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6話
夫の本心が知りたい<10>――Side希美――
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藤原さんのご主人と最後にお会いしたのは一ヶ月前で、その時は元気そうだった。
一体、ご主人に何があったの?
「そうですか。逝かれたのですか。お悔みを申し上げます」
藤原さんの死因を知っているような彼の受け答えを聞いて、なぜか不安になる。
「あの、どうしてご主人はお亡くなりに?」
奥さんに聞いた。
「主人は末期ガンだったんです。余命宣告されて、ホスピスに入院していたんです」
末期ガン……。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中に数字とアルファベットが羅列された紙が浮かんだ。あれは何かの検査結果を書いた紙だった気がする。
――涼くんはガンなの?
彼にそう聞いたことを思い出して、全身に戦慄が走る。
いや、違う。彼がガンの訳ない。違う!
そう強く否定するけど、疑いが消えない。ダメだ。これ以上考えるな。そう思うのに彼が私から離れた理由を考えてしまう。彼が私の為に身を引いたのは――ガンだったから。しかも、そのガンは治る見込みのないもの……。そうだったとしたら、彼がここまでした理由がわかる気がする。いや、彼がガンだなんて、そんなことない。だって彼は元気だもの。きっと私の勘違い。
「大丈夫?」
奥さんに聞かれて自分が泣いていることに気づいた。
「あれ? 私、どうして……」
感情の塊が胸から喉の奥に込み上がり、瞼の奥を熱くする。
「ごめんなさい……」
涙で声が震える。
「主人が亡くなったことを悲しんでくれるのね。ありがとう」
藤原さんの言葉を聞いて罪悪感でいっぱいになる。
今、私が泣いているのは、藤原さんが亡くなったことに対してではない。
彼がガンだったらどうしようという不安に駆られて泣いている。
「……すみません。本当にすみません」
奥さんに申し訳なかった。
「謝ることないわ。倉田さん、ありがとう。私ちょっと散歩してくるわね」
奥さんは優しく微笑むと、灯台の方へ歩いて行った。
寂しそうな後ろ姿を見て、ひとりになりたいんだと思った。
「大丈夫?」
二人きりになると彼が心配そうに聞いた。
私はまだ不安で泣いている。彼を喪うのが怖い。怖くて堪らない。
「ごめんなさい、なんか急に……止まらなくなって……」
涙につまりながら口にすると、彼が「大丈夫だよ、大丈夫だから」と私の頭を撫でてくれた。前にもこんな風に頭を撫でてもらった気がするけど、いつだったか思い出せない。
彼を思い出したい。一緒に暮らした七年の結婚生活を思い出したい。私たちはどんな夫婦だったの? いつもどんな話をしたの?
ねえ、涼くん。記憶を失う前の私たちに何があったの? 数字が沢山書かれたあの紙はなんだったの?
そう聞きたいのに、怖くて聞けなかった。
一体、ご主人に何があったの?
「そうですか。逝かれたのですか。お悔みを申し上げます」
藤原さんの死因を知っているような彼の受け答えを聞いて、なぜか不安になる。
「あの、どうしてご主人はお亡くなりに?」
奥さんに聞いた。
「主人は末期ガンだったんです。余命宣告されて、ホスピスに入院していたんです」
末期ガン……。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中に数字とアルファベットが羅列された紙が浮かんだ。あれは何かの検査結果を書いた紙だった気がする。
――涼くんはガンなの?
彼にそう聞いたことを思い出して、全身に戦慄が走る。
いや、違う。彼がガンの訳ない。違う!
そう強く否定するけど、疑いが消えない。ダメだ。これ以上考えるな。そう思うのに彼が私から離れた理由を考えてしまう。彼が私の為に身を引いたのは――ガンだったから。しかも、そのガンは治る見込みのないもの……。そうだったとしたら、彼がここまでした理由がわかる気がする。いや、彼がガンだなんて、そんなことない。だって彼は元気だもの。きっと私の勘違い。
「大丈夫?」
奥さんに聞かれて自分が泣いていることに気づいた。
「あれ? 私、どうして……」
感情の塊が胸から喉の奥に込み上がり、瞼の奥を熱くする。
「ごめんなさい……」
涙で声が震える。
「主人が亡くなったことを悲しんでくれるのね。ありがとう」
藤原さんの言葉を聞いて罪悪感でいっぱいになる。
今、私が泣いているのは、藤原さんが亡くなったことに対してではない。
彼がガンだったらどうしようという不安に駆られて泣いている。
「……すみません。本当にすみません」
奥さんに申し訳なかった。
「謝ることないわ。倉田さん、ありがとう。私ちょっと散歩してくるわね」
奥さんは優しく微笑むと、灯台の方へ歩いて行った。
寂しそうな後ろ姿を見て、ひとりになりたいんだと思った。
「大丈夫?」
二人きりになると彼が心配そうに聞いた。
私はまだ不安で泣いている。彼を喪うのが怖い。怖くて堪らない。
「ごめんなさい、なんか急に……止まらなくなって……」
涙につまりながら口にすると、彼が「大丈夫だよ、大丈夫だから」と私の頭を撫でてくれた。前にもこんな風に頭を撫でてもらった気がするけど、いつだったか思い出せない。
彼を思い出したい。一緒に暮らした七年の結婚生活を思い出したい。私たちはどんな夫婦だったの? いつもどんな話をしたの?
ねえ、涼くん。記憶を失う前の私たちに何があったの? 数字が沢山書かれたあの紙はなんだったの?
そう聞きたいのに、怖くて聞けなかった。
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