神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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4話

友人という立場<6>

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 初めて、希美を実家に連れて行った時、小金井公園にも立ち寄った。

「自然豊かで広い公園ですよね。『江戸東京たてもの園』が中に入ってて……」

 希美の話を聞きながら、鼓動が速くなる。

 ――次は江戸東京たてもの園に行きたい。

 小金井公園に行った時、希美にそう言われたのだ。だけど、なんだかんだと忙しくてその約束は未だに果たされていない。

 まさか、その時のことを希美は覚えているのか?
 元気よく話していた希美が急に黙り込む。

「……私、誰と行ったんだろう」

 小さな声で希美が言った。
 口元を押さえたまま、希美が立ち止まる。

「……誰と行ったの?」

 僕にではなく、希美は自分に向けて呟いたようだった。

「倉田さん、どうされました?」

 不安そうな表情で希美がこちらを向く。

「あの……」

 希美がじっと僕を見つめる。

「今、自然と小金井公園に行ったと話していたけど、誰と行ったか思い出せなくて。私、実は記憶喪失なんです」

 そう打ち明けた希美はとても不安そうで、まるで迷子になった子どものようだ。
 一瞬、僕のことを思い出したのかと思ったが、まだ希美は記憶を失ったままらしい。そのことにほっとする。

「そうですか」

 僕の反応に希美が目を丸くする。

「驚かないんですか?」

 しまった。ここは驚かなければいけない所だった。

「もちろん驚いてますよ」

 両眉を上げ、驚いた表情を作る。

「記憶喪失の人に初めて会いました。いやーびっくりだ」

 僕なりに精いっぱい驚いてみせるが、なぜか希美が笑い出す。

「佐藤さんって、面白い方なんですね」

 面白がられる理由がわからずポカンとする。

「私を笑わせようとしているんですか?」
「いや、そんなつもりは」
「だって佐藤さんの驚き方、わざとらし過ぎる」

 希美に指摘されて、つくづく僕は大根役者なのだと感じる。よくこれで嘘をつき続けているものだ。

「でも、なんか気持ちが楽になったって言うか。私が記憶喪失だって話をすると、みんな気の毒そうな顔をするんです。それで、私、かわいそうな人だと思われているんだなって、何だか落ち込んで……」

 記憶喪失になってからの希美にそんな苦労があったとは知らなかった。

「同情されたくないって言うか」
「その気持ちわかります」

 会社の上司にガンだと打ち明けた時、希美と同じようなことを思った。上司の憐れむような眼差しが正直嫌だった。

「同情されると寂しくなるというか。相手に悪気はないのでしょうが」
「そうなんですよね。だから、こんなことを思う私って、歪んでいるのかなって思ったりして、さらに落ち込むんですよね」
「倉田さんは歪んでいませんよ。相手に心配をかけるのが嫌なだけですよ」

 希美がハッとしたように瞬きをする。

「そうかも。相手に心配をかけたくないから、同情されたくないって思うのかも。佐藤さんは鋭いですね。鍵を失くした時も簡単に見つけてくれたし」

 希美のことをよく知っているからだとは言えず、曖昧な笑みを浮かべた。

「佐藤さんは探偵さんなんですか?」

 思いがけない言葉を投げかけられて、目が点になる。
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