神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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4話

友人という立場<4>

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 未使用の紙ナプキンをカウンター上のホルダーから二枚取り、慌てて希美に渡す。
 希美が「すみません」と言って、受け取った紙ナプキンを目元に当て、涙を拭う。

「倉田さん、すみません。僕、気に障ることを言いましたか?」

「ごめんなさい。これは……その、木村圭さんが亡くなったことがショックで。彼がこの世にいないと思うと勝手に涙が出るっていうか」

 あたふたとした様子で弁解する希美を見て胸が締め付けられる。
 平気で話せるようになったと思ったのは間違いだった。希美にとって木村圭の存在は亡くなった後でも大きいようだ。

「私、変ですよね。木村圭さんのことを直接知っていた訳でもないのに、こんなことで泣いちゃって」

 希美が笑うが、僕を心配させないように笑っているのがわかった。

「無理に笑わないで下さい。それに、木村圭さんと似ていると言われて嬉しいですよ」

 前はそう思わなかったが、希美が大切に思っている人に似ていると言われるのは悪い気はしない。

「佐藤さんは優しいんですね」

 希美の言葉にズキッと胸が痛む。
 希美への想いを断ち切れずに名前を偽って会っていることが一層後ろめたくなる。

「実は初めて『凪』に佐藤さんがいらっしゃった時から佐藤さんに親しみを感じていたんです。なんだか佐藤さん、初対面な感じがしなくて」

 僕の記憶を失っている希美がそんな風に思っているとは思わなかった。

「木村圭さんに似ているからですかね」

 希美がクスッと笑う。

「そうかもしれません。佐藤さんの眼差しがすごく彼に似ているんですよね」

 希美が肘をついて柔らかな笑みを浮かべる。その表情を見て、胸が高鳴る。大好きな表情だ。
「眼差しですか。そう言えば目が少し似ていると言われたことがあったな」

 昔、希美に言われたことがあった。
 最初、希美と一緒にいる時、やたらと見られている気がした。親しくなってから理由を聞くと僕の目が木村圭に似ているから見ていたらしかった。

「そう! 目ですよ。二重の切れ長の目が似ているんです」

 希美が嬉しそうに手を叩く。
 無邪気な様子にさらに鼓動が速くなる。どうしてそんなにいい表情をするんだ。また好きになるじゃないか。

「倉田さんは本当に木村圭さんが好きなんですね」
「はい。大好きです」

 僕のことは忘れても、木村圭のことは忘れないんだな。
 希美にとって僕は木村圭以下ってことか。
 希美が僕を好きになったのも、木村圭にちょっと似てたからだよな。
 何だか切なくて、ため息が出た。

「ちょっと悔しいな」

 思わず本音が出た。

「え?」

 希美が箸を置いて、こっちを見る。

「いや、だって倉田さんが僕に親しみを感じてくれたのは、木村圭さんに少し似ていたからだと思ったら、悔しくなってしまって」
「あの、切っ掛けは木村圭さんですけど、でも、それだけじゃありませんよ」
「いいですよ。慰めなんて」
「いえ、本当に。私、多分、佐藤さんが好きなんだと思います」

 びっくりして握っていたビールジョッキを落としてそうになった。
 今、希美は僕を好きと言ったのか?
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