に難くない。
「そのお顔を拝見していますと、このような方が作る料理に対して、毒見などと一瞬でも考えた自分を恥じ入りました」
「いいえ。そんなことはありません。ジェラルド様のお立場を考えれば当然のことです」
むしろ私たちのことを気にかけてくださっただけでも、十分にありがたいお話だと思う。
「ロザンヌ様、ありがとうございます。――その後、ユリアさんが私の元にやって来ておっしゃいました。殿下の配膳は自分がします。もし毒が入っていたとしたら私が犯人ですから、首でも何でも持っていってくださいと」
「まあ。ユリアったら。申し訳ありません」
「いいえ。ユリアさんらしいなと。だからこそ信頼してお任せしたいなと思いました」
「そうですか」
ユリアもちゃんと考えてくれていたんだな。
と嬉しく思っていると、ちょうどユリアが通りがかったので声をかけて足を止めさせる。
「ジェラルド様からお話を聞いたわ。ユリアが配膳を買って出てくれたそうね、ありがとう」
「いいえ」
「あ、そうだわ。ユリアが普段鍛錬していた場所にジェラルド様をお連れしたら? 場所も家のすぐ裏手だから、問題ないでしょう」
ユリアはわずかに困惑の色をにじませた。
「……お連れして、その後はどうすれば?」
「ジェラルド様にユリアお得意のお茶を淹れてさしあげて。後のおもてなしはあなたに任せるわ」
「おもてなしはご当主様か、奥様がなさるも――」
「では、後はよろしくね。ジェラルド様。また後ほど」
ユリアが最後まで言い切る内に、失礼いたしますと礼を取って私は二人の前から立ち去った。
私は母と兄たちと談話することにした。
ソファーに兄二人が座っている中、私は間に割り込む。母は向かい側だ。
「ロザンヌは素晴らしい人格の方にお仕えしているんだね。僕も兄として誇らしいよ」
アシル兄様が私の頭を優しく撫でてくださる。
すっかり懐かしくなった感覚に、私は兄様にぐりぐりと身を寄せる。
「はい。アシル兄様」
私も殿下を見直しました。
……などとは口が裂けても申せません。母が目を光らせているので。
「ロザンヌも良い環境の中で成長したかもな」
「本当ですか? わたくし、どこに出しても恥ずかしくないくらい急成長しちゃいました!?」
喜び勇んでシモン兄様に視線を移す。
「いや。気のせいだった」
このように人を喜ばせておいて手の平を一瞬の内に返すのが、二番目の我が兄、シモン兄様です。
「もうっ!」
「冗談冗談。少しは成長したように見える。ここは成長していないけどな」
ぷっくり膨れっ面になる私の頬をつつく。
「それにしても今日は本当に驚いてしまったわ。あなたが帰ってくることだけでも驚いたのに、殿下がご訪問くださるだなんて。きっとダングルベール家、始まって以来のことよ」
母は頬に手を当ててため息をついた。
「申し訳ありません。ご連絡したかったのですが、急遽頂いたお休みでしたので」
「ええ。でもとても嬉しかったわ」
母が笑顔だったのはそこまでだった。
一度言葉を切ると、母は神妙な表情になる。
「あのね、ロザンヌ」
「はい」
「殿下はね。……本来なら殿下はお側にも寄ることもできない、やんごとなきお方なの。だからくれぐれも殿下に……くれぐれも立場を弁えてご無礼のないようにね」
私の殿下に対する態度に何かを悟られたのだろう。少し言い淀んだお母様の言葉に重い意味が含まれていることが分かる。
私は、はい承知しておりますと頷いた。
こう客観的に見てみると、やはり殿下は気遣いができるお方で凄かったのだなと思う。
もう少しゆっくりしてから帰宅しようということで、午後からは各自別行動を取ることになった。
地方貴族の歴史を研究中という前提で来ているからか、父と殿下は政のお話をするようで、お二人部屋にこもるらしい。
ジェラルドさんは当然、殿下の側で控えようとしていたようだけれど、殿下に拒否されたようだ。
もちろんこんなのどかな田舎町で何か事が起こることもないと判断されたのだろうけれど、ジェラルドさんにもたまには職務から離れて自然豊かなこの地でゆっくりしてもらいたいという気持ちが大きかったのではないかと私は勝手に推測する。
「ジェラルド様。先ほどの昼食会の件ですが、毒見についてはどのようにお考えだったのでしょうか」
殿下から部屋を追い出されて途方に暮れるジェラルドさんに私はお尋ねしてみた。
「そうですね。王宮においては必ず為されていることですから、私もそのことについては頭を過ぎりました。ですがロザンヌ様のご生家ですし、この土地柄とお人柄を感じることで、そんなことを考えること自体、ご無礼に当たるかと思い、葛藤いたしました」
さすがは誠実なジェラルドさんだ。自分のお気持ちを包み隠さずおっしゃってくださる。
「するとユリアさんがお呼びになるので参りますと、厨房に連れて行かれました。そこで、料理長の方が殿下にお出しする前にお口に合うか味見をしてくれと申されまして」
ジェラルドさんは自嘲するように小さく笑う。
「お皿に盛る前の鍋からの試食でしたので毒見役という訳には参りませんでしたが、とても美味しいですと味の感想をお伝えすると、料理長様がそれはもう嬉しそうに目を輝かせたのです」
ルーサーさんのことだから他にも味見をしてくれと、ジェラルドさんを引っ張っただろうということは想像に難くない。
「そのお顔を拝見していますと、このような方が作る料理に対して、毒見などと一瞬でも考えた自分を恥じ入りました」
「いいえ。そんなことはありません。ジェラルド様のお立場を考えれば当然のことです」
むしろ私たちのことを気にかけてくださっただけでも、十分にありがたいお話だと思う。
「ロザンヌ様、ありがとうございます。――その後、ユリアさんが私の元にやって来ておっしゃいました。殿下の配膳は自分がします。もし毒が入っていたとしたら私が犯人ですから、首でも何でも持っていってくださいと」
「まあ。ユリアったら。申し訳ありません」
「いいえ。ユリアさんらしいなと。だからこそ信頼してお任せしたいなと思いました」
「そうですか」
ユリアもちゃんと考えてくれていたんだな。
と嬉しく思っていると、ちょうどユリアが通りがかったので声をかけて足を止めさせる。
「ジェラルド様からお話を聞いたわ。ユリアが配膳を買って出てくれたそうね、ありがとう」
「いいえ」
「あ、そうだわ。ユリアが普段鍛錬していた場所にジェラルド様をお連れしたら? 場所も家のすぐ裏手だから、問題ないでしょう」
ユリアはわずかに困惑の色をにじませた。
「……お連れして、その後はどうすれば?」
「ジェラルド様にユリアお得意のお茶を淹れてさしあげて。後のおもてなしはあなたに任せるわ」
「おもてなしはご当主様か、奥様がなさるも――」
「では、後はよろしくね。ジェラルド様。また後ほど」
ユリアが最後まで言い切る内に、失礼いたしますと礼を取って私は二人の前から立ち去った。
私は母と兄たちと談話することにした。
ソファーに兄二人が座っている中、私は間に割り込む。母は向かい側だ。
「ロザンヌは素晴らしい人格の方にお仕えしているんだね。僕も兄として誇らしいよ」
アシル兄様が私の頭を優しく撫でてくださる。
すっかり懐かしくなった感覚に、私は兄様にぐりぐりと身を寄せる。
「はい。アシル兄様」
私も殿下を見直しました。
……などとは口が裂けても申せません。母が目を光らせているので。
「ロザンヌも良い環境の中で成長したかもな」
「本当ですか? わたくし、どこに出しても恥ずかしくないくらい急成長しちゃいました!?」
喜び勇んでシモン兄様に視線を移す。
「いや。気のせいだった」
このように人を喜ばせておいて手の平を一瞬の内に返すのが、二番目の我が兄、シモン兄様です。
「もうっ!」
「冗談冗談。少しは成長したように見える。ここは成長していないけどな」
ぷっくり膨れっ面になる私の頬をつつく。
「それにしても今日は本当に驚いてしまったわ。あなたが帰ってくることだけでも驚いたのに、殿下がご訪問くださるだなんて。きっとダングルベール家、始まって以来のことよ」
母は頬に手を当ててため息をついた。
「申し訳ありません。ご連絡したかったのですが、急遽頂いたお休みでしたので」
「ええ。でもとても嬉しかったわ」
母が笑顔だったのはそこまでだった。
一度言葉を切ると、母は神妙な表情になる。
「あのね、ロザンヌ」
「はい」
「殿下はね。……本来なら殿下はお側にも寄ることもできない、やんごとなきお方なの。だからくれぐれも殿下に……くれぐれも立場を弁えてご無礼のないようにね」
私の殿下に対する態度に何かを悟られたのだろう。少し言い淀んだお母様の言葉に重い意味が含まれていることが分かる。
私は、はい承知しておりますと頷いた。
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