神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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2話

憧れのスローライフと思わぬ再会<4>

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「浮気がバレて離婚することになった」

 病気のことを言う覚悟がなかったので、坂本にもみんなについた嘘をついた。
 坂本の眉が寄る。

「はあ? 奥さん一筋だった倉田が浮気? 嘘だろ? 相手は誰だ?」
「誰だっていいだろう。もう終わったんだ」
「なんで嘘つくんだよ。本当のこと言えよ。何があったんだよ。離婚に田舎暮らしだなんて」
「だから浮気」
「嘘だ。倉田は絶対にしない」

 強い口調で言われ、言いよどむ。

「そんなこと言われても、それが事実だ」
「何を隠してるんだ? お前、スパイにでもなったのか?」

 スパイって言葉が突拍子もなく思えて笑いが零れる。

「スパイか。それは面白そうだな」

 アクション映画のヒーローみたいな人生も憧れるが、坂本に簡単に怪しまれる僕には無理そうだ。

「倉田、何があった? 俺たちもう十年の付き合いだろ? 俺は倉田のこと親友だと思っているんだよ。俺が弱っている時はいつも察してくれるし、倉田といると楽しいんだ」

 滅多に本音を言わない坂本の言葉に涙腺が緩みそうになる。

「ありがとう。坂本。でも、すまない。言えないんだ」

 思わず本音が口から滑る。

「やっぱり浮気は嘘なのか」

 これ以上、坂本に嘘をつくのが心苦しくて頷いた。

「何があったんだよ。奥さんと離婚だなんて、よほどのことだろ?」

 黙って頷いた。

「どうしても言えないのか?」
「すまない」
「わかった。じゃあ、言えるようになったらでいいから教えてくれ」

 こんな僕を待ってくれるなんて、坂本は優しい。

「うん。いつか話すよ」

 まだ両親にも打ち明けていないのに、話せる日が来るのだろうか。
 それから坂本に引っ越す南房総の家のことを話した。

「田舎暮らしか」

 しみじみとした声で坂本が言った。

「楽しそうだな。遊びに行ってもいいか?」
「もちろん」
「そのうち行くから、よろしくな」

 あの家に誰かが遊びに来ることは考えていなかったから、坂本の言葉が嬉しかった。

 *

「千葉県の南房総市ですか」

 僕の話を聞くと、西山先生がそう口にした。
 今日は大学病院での診察だった。

「倉田さん、ご家族に病気のことは話しましたか?」
「新しい生活が落ち着いてから両親に話します」

 病気のことを言ったら、一人暮らしを止められると思って言い出せていない。

「必ずお話し下さい。病状が進行すれば倉田さんは一人で暮らせなくなりますから。医師としても、一人暮らしはお勧め出来ません」
「今ではないと出来ないことをしたいんです。元気なうちに、自由に体が動くうちに、好きな場所で暮らしたいんです」

 先生が短く息をつく。

「わかりました。では、僕の先輩がいるホスピスを紹介します」
「ホスピスって、僕のような末期がん患者の症状を緩和させる目的のものですよね?」
「そうです。ホスピスケアは痛みや苦しみを軽減させ、患者さんの生活の質を向上させることを優先させる医療です。南房総市には優秀な医師がいるホスピスがあります。紹介状を書きますから、必ず受診して下さい。倉田さんが辛い時に助けになりますから」

 僕のことを心配して先生が言ってくれるのが伝わって来た。
 最初は無表情で冷たそうに見えた西山先生だったが、患者のことを大事に考えてくれる人なんだと感じた。

「ありがとうございます」
「倉田さん、くれぐれも無理はしないで下さいね」
「はい」

 その場で先生に書いてもらった紹介状を持って診察室を出た。
 ホスピスという言葉を聞いて、僕の病気は治らないものなんだと実感した。あとどれくらい元気でいられるだろうか?
 リノリウムの床を歩きながら、そんなことを思った。
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