神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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2話

憧れのスローライフと思わぬ再会<2>

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 今年のゴールデンウィークは、間にある平日も有休を入れ、九連休にした。一人でゆっくりと今後のことを考える時間が欲しかった。
 
 千葉県の南房総市にある亡くなった祖母の家は自然豊かな場所にあり、考えごとをするのに最適な場所だったので、連休中はずっと祖母の家にいるつもりだ。

 両親もついて来たがったが、一人でいたかったので断り、朝六時に愛車のコンパクトカ―で実家を出発した。最寄りのインターから高速道路に入り、東京湾アクアラインを通って、館山たてやま自動車道で終点の富津竹岡ふっつたけおかインターチェンジまで走ると後は一般道を進んだ。

 館山自動車道は館山という名が付いているが、実は館山市内までは通っておらず、手前の富津市ふっつしまでだ。そこからさらに南下すると、南房総市になるが、目的地は南房総市の中でも最南端の地域で、館山市を通り抜けた先にある。

 道が空いていたこともあり、135キロの道のりをおよそ二時間のドライブで目的地に到着した。


 木に囲まれた平屋の家は敷地が百坪あり、庭に車を五、六台停めても余裕がある広さだ。
 去年のゴールデンウィークに刈った芝生はぼうぼうに伸びていて、雑草もあちらこちらに生えていた。
 これは結構、大変な作業になりそうだ。

 荷物を持って車を降りると、強い日差しを感じる。ここで見る太陽は、東京で見るよりも大きいと、子どもの頃から思っていた。空気が澄んでいて、大きな建物がないから、そう見えるのかもしれない。

 夏休みになると両親と三つ年下の弟と泊りがけで毎年遊びに来ていた。
 親戚の海女さんがアワビやサザエを持って来てくれて、それが楽しみだった。
 希美もこの場所を気に入ってくれて、結婚した最初の年に連れて来たら、喜んでくれて、毎年、足を運ぶようになった。

 希美は元気でやっているだろうか?
 希美と最後に会ってから二週間が経っていた。

 離婚手続きの代理人をお願いしている弁護士の桐島きりしま先生から一週間前に連絡があり、希美はまだ離婚届にサインをしていないと聞いた。

 江戸川区のマンションを慰謝料として僕は希美に差し出したが、希美はマンションをもらうよりも、僕と会って話すことを希望しているようだ。

 会いたいと言われて、正直どうしたらいいかわからない。希美の顔を見たら、弱い僕はよりを戻したくなりそうで怖い。だから、希美には会えないと弁護士には伝えた。それから連絡はないから、希美は納得してくれたのかもしれない。

 息をつき、玄関の鍵を開錠する。引き戸をガラっと開け、中に入ると、カビ臭い。まずは家中の雨戸と窓を開けて、換気する。

 間取りは2LDKで、祖母がいた頃は畳だったが、両親が手を入れ、今は全部の部屋がフローリングになっている。

 リビングに荷物を置き、冷蔵庫の電源を入れてから、未開封のペットボトルの麦茶をしまう。次に草取りの準備をする。庭仕事は午前中にするつもりで来た。

 虫よけスプレーを手足にかけ、首にタオルを巻き、つばの広い帽子を被って最後に軍手を装着する。これで完璧だ。

 外に出て、物置小屋から、手動の芝刈り機を取り出し、まずは芝刈りから始めた。それから雑草を抜き、通行の邪魔になっている木をノコギリで切る。

 昼になる頃には汗だくになった。
 今日の作業はここで終わりにして、家に入り、冷房をガンガン効かせ、リビングのフローリングの床に寝そべった。

 冷風が心地いい。そう感じるのは生きているからだと思った。

 ――りょうくん、おいねえな。

 子どもの頃、祖母がそう言っていたのを思い出した。
 おいねえとは『つらい』という意味の方言だ。

 祖母はシマと名付けたキジトラの仔猫を飼っていた。
 道路の真ん中で顔半分が潰れたシマを見つけた時、悲しくて胸が張り裂けそうになった。

 庭先にいた祖母に伝えると、祖母は僕と一緒にシマの所に行き、身に付けていたエプロンを取って、シマを大事そうに包んだ。田舎の家で一人暮らしをする祖母にとってシマは家族の一員だったのかもしれない。

 ――おいねえな。まだちゃっこいのになー。
 
 そう言って祖母はエプロンに包んだシマを抱きしめていた。
 シマは一才になる前だった。本当に短い命だった。それに比べたら三十四年も生きられて僕は幸せだ。だけど、もっと生きたい。生きて、大好きな希美の側にいたい。

 心の底に押し込めていた感情が溢れる。
 自分の運命が憎い。人は誰でも死ぬけど、少し早すぎる。

「ばあちゃん、おいねえよ」

 手の甲で涙を拭いながら呟いた。
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