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5話
希美の幸せ<4>
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希美と井上さんが住む十階建てのマンションまで送り届けた。井上さんは希美の隣の部屋らしい。
リゾートマンションとして建てられた物で、築年数は二十年以上経つが白い壁の外観は綺麗で、ちゃんとオートロックだった。とりあえず女性の一人暮らしでも心配なさそうな建物で安心した。
車をマンションに横づけすると、希美が「今日はありがとうございました」と言ってから車から降りた。青山も一緒だ。
「青山君も同じマンションなの?」
運転席の窓を開けて、青山に聞くと「この近所です」という答えが返って来てほっとする。同じマンションじゃなくて良かった。
「私はこのまま佐藤さんの家に連れて行ってもらおうかな」
助手席に座ったままの井上さんが甘えるような視線を僕に向ける。
ため息が出る。
「申し訳ないが、僕は用事があるので」
「ダメですか?」
「うん。ダメ」
「井上さん、佐藤さんにご迷惑をかけたらダメよ」
希美が助手席のドアを開け、井上さんを見る。
井上さんが「わかりました」と返事をし、車から降りた。
「佐藤さん、次はお家に連れて行ってくださいね」
井上さんが笑顔を浮かべる。
「僕の家に遊びに来たってつまらないよ。僕がお店に行くから」
井上さんにそう返し、希美に視線を向けると、希美と目が合う。このまま希美と別れたくないという感情が溢れる。今日は井上さんと青山がいたので希美とあまり話せなかった。
「ありがとうございました」
希美に言われ、会釈した。
気持ちを抑えて車を発進させる。
バックミラー越しに希美が手を振っているのが見えて、引き返したくなるが、我慢した。
※
家には帰らず野島崎灯台がある国定公園に立ち寄った。もう夕方だった。
車から降りて駐車場に立つと、全身が温い潮風に包まれた。それからゴーゴーという風と波の音が混ざった大きな音を感じる。今日はわりと風が強い。
真っ赤な夕陽に染まる空と海を見上げながら、もう今日が終わってしまうと思った。
四月に余命半年だと言われてから三ヶ月が経った。藤原さんのように余命以上に生きることができればいいが、そうではなければ僕の命は残り三ヶ月……。
そう思うと、現実に胸が押しつぶされそうになる。考えないようにしていたが、死が迫ってくると思うと恐ろしい。
息をつき、恐怖を振り払うように周囲に視線を向けた。赤い鳥居が目に留まる。灯台に向かう道の途中にある厳島神社(野島弁財天)だ。神頼みなんて柄ではないが、今はすがりたい。
鳥居をくぐって境内に入るとうるさい程の蝉の鳴き声がした。
蒸し暑さを感じながら進むと子宝祈願の為に奉ってある、シャコガイと木製の大きな男根象が目に留まる。男根象は台座の上に左上がりの横向きで置かれている。男根象を優しく撫でると子宝に恵まれるそうだが、何度見てもその大きさに圧倒される。
希美と一昨年お参りした時、希美が「何、これ」と言いながら、妙に高いテンションで男根象を撫でていたのを思い出し、笑みが浮かぶ。あの時は楽しかった。ただ希美が隣にいるだけで全てが輝いて見えた。
薄暗い神社が今は寂しい場所に思える。希美がいないだけでこうも世界が違って見えるのか……。
「優しく撫でると子宝に恵まれるそうですよ」
後ろから女性の声がした。
振り向くと先ほどと同じワンピース姿の希美が立っていた。
リゾートマンションとして建てられた物で、築年数は二十年以上経つが白い壁の外観は綺麗で、ちゃんとオートロックだった。とりあえず女性の一人暮らしでも心配なさそうな建物で安心した。
車をマンションに横づけすると、希美が「今日はありがとうございました」と言ってから車から降りた。青山も一緒だ。
「青山君も同じマンションなの?」
運転席の窓を開けて、青山に聞くと「この近所です」という答えが返って来てほっとする。同じマンションじゃなくて良かった。
「私はこのまま佐藤さんの家に連れて行ってもらおうかな」
助手席に座ったままの井上さんが甘えるような視線を僕に向ける。
ため息が出る。
「申し訳ないが、僕は用事があるので」
「ダメですか?」
「うん。ダメ」
「井上さん、佐藤さんにご迷惑をかけたらダメよ」
希美が助手席のドアを開け、井上さんを見る。
井上さんが「わかりました」と返事をし、車から降りた。
「佐藤さん、次はお家に連れて行ってくださいね」
井上さんが笑顔を浮かべる。
「僕の家に遊びに来たってつまらないよ。僕がお店に行くから」
井上さんにそう返し、希美に視線を向けると、希美と目が合う。このまま希美と別れたくないという感情が溢れる。今日は井上さんと青山がいたので希美とあまり話せなかった。
「ありがとうございました」
希美に言われ、会釈した。
気持ちを抑えて車を発進させる。
バックミラー越しに希美が手を振っているのが見えて、引き返したくなるが、我慢した。
※
家には帰らず野島崎灯台がある国定公園に立ち寄った。もう夕方だった。
車から降りて駐車場に立つと、全身が温い潮風に包まれた。それからゴーゴーという風と波の音が混ざった大きな音を感じる。今日はわりと風が強い。
真っ赤な夕陽に染まる空と海を見上げながら、もう今日が終わってしまうと思った。
四月に余命半年だと言われてから三ヶ月が経った。藤原さんのように余命以上に生きることができればいいが、そうではなければ僕の命は残り三ヶ月……。
そう思うと、現実に胸が押しつぶされそうになる。考えないようにしていたが、死が迫ってくると思うと恐ろしい。
息をつき、恐怖を振り払うように周囲に視線を向けた。赤い鳥居が目に留まる。灯台に向かう道の途中にある厳島神社(野島弁財天)だ。神頼みなんて柄ではないが、今はすがりたい。
鳥居をくぐって境内に入るとうるさい程の蝉の鳴き声がした。
蒸し暑さを感じながら進むと子宝祈願の為に奉ってある、シャコガイと木製の大きな男根象が目に留まる。男根象は台座の上に左上がりの横向きで置かれている。男根象を優しく撫でると子宝に恵まれるそうだが、何度見てもその大きさに圧倒される。
希美と一昨年お参りした時、希美が「何、これ」と言いながら、妙に高いテンションで男根象を撫でていたのを思い出し、笑みが浮かぶ。あの時は楽しかった。ただ希美が隣にいるだけで全てが輝いて見えた。
薄暗い神社が今は寂しい場所に思える。希美がいないだけでこうも世界が違って見えるのか……。
「優しく撫でると子宝に恵まれるそうですよ」
後ろから女性の声がした。
振り向くと先ほどと同じワンピース姿の希美が立っていた。
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