神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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5話

希美の幸せ<3>

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 木更津からの帰りの車内は助手席に井上さんが座り、後部座席には希美と青山が座った。そして、希美は青山と楽しそうに話していた。同じ空間に僕はいないように感じて、いたたまれなかった。

「佐藤さんの奥さんってどんな人なんですか?」

 青山と希美の会話に耳を向けていたら、井上さんに聞かれた。
 希美のいる前で希美のことを話すのは何だか気まずい。

「佐藤さん、奥さんいるの?」

 後ろの席から青山が話に入ってくる。

「ええ、まあ」
「でも、いつも凪に来る時は一人ですよね? 奥さん連れて来ないんですか?」

 青山の質問に追い詰められる。
 正直に離婚寸前だと言うと、井上さんに迫られそうだ。

「事情があって、妻と別居してるんです。でも、仲が悪いという訳ではなく、妻とは毎日オンラインで話しています」
「事情ってどんな事情ですか?」

 青山が聞いてくる。

「青山君、立ち入ったことを聞くのは失礼よ」

 希美が青山に注意する。

「佐藤さん、気分を害されたらすみません」

 青山の代わりに希美に謝罪され、青山と希美の関係が深いものに思えて面白くない。

「いえ。大丈夫です」

 希美にそう答えると、井上さんが「それで、奥さんってどんな人ですか?」と先ほどの質問を繰り返した。

「魅力的で可愛い人です。僕はいつも妻から元気をもらっているんで」

 希美の前でこんな話をするのは照れくさいが、本当のことだ。

「佐藤さん、奥さん大好きじゃん」

 青山に言われた。

「だから結婚しているんです」
「奥さんとはどこで知り合ったの?」

 井上さんが興味深そうに聞く。

「仕事です」
「同じ会社とか?」

 さらに井上さんからの質問だ。

「いや、妻は取引先の会社の人だったので」

 出会った頃の希美はデザイン事務所に所属していた。

「ふーん、それで?」

 井上さんの質問はまだ終わらない。

「それでって?」
「どうやって交際に発展したんですか?」
「それは、会食の場があって、そこで初めて顔を合わせて、そこから妻と二人だけで会うようになって……という所かな」

 本当のことを口にしたのは、よくある展開だと思ったからだ。それに希美は僕のことを忘れているからこの話をしてもきっと問題はない。

「佐藤さんから好きになったの?」

 赤信号で停まり、井上さんの方を見ると目をキラキラと輝かせていた。この手の話題は好きらしい。

「まあ」
「じゃあ、佐藤さんから好きだって言ったの?」
「そうですよ」
「きゃー」と井上さんが一人で盛り上がる。

 後ろの席で希美が笑っていた。

「井上さん、恋バナ好きなんだね」

 希美が井上さんに言った。

「えー、だって楽しいじゃないですか。不愛想な佐藤さんも奥さんに恋したんだなって思ったら、なんかキュンとしちゃった」
「不愛想って……僕は元々、こんな顔なんです」

 目尻が上がっているからか、昔から不愛想とか、不機嫌そうとかよく言われる。

「私は佐藤さんを不愛想だとは思いませんよ」

 僕を援護するように希美が言ってくれたのが嬉しい。

「ありがとうございます」

 希美に向けて笑みを浮かべると、井上さんが「佐藤さんは倉田さんには愛想がいいんですよ」と余計な一言を付け加える。

「佐藤さん、奥さんがいるんだから横恋慕はダメですよ」

 青山が先日のお返しとばかりに言ってくる。

「横恋慕なんて僕はしてませんよ。青山君こそ、気をつけて下さい」

 きっぱりと言い返し、バックミラー越しに青山を見ると、青山が不敵な笑みを浮かべていた。いちいち腹の立つ奴だ。
 青山の隣に座る希美はなぜか沈んだ表情を浮かべている。
 どうしたのだろうか?
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