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2話
憧れのスローライフと思わぬ再会<5>
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南房総市に引っ越したのは五月最後の土曜日だった。
トランクルームに預けていた荷物を全部、引っ越しのトラックで持って来た。生活の基盤は今日からこの場所だ。
引っ越しの荷物を片付けた後は裏の家にご挨拶に行った。
子どもの頃から知っている家で、おばさんには涼くんと呼ばれている。
「涼くん、一人で住むの? 奥さんは?」
六十近くになるおばさんは遠慮なく聞いてくる。
毎年、希美とゴールデンウィークに来ていたから、そう思うのも当然だ。
「妻は仕事の関係で来られなくて。しばらくは僕一人で住むつもりですから」
おばさんの顔を見ていたら離婚するなんて言えなくなった。
「そっか。困ったことがあったら、遠慮なく言いなさいよ。これ持って行ってね」
おばさんからレジ袋を渡される。中身はきゅうりとトマトと広告に包まれたいんげんが入っていた。
「うちの庭で取れたのよ」
「ありがとうございます」
おばさんの家を後にし、家に戻るといただいた野菜を冷蔵庫に仕舞う。
いんげんを包んでいた広告にふと目が留まる。
【カフェ凪、今月のランチセット、シーフードカレー】
イラスト入りでシーフードカレーが載っていて、とても美味しそうだった。
営業時間は午前十一時~午後五時までと書いてある。
今は午後一時になる所だ。昼は家で引っ越しソバにしようと思っていたが、イラストのシーフードカレーが食べたくなる。
広告に書かれた地図を見ると、野島崎灯台の近くにあるようだ。
思ったよりも近い。行ってみるか。
*
早速、車で凪に向かう。
野島崎灯台につながる海沿いの道路を走ると広告で見た【カフェ凪】の看板があった。カフェまでは車で五分くらいだ。
【カフェ凪】と看板がかかる白い二階建ての建物の脇に十台分の駐車場があり、そこに車を停めた。
店先には黒板型の看板が置かれ、イラスト入りのメニューが書いてある。そのイラストと文字を見て、希美のイラストと字に似ている気がした。
しかし、そんな訳ない。きっと気のせいだ。そう思いながら、メープル色の木製のドアを開けると、チリンとドアベルが鳴り、「いらっしゃいませ」という女性の声がする。
白を基調とした内装で、落ち着いた雰囲気の白木のインテリアが心地よい空間を作っていた。
女性が好きそうな洒落た店だと思った時、レジ脇に女性店員が出て来た。
「何名様でしょうか?」
女性店員の顔を見て、心臓が止まりそうになる。
「お客様?」
髪型はショートカットに変っていたが、目の前にいるのは希美だ。
なぜ希美がここにいるんだ?
トランクルームに預けていた荷物を全部、引っ越しのトラックで持って来た。生活の基盤は今日からこの場所だ。
引っ越しの荷物を片付けた後は裏の家にご挨拶に行った。
子どもの頃から知っている家で、おばさんには涼くんと呼ばれている。
「涼くん、一人で住むの? 奥さんは?」
六十近くになるおばさんは遠慮なく聞いてくる。
毎年、希美とゴールデンウィークに来ていたから、そう思うのも当然だ。
「妻は仕事の関係で来られなくて。しばらくは僕一人で住むつもりですから」
おばさんの顔を見ていたら離婚するなんて言えなくなった。
「そっか。困ったことがあったら、遠慮なく言いなさいよ。これ持って行ってね」
おばさんからレジ袋を渡される。中身はきゅうりとトマトと広告に包まれたいんげんが入っていた。
「うちの庭で取れたのよ」
「ありがとうございます」
おばさんの家を後にし、家に戻るといただいた野菜を冷蔵庫に仕舞う。
いんげんを包んでいた広告にふと目が留まる。
【カフェ凪、今月のランチセット、シーフードカレー】
イラスト入りでシーフードカレーが載っていて、とても美味しそうだった。
営業時間は午前十一時~午後五時までと書いてある。
今は午後一時になる所だ。昼は家で引っ越しソバにしようと思っていたが、イラストのシーフードカレーが食べたくなる。
広告に書かれた地図を見ると、野島崎灯台の近くにあるようだ。
思ったよりも近い。行ってみるか。
*
早速、車で凪に向かう。
野島崎灯台につながる海沿いの道路を走ると広告で見た【カフェ凪】の看板があった。カフェまでは車で五分くらいだ。
【カフェ凪】と看板がかかる白い二階建ての建物の脇に十台分の駐車場があり、そこに車を停めた。
店先には黒板型の看板が置かれ、イラスト入りのメニューが書いてある。そのイラストと文字を見て、希美のイラストと字に似ている気がした。
しかし、そんな訳ない。きっと気のせいだ。そう思いながら、メープル色の木製のドアを開けると、チリンとドアベルが鳴り、「いらっしゃいませ」という女性の声がする。
白を基調とした内装で、落ち着いた雰囲気の白木のインテリアが心地よい空間を作っていた。
女性が好きそうな洒落た店だと思った時、レジ脇に女性店員が出て来た。
「何名様でしょうか?」
女性店員の顔を見て、心臓が止まりそうになる。
「お客様?」
髪型はショートカットに変っていたが、目の前にいるのは希美だ。
なぜ希美がここにいるんだ?
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