神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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2話

憧れのスローライフと思わぬ再会<3>

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 次の日もその次の日も庭仕事に没頭した。植木を刈り、庭を整える作業をしている間は余計なことを考えないで済んだ。肉体労働のおかげで夜もぐっすり眠れる。

 ここに住もうかと思い始めたのは四日目の朝だった。
 食料品調達の為に車でスーパーに行く途中で、野島崎灯台に寄った。白い八角形の美しい灯台で、歴史も古く、明治二年に建てられた。しかし、一度、関東大震災で倒壊しているので、明治からの建物ではなくなっている。
 観光名所にもなっていて、灯台内部に入ることができる。

 久しぶりに灯台の中に入り、螺旋階段を上って、展望台に出た。
 潮風が気持ちいい。波の音も心地よくて、心を穏やかにしてくれる。
 千葉県の最南端にある野島崎灯台からは太平洋がよく見える。
 濃紺の海をじっと見ていると、世界に自分が溶け込んでいくようだった。
 今、抱えている問題も大したことではない気がしてくる。

 ここで暮らそう。

 景色を眺めていたら、強くそう思った。
 家はあるし、仕事はパソコンがあればできる。どうしても会社に行く必要がある時だけ、出社すればいい。
 数年前に流行った伝染病のおかげで、うちの会社でもリモートワークに対応する環境は整っている。
 よく考えると、ここで暮らせる条件はそろっていた。
 定年退職した後に東京を離れて田舎で暮らしたいとは思っていたが、僕に老後はない。だったら今だ。動けるうちはこの場所で暮らしたい。
 そう思ったら、力が湧き上がってくる。

 *

 ゴールデンウィークが終わり、僕は上司にガンであることを打ち明け、リモートワークに切り替えることを了承してもらった。
 止められるかと思ったが、普段厳しかった上司は急に部下に理解のある優しい上司に変身したみたいに僕に優しかった。
 坂本には憧れの田舎暮らしを実行する為にリモートワークに切り替えたことだけを話した。
「奥さん、反対しなかったのかよ?」と坂本に聞かれ、離婚協議中であることをこっそりと打ち明けた。
「ちょっと待て。その展開は聞いてないぞ。今夜は飲みに行くからな」と、坂本に強引に居酒屋に連れて来られた。会社近くの行きつけの居酒屋だった。
 カウンター席に坂本と横並びで座り、坂本とビールで乾杯してから飲み始める。つまみは焼き鳥の盛り合わせと枝豆だ。

「離婚ってどういうことだよ?」
 坂本が僕を見る。
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