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2話
憧れのスローライフと思わぬ再会<1>
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江戸川区のマンションを出た僕はとりあえず小金井市にある実家に身を寄せた。
ふらりと実家に帰ると六十歳になる母は「希美ちゃんと喧嘩でもしたのか」と聞いて来た。
希美の立場が悪くならないように、僕は律子さんに話したのと同じ理由を口にした。
「浮気って……嘘でしょ?」
ソファに座る僕を母は信じられないものを見るような目で見る。
「まあ、そういう訳だから僕が悪いんだ。だから、希美には連絡するなよ」
母にそう釘を刺し、ソファから立ち上がろうとしたら、「ちょっと待ちなさい」と呼び止められる。
普段穏やかな母が、かなり険しい表情を浮かべていた。
「相手は誰? 会社の人?」
母の尋問が始まる。
「浮気した人とはどうするの?」
「もう浮気相手とは別れたよ」
浮気相手に会わせろと言いそうな勢いだったので、そう答えた。
「別れたなら、離婚することないじゃない」
「そうはいかない。僕は希美の信頼を裏切ったんだ。とにかく僕が百パーセント悪いから。それに希美とはもう終わったんだ。もう関わることはないから、絶対に連絡はするなよ」
母は渋々という感じで頷いた。
「涼介、これからどうするのよ?」
これからのことをまだ考えていなかった。
「新居が見つかったら出て行く。実家にいるのはそれまでだ」
「ここは涼介の家なんだから、出て行くことないわよ」
母にそう言ってもらえたのはありがたい。実家がある有難みが身に染みる。しかし、両親にも心配をかけたくないので、会社の近くにでもアパートを借りて引っ越すつもりだ。
「ところで、涼介、少し痩せたんじゃない?」
母が心配そうに僕の顔を見る。
ドキッとした。久しぶりに体重計に乗ったら四キロ体重が落ちていた。ガンの影響かもしれない。
「いろいろあって忙しかったから」
「そう。じゃあ、今夜は涼介の好物を作るわね」
ウキウキとした声で母が言った。
その日の夕食の食卓には肉じゃが、唐揚げ、シューマイ、ポテトサラダと僕の好物ばかりが並んだ。
「今夜はごちそうだな」
父が言った。六十三歳の父は一旦市役所を退職して、再雇用で働いている。
「涼介、ビール飲むか」
あまりにも父が嬉しそうに言うから断れず、頷いた。
母から離婚のことを聞いていると思うが、食卓の席でその話題は出なかった。しかし、食後、リビングで「本当に離婚したのか?」と父に聞かれ、「本当だよ」と答えた。
「希美ちゃん、いい子だったのにな。もう会えないのか」
父は寂しそうに言った。
父にそんな風に思われていたとは思わなかったので、意外だった。
「涼介が初めて希美ちゃんを家に連れて来た時、希美ちゃんは『涼介さんを幸せにします』と言ってくれたんだ。この子は心から涼介のことを好いてくれていると思った」
父と希美の間でそんな会話が交わされていたことを初めて知り、涙ぐみそうになる。
「涼介は、そんな希美ちゃんを悲しませたんだからな」
低い声で父が口にした。反省しなさいと言われているようだった。おそらく母から浮気のことを聞いたのだろう。
僕はどう思われたっていい。希美が幸せでいてくれれば。
しかし、希美は僕を幸せにすると言ってくれたのか。父に叱られているのに、希美の言葉を知ることができて幸せだ。
ふらりと実家に帰ると六十歳になる母は「希美ちゃんと喧嘩でもしたのか」と聞いて来た。
希美の立場が悪くならないように、僕は律子さんに話したのと同じ理由を口にした。
「浮気って……嘘でしょ?」
ソファに座る僕を母は信じられないものを見るような目で見る。
「まあ、そういう訳だから僕が悪いんだ。だから、希美には連絡するなよ」
母にそう釘を刺し、ソファから立ち上がろうとしたら、「ちょっと待ちなさい」と呼び止められる。
普段穏やかな母が、かなり険しい表情を浮かべていた。
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「そうはいかない。僕は希美の信頼を裏切ったんだ。とにかく僕が百パーセント悪いから。それに希美とはもう終わったんだ。もう関わることはないから、絶対に連絡はするなよ」
母は渋々という感じで頷いた。
「涼介、これからどうするのよ?」
これからのことをまだ考えていなかった。
「新居が見つかったら出て行く。実家にいるのはそれまでだ」
「ここは涼介の家なんだから、出て行くことないわよ」
母にそう言ってもらえたのはありがたい。実家がある有難みが身に染みる。しかし、両親にも心配をかけたくないので、会社の近くにでもアパートを借りて引っ越すつもりだ。
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母が心配そうに僕の顔を見る。
ドキッとした。久しぶりに体重計に乗ったら四キロ体重が落ちていた。ガンの影響かもしれない。
「いろいろあって忙しかったから」
「そう。じゃあ、今夜は涼介の好物を作るわね」
ウキウキとした声で母が言った。
その日の夕食の食卓には肉じゃが、唐揚げ、シューマイ、ポテトサラダと僕の好物ばかりが並んだ。
「今夜はごちそうだな」
父が言った。六十三歳の父は一旦市役所を退職して、再雇用で働いている。
「涼介、ビール飲むか」
あまりにも父が嬉しそうに言うから断れず、頷いた。
母から離婚のことを聞いていると思うが、食卓の席でその話題は出なかった。しかし、食後、リビングで「本当に離婚したのか?」と父に聞かれ、「本当だよ」と答えた。
「希美ちゃん、いい子だったのにな。もう会えないのか」
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父にそんな風に思われていたとは思わなかったので、意外だった。
「涼介が初めて希美ちゃんを家に連れて来た時、希美ちゃんは『涼介さんを幸せにします』と言ってくれたんだ。この子は心から涼介のことを好いてくれていると思った」
父と希美の間でそんな会話が交わされていたことを初めて知り、涙ぐみそうになる。
「涼介は、そんな希美ちゃんを悲しませたんだからな」
低い声で父が口にした。反省しなさいと言われているようだった。おそらく母から浮気のことを聞いたのだろう。
僕はどう思われたっていい。希美が幸せでいてくれれば。
しかし、希美は僕を幸せにすると言ってくれたのか。父に叱られているのに、希美の言葉を知ることができて幸せだ。
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