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第266話 高らかに立ち上がる炎の原因は
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やはり一人で行かせるのは不安だということで(失礼な)、結局、クロエさんが補助に入っていただくことになった。
私としましては心強いと共に、心乱れる部分がございます。しかも、よくよく考えるとクロエさんが補助ではなくて、私の方が補助という……。
ともかくも、シーツなど一通りの準備を終えた私たちは、医務室へと向かう。
「ロザンヌ様は」
「は、はい! 何でしょう!」
指導員としてのクロエさんの厳しさを身に染みている私は、ぴしりと姿勢を正した。
クロエさんはくすりと笑う。
「ロザンヌ様はベルモンテ侯爵様とお親しいのですか」
「あ……いえ。何度かお会いしてお話しする機会があっただけで、親しい仲とは恐れ多いことです」
「そうですか。ロザンヌ様はお優しいのですね。それでもお見舞いに訪れるだなんて」
もちろん影祓いのこともあるけれど。
「父に、いえ。面立ちは似ていないのですが、穏やかな所とかお優しい所、誠実なお人柄など、まとわれている雰囲気が父を彷彿とさせるのです」
侯爵様にはご健康で幸せでいてほしい。おこがましいけれど、そう思っている。
「そう」
「あ。そう言えば、侯爵夫人にはご連絡はしているのですか」
クラウディア嬢は王宮勤めしていると言うから、お話を聞けば駆け付けるだろうけれど。
「もちろんよ。でもお見えにならないでしょうね」
「え?」
私はクロエさんを見つめると、彼女は肩をすくめた。
「侯爵夫人はクラウディア様とお顔立ちもよく似ていらっしゃって、お綺麗で気位が高いお方よ。社交界にもよく足を運ばれて、麗しい男性陣と談話なさっているのをお見かけするわ」
クロエさんにしては少し棘のある言い方だ。
まじまじと横顔を見ていると、クロエさんはため息をつく。
「侯爵様は商家出身で、ベルモンテ家に入られた方なの。その前はご結婚なさっていて愛妻家だったようだけれど、ベルモンテ家に入る何年か前に奥様とお子様を同時に事故で亡くされてね。親の指示で再婚させられたみたい。言わば、政略結婚みたいなものだから……愛は無いのよ。少なくとも夫人側にはね。侯爵様はあのような方だから、努力なさっていらっしゃるけれど」
一瞬だけ言葉を切ったけれど、クロエさんはきっぱりとおっしゃった。
あまりにもはっきりおっしゃるものだから、私はうろたえてしまう。
「え、ええっと。ですが、侯爵位と言えば元々かなりの地位ですよね。豪商の方とは言え、政略結婚する必要はなかったのではないでしょうか」
「夫人は自分にも目をかけた男衆にも、贅を尽くしてもてなすタイプでね。かなりの浪費癖があるのよ。お金はあればあるほど良いのでしょう。独身相手だろうが、既婚者であろうが、気に入った者はすぐにお声がけなさる方だから!」
ごごごごぉっとクロエさんのお体から高らかに炎が立ち上がっているように見えるのですが、わ、わたくしの気のせいでしょうか。もしや個人的な怨みでも?
するとクロエさんがキッと私を睨み付けた。
しまった! 口に出てしまったか!
「わたくしの夫にもお声がけなさったの。既婚と知っていた上でね。夫はわたくしには勿体ないぐらいの美丈夫な方なのよ。お声がけされたくなるお気持ちは分かります。と申しましても、夫はわたくしに惚れているものですから、丁重にお断りしたようですけれども」
ほほほほと高らかにお笑いになるクロエさん。
うん。
……コワイヨー。
私はそうですかそうですかと笑顔で合わせた。
「ここよ。――失礼いたします」
上級貴族用の医務室は個室になっているそうだ。
辺りを慎重に窺って中に入ると、ここはどなたかの貴人の自室かと見紛うほど豪勢なお部屋だった。
「替えのシーツなどをご用意いたしました」
「ああ。ご苦労様」
奥に配置されているベッドから離れた医師が、こちらへとやって来る。
いかにも権威のありそうな老年の医師だ。
「まだベルモンテ様はお休みでしょうか」
「そうだがね。準備だけはしておいてくれるかい」
肩を回しながら老医師はクロエさんの横を通る。
「私は少し外の空気を吸ってくるよ」
「かしこまりました」
私たちは奥へとさらに進むと、ご本人様かお見舞いの方がくつろげるようなソファーが置かれているのが見えた。
もちろん高級品であることは素人目でも一目瞭然だ。窓は大きく光を取り込む設計で、部屋も間取りが広く取られている。
白を基調とした内装と、ツンと鼻を突くような匂いだけが医務室であることを感じさせられるといったところだろうか。
ただ、来客がいない今のこのお部屋は無意味に広く、何とも無機質で寂しい空間に思えてならない。
「準備はわたくしがするわ。あなたは侯爵様の元に」
「はい。承知いたしました」
私は侯爵様がお眠りになっているベッドへと近付き、今まで医師が腰掛けていたであろう椅子に座ってお顔を覗き込んだ。
私としましては心強いと共に、心乱れる部分がございます。しかも、よくよく考えるとクロエさんが補助ではなくて、私の方が補助という……。
ともかくも、シーツなど一通りの準備を終えた私たちは、医務室へと向かう。
「ロザンヌ様は」
「は、はい! 何でしょう!」
指導員としてのクロエさんの厳しさを身に染みている私は、ぴしりと姿勢を正した。
クロエさんはくすりと笑う。
「ロザンヌ様はベルモンテ侯爵様とお親しいのですか」
「あ……いえ。何度かお会いしてお話しする機会があっただけで、親しい仲とは恐れ多いことです」
「そうですか。ロザンヌ様はお優しいのですね。それでもお見舞いに訪れるだなんて」
もちろん影祓いのこともあるけれど。
「父に、いえ。面立ちは似ていないのですが、穏やかな所とかお優しい所、誠実なお人柄など、まとわれている雰囲気が父を彷彿とさせるのです」
侯爵様にはご健康で幸せでいてほしい。おこがましいけれど、そう思っている。
「そう」
「あ。そう言えば、侯爵夫人にはご連絡はしているのですか」
クラウディア嬢は王宮勤めしていると言うから、お話を聞けば駆け付けるだろうけれど。
「もちろんよ。でもお見えにならないでしょうね」
「え?」
私はクロエさんを見つめると、彼女は肩をすくめた。
「侯爵夫人はクラウディア様とお顔立ちもよく似ていらっしゃって、お綺麗で気位が高いお方よ。社交界にもよく足を運ばれて、麗しい男性陣と談話なさっているのをお見かけするわ」
クロエさんにしては少し棘のある言い方だ。
まじまじと横顔を見ていると、クロエさんはため息をつく。
「侯爵様は商家出身で、ベルモンテ家に入られた方なの。その前はご結婚なさっていて愛妻家だったようだけれど、ベルモンテ家に入る何年か前に奥様とお子様を同時に事故で亡くされてね。親の指示で再婚させられたみたい。言わば、政略結婚みたいなものだから……愛は無いのよ。少なくとも夫人側にはね。侯爵様はあのような方だから、努力なさっていらっしゃるけれど」
一瞬だけ言葉を切ったけれど、クロエさんはきっぱりとおっしゃった。
あまりにもはっきりおっしゃるものだから、私はうろたえてしまう。
「え、ええっと。ですが、侯爵位と言えば元々かなりの地位ですよね。豪商の方とは言え、政略結婚する必要はなかったのではないでしょうか」
「夫人は自分にも目をかけた男衆にも、贅を尽くしてもてなすタイプでね。かなりの浪費癖があるのよ。お金はあればあるほど良いのでしょう。独身相手だろうが、既婚者であろうが、気に入った者はすぐにお声がけなさる方だから!」
ごごごごぉっとクロエさんのお体から高らかに炎が立ち上がっているように見えるのですが、わ、わたくしの気のせいでしょうか。もしや個人的な怨みでも?
するとクロエさんがキッと私を睨み付けた。
しまった! 口に出てしまったか!
「わたくしの夫にもお声がけなさったの。既婚と知っていた上でね。夫はわたくしには勿体ないぐらいの美丈夫な方なのよ。お声がけされたくなるお気持ちは分かります。と申しましても、夫はわたくしに惚れているものですから、丁重にお断りしたようですけれども」
ほほほほと高らかにお笑いになるクロエさん。
うん。
……コワイヨー。
私はそうですかそうですかと笑顔で合わせた。
「ここよ。――失礼いたします」
上級貴族用の医務室は個室になっているそうだ。
辺りを慎重に窺って中に入ると、ここはどなたかの貴人の自室かと見紛うほど豪勢なお部屋だった。
「替えのシーツなどをご用意いたしました」
「ああ。ご苦労様」
奥に配置されているベッドから離れた医師が、こちらへとやって来る。
いかにも権威のありそうな老年の医師だ。
「まだベルモンテ様はお休みでしょうか」
「そうだがね。準備だけはしておいてくれるかい」
肩を回しながら老医師はクロエさんの横を通る。
「私は少し外の空気を吸ってくるよ」
「かしこまりました」
私たちは奥へとさらに進むと、ご本人様かお見舞いの方がくつろげるようなソファーが置かれているのが見えた。
もちろん高級品であることは素人目でも一目瞭然だ。窓は大きく光を取り込む設計で、部屋も間取りが広く取られている。
白を基調とした内装と、ツンと鼻を突くような匂いだけが医務室であることを感じさせられるといったところだろうか。
ただ、来客がいない今のこのお部屋は無意味に広く、何とも無機質で寂しい空間に思えてならない。
「準備はわたくしがするわ。あなたは侯爵様の元に」
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