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7話
告白<2>
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週末、坂本が会社の同期たちを連れて来た。男女合わせて十人集り、庭でバーベーキューをした。僕は休む間もなく、肉を焼いたり、焼きそばを作ったりしたが、みんなと過ごす時間は楽しかった。
「元気そうだな」
みんなにそう言われ、僕は末期ガンであることを忘れた。
「憧れの田舎暮らしをして元気だよ」
「いいな、倉田は好きなことが出来て」
「本当だよ」
「羨ましい。あー会社行きたくねー」
会社の愚痴がちょっと懐かしい。
リモートで仕事をしているが、そういう話をする機会は全くなかった。
「そう言えば、映画のチラシ見たか?」
同期の一人が、思い出したようにスマホを取り出す。映し出されたのは、来月公開の映画のチラシで、僕がデザインしたものだった。
この間映画館に行った時に映画館に置かれていたのをチラッと見ていた。
「これ、切なくていいよな」
スマホを見ながら、みんなが褒めるので、何だか照れくさい。
「クライアントの評判もいいらしいぞ。次も倉田に指名が入るだろうな」
次か……。
その頃の僕はまだ仕事が出来る状態でいるのだろうか。
チラシに書かれた【余命半年の男の物語】という文字を見て思った。皮肉にもこの映画はそういう内容なのだ。
「せっかくだから写真撮ろうぜ」
坂本が言いだした。
三脚なんてものはないから、庭に脚立を持って来て、その上にスマホを置いて、セルフタイマーで撮った。
なかなか上手く撮れなくて、三度もやり直したが、それも楽しかった。
坂本以外は夕方になると帰っていった。
「体調は大丈夫か?」
二人だけになると、坂本に聞かれた。
「ああ、元気だよ」
「なら良かった」
「もしかして、みんなに言ったのか?」
今日はやたらみんなに元気そうだなと聞かれたから気になった。
「言ってないよ」
「そうか」
「あのさ、奥さんとはどうなった?」
「友達になったよ」
坂本が眉を上げる。
「なんだよ。友達って」
「まあ、いろいろあったんだよ」
バーベーキューの片付けを坂本としながら、希美との今の関係を話した。
「本当のこと言えばいいのに。じれったいな」
「いいんだよ。今のままで」
「本当にそうか?」
坂本がじっと見てくる。まるで僕の本心を見透かしているようだった。
本当はよくない。希美に嘘はつきたくない。しかし、希美を悲しませることもしたくない。だったら、多少の嘘はついてもいいと自分に言い聞かせて来たが、それもだんだん苦しくなって来た。
「僕もわからない。ただ、希美を悲しませたくないんだ」
藤原さんが亡くなったことを聞いた時、希美は悲しそうに泣いていた。あんな姿は見たくない。
「じゃあ、本当のことを言った方がいいな」
坂本の言葉に思わず眉が寄る。
「なんで?」
「倉田が亡くなった後に本当のことを知るのと、今本当のことを知るのと、どっちが悲しいか考えればわかるだろ?」
坂本が険しい視線を向けて来た。
どっちが悲しいかなんて考えたことなかった。
「お前は自分が亡くなった後のことを考えていないんだよ。 死ぬってのはな、どんなに望んでも、生きている人間と話せないことなんだよ。俺が奥さんだったら、絶対に後悔が残る。なんで、本当のことを言ってくれなかったんだって、一生悩み続けることになる」
一生という言葉が胸に重く響く。
「一生ってのは大げさじゃないか?」
「全然大げさじゃない! だってお前の気持ちを奥さんは二度と知る機会がないんだぞ。手紙でも遺しておくか? 君を悲しませたくなかったから、嘘ついてましたって。それって、あまりにも一方的じゃないか? 生きているからこそ、話し合えるんだろう? お前は話し合うチャンスも奥さんに与えずに勝手に死のうとしているんだよ」
容赦ない坂本の言葉が次々と胸に刺さる。
坂本の言っていることは正しい。でも、腹が立つ。
「僕だって、好きでこうしているわけじゃない。 本当は希美と一緒にいたいし、本当のことを伝えたい!」
「だったら、そうしろよ」
「怖いんだよ! 本当のことを言ったら、希美が僕から離れていく気がして」
口にしてみて驚いた。僕の中にこんな想いがあったなんて……。なんて僕は汚い人間なんだ。全部、自分の保身じゃないか。希美の為と言いながら、僕は自分が傷つくのが怖くて逃げたんだ。そのことに気づき、愕然とする。
「俺は倉田から離れないよ。末期ガンでも一緒にいて一番楽しい男だからな」
坂本が僕の肩を叩く。
「奥さんもそうだと思うがな」
目頭が熱くなる。
そんな風に坂本が言ってくれることが嬉しかった。
坂本は本当の友達だ。
「元気そうだな」
みんなにそう言われ、僕は末期ガンであることを忘れた。
「憧れの田舎暮らしをして元気だよ」
「いいな、倉田は好きなことが出来て」
「本当だよ」
「羨ましい。あー会社行きたくねー」
会社の愚痴がちょっと懐かしい。
リモートで仕事をしているが、そういう話をする機会は全くなかった。
「そう言えば、映画のチラシ見たか?」
同期の一人が、思い出したようにスマホを取り出す。映し出されたのは、来月公開の映画のチラシで、僕がデザインしたものだった。
この間映画館に行った時に映画館に置かれていたのをチラッと見ていた。
「これ、切なくていいよな」
スマホを見ながら、みんなが褒めるので、何だか照れくさい。
「クライアントの評判もいいらしいぞ。次も倉田に指名が入るだろうな」
次か……。
その頃の僕はまだ仕事が出来る状態でいるのだろうか。
チラシに書かれた【余命半年の男の物語】という文字を見て思った。皮肉にもこの映画はそういう内容なのだ。
「せっかくだから写真撮ろうぜ」
坂本が言いだした。
三脚なんてものはないから、庭に脚立を持って来て、その上にスマホを置いて、セルフタイマーで撮った。
なかなか上手く撮れなくて、三度もやり直したが、それも楽しかった。
坂本以外は夕方になると帰っていった。
「体調は大丈夫か?」
二人だけになると、坂本に聞かれた。
「ああ、元気だよ」
「なら良かった」
「もしかして、みんなに言ったのか?」
今日はやたらみんなに元気そうだなと聞かれたから気になった。
「言ってないよ」
「そうか」
「あのさ、奥さんとはどうなった?」
「友達になったよ」
坂本が眉を上げる。
「なんだよ。友達って」
「まあ、いろいろあったんだよ」
バーベーキューの片付けを坂本としながら、希美との今の関係を話した。
「本当のこと言えばいいのに。じれったいな」
「いいんだよ。今のままで」
「本当にそうか?」
坂本がじっと見てくる。まるで僕の本心を見透かしているようだった。
本当はよくない。希美に嘘はつきたくない。しかし、希美を悲しませることもしたくない。だったら、多少の嘘はついてもいいと自分に言い聞かせて来たが、それもだんだん苦しくなって来た。
「僕もわからない。ただ、希美を悲しませたくないんだ」
藤原さんが亡くなったことを聞いた時、希美は悲しそうに泣いていた。あんな姿は見たくない。
「じゃあ、本当のことを言った方がいいな」
坂本の言葉に思わず眉が寄る。
「なんで?」
「倉田が亡くなった後に本当のことを知るのと、今本当のことを知るのと、どっちが悲しいか考えればわかるだろ?」
坂本が険しい視線を向けて来た。
どっちが悲しいかなんて考えたことなかった。
「お前は自分が亡くなった後のことを考えていないんだよ。 死ぬってのはな、どんなに望んでも、生きている人間と話せないことなんだよ。俺が奥さんだったら、絶対に後悔が残る。なんで、本当のことを言ってくれなかったんだって、一生悩み続けることになる」
一生という言葉が胸に重く響く。
「一生ってのは大げさじゃないか?」
「全然大げさじゃない! だってお前の気持ちを奥さんは二度と知る機会がないんだぞ。手紙でも遺しておくか? 君を悲しませたくなかったから、嘘ついてましたって。それって、あまりにも一方的じゃないか? 生きているからこそ、話し合えるんだろう? お前は話し合うチャンスも奥さんに与えずに勝手に死のうとしているんだよ」
容赦ない坂本の言葉が次々と胸に刺さる。
坂本の言っていることは正しい。でも、腹が立つ。
「僕だって、好きでこうしているわけじゃない。 本当は希美と一緒にいたいし、本当のことを伝えたい!」
「だったら、そうしろよ」
「怖いんだよ! 本当のことを言ったら、希美が僕から離れていく気がして」
口にしてみて驚いた。僕の中にこんな想いがあったなんて……。なんて僕は汚い人間なんだ。全部、自分の保身じゃないか。希美の為と言いながら、僕は自分が傷つくのが怖くて逃げたんだ。そのことに気づき、愕然とする。
「俺は倉田から離れないよ。末期ガンでも一緒にいて一番楽しい男だからな」
坂本が僕の肩を叩く。
「奥さんもそうだと思うがな」
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そんな風に坂本が言ってくれることが嬉しかった。
坂本は本当の友達だ。
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