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3話
客とカフェ店員<2>
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凪に行ったのは、希美と会った一週間後の土曜日だった。
希美はいるだろうかと緊張しながら店に行くと、若い男性が出て来た。名札に『青山』と書いてあった。
「何名様でしょうか?」
「一名です」
「どうぞ」
案内されたのは二階のカウンター席だった。
ここでは一階の様子がわからず、希美がいるのかもわからない。
「あの、一階の席は空いてませんか?」
男性店員に尋ねると、面倒くさそうな表情を浮かべ、「申し訳ございません。こちらの席しか空いておりません」と言われた。
先週よりも一時間早く来たことが仇になったようだ。冷静に考えれば混雑する時間だ。先週と同じ時間に来れば良かった。
「すみません。わかりました。ここで大丈夫です」
「お決まりになる頃にうかがいます」
男性店員が立ち去る。
カウンターは窓に面していて、窓の外には海と、左側の端には野島崎灯台が見えた。
一階席よりも景色はいい。
周囲を見ると、大学生くらいのカップルや、女性同士で来た客が座り、楽しそうに話していた。ポツンと一人だけ浮いているようだった。
先週は希美の姿を追うので必死で周囲の様子を気にしていなかった。しかし、よく考えれば凪は女性受けしそうなお洒落な店だ。僕のようなおっさんが一人で来るには敷居が高い気がする。急に肩身が狭くなる。周りの笑い声が何だか僕のことを笑っているように思える。先週案内されたテラス席ではそんなことを全く感じなかった。もしかしたら、希美が気をつかって、一人客でも気にならない場所に案内してくれたんだろうか。
「いらっしゃいませ」
背中を丸くして、メニューを見ていたら明るい声が響いた。
顔を上げると制服姿の希美が僕の後ろに立っていた。
「来て下さったんですね」
希美がにこやかな笑みを向けながら僕に話しかける。
希美につられて僕の頬も緩む。
「はい。せっかくなので」
「来ていただけて嬉しいです。注文は決まりましたか?」
「えーと、倉田さんのおすすめはありますか?」
元々知っていたと思われないように、名札を見ながら希美の名前を口にした。
「私のおすすめですか。そうですね、シーフードカレーと言いたいけど、この間、食べていましたものね」
僕が食べた物を覚えていてくれるとは思わなかった。
「覚えていてくれたんですか?」
「はい」
希美が笑顔で頷いた。
「なんか嬉しいですね」
照れた笑みを浮かべていたら、「倉田さん」とさきほどの男性店員が希美に話しかける。
「今、行きます」
男性店員にそう返事をしてから、希美は「私はカルボナーラが好きです」と僕に答えた。
「じゃあ、カルボナーラと食後にホットコーヒーで」
「カルボナーラとホットコーヒーですね。あとデザートはいかがですか? 差し上げたお食事券はおつりが出ないので、デザートを付けた方がいいと思います」
律儀な希美に微笑ましくなる。
「ありがとう。じゃあ、チョコレートケーキで」
「かしこまりました」
希美が笑顔で立ち去る。
さっきまで、この場に一人でいることを気にしていたのがバカらしくなるほど、心が弾む。希美の笑顔はいつだって僕の心を明るくする太陽だ。
仕事で嫌なことがあっても、帰宅するといつも希美が笑顔で出迎えてくれて、それで僕は元気になった。その頃と全く変わらない。
希美はいるだろうかと緊張しながら店に行くと、若い男性が出て来た。名札に『青山』と書いてあった。
「何名様でしょうか?」
「一名です」
「どうぞ」
案内されたのは二階のカウンター席だった。
ここでは一階の様子がわからず、希美がいるのかもわからない。
「あの、一階の席は空いてませんか?」
男性店員に尋ねると、面倒くさそうな表情を浮かべ、「申し訳ございません。こちらの席しか空いておりません」と言われた。
先週よりも一時間早く来たことが仇になったようだ。冷静に考えれば混雑する時間だ。先週と同じ時間に来れば良かった。
「すみません。わかりました。ここで大丈夫です」
「お決まりになる頃にうかがいます」
男性店員が立ち去る。
カウンターは窓に面していて、窓の外には海と、左側の端には野島崎灯台が見えた。
一階席よりも景色はいい。
周囲を見ると、大学生くらいのカップルや、女性同士で来た客が座り、楽しそうに話していた。ポツンと一人だけ浮いているようだった。
先週は希美の姿を追うので必死で周囲の様子を気にしていなかった。しかし、よく考えれば凪は女性受けしそうなお洒落な店だ。僕のようなおっさんが一人で来るには敷居が高い気がする。急に肩身が狭くなる。周りの笑い声が何だか僕のことを笑っているように思える。先週案内されたテラス席ではそんなことを全く感じなかった。もしかしたら、希美が気をつかって、一人客でも気にならない場所に案内してくれたんだろうか。
「いらっしゃいませ」
背中を丸くして、メニューを見ていたら明るい声が響いた。
顔を上げると制服姿の希美が僕の後ろに立っていた。
「来て下さったんですね」
希美がにこやかな笑みを向けながら僕に話しかける。
希美につられて僕の頬も緩む。
「はい。せっかくなので」
「来ていただけて嬉しいです。注文は決まりましたか?」
「えーと、倉田さんのおすすめはありますか?」
元々知っていたと思われないように、名札を見ながら希美の名前を口にした。
「私のおすすめですか。そうですね、シーフードカレーと言いたいけど、この間、食べていましたものね」
僕が食べた物を覚えていてくれるとは思わなかった。
「覚えていてくれたんですか?」
「はい」
希美が笑顔で頷いた。
「なんか嬉しいですね」
照れた笑みを浮かべていたら、「倉田さん」とさきほどの男性店員が希美に話しかける。
「今、行きます」
男性店員にそう返事をしてから、希美は「私はカルボナーラが好きです」と僕に答えた。
「じゃあ、カルボナーラと食後にホットコーヒーで」
「カルボナーラとホットコーヒーですね。あとデザートはいかがですか? 差し上げたお食事券はおつりが出ないので、デザートを付けた方がいいと思います」
律儀な希美に微笑ましくなる。
「ありがとう。じゃあ、チョコレートケーキで」
「かしこまりました」
希美が笑顔で立ち去る。
さっきまで、この場に一人でいることを気にしていたのがバカらしくなるほど、心が弾む。希美の笑顔はいつだって僕の心を明るくする太陽だ。
仕事で嫌なことがあっても、帰宅するといつも希美が笑顔で出迎えてくれて、それで僕は元気になった。その頃と全く変わらない。
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