86 / 216
雨宮課長のスキャンダル
《4》
しおりを挟む
午後は雨宮課長も参加する創立50周年パーティーの企画会議だった。
会議は庶務係の私たちの他に総務課の社員が4名参加するものだった。会議室には先に雨宮課長以外の総務課の社員が来ていて、何やらひそひそと話していた。
明らかにこちらに視線を向けられている。何か敵意のような物も感じる。
さっきの社食での事だろうか? 庶務係に戻って来たらまりえちゃんに噂になっていますよと言われて驚いた。しかもその噂には男性社員の事は出て来ず、私が雨宮課長に一方的に謝罪させた事になっていた。鬼ような剣幕で中島が雨宮課長にくってかかって、土下座させる勢いだったという尾ひれまで付いていた。誰かが面白おかしく脚色したんだろう。宣伝部にいた頃から上司に噛み付いて来たので、中島ならやりそうだというのもあったかもしれない。
後先考えず、あの男性社員に噛み付いたのは失敗だった。みんなの前で雨宮課長に頭を下げさせてしまった事が申し訳ない。
社食を出ていく雨宮課長の背中を思い出して胸がズキッと痛む。雨宮課長はどんな思いで男性社員と私に頭を下げたんだろう。思わず大きなため息が出た。
会議の資料を確認していると、「中島さん、コーヒーお願い」と栗原さんに頼まれた。
まりえちゃんではなく、私に頼んだのは気を遣ってくれたんだ。栗原さんはいつも空気を読んでくれる。ありがたいと思いながら、会議室を出て、同じ階にある給湯室に行った。
10名分のコーヒーの準備を始める。
カップにコーヒーを注いでいると、今日の会議に参加する疋田さんが「手伝うね」って来てくれた。
疋田さんは総務部に配属になった初日に、最初に声をかけた女性だった。顔を合わせれば雑談ぐらいはするようになった。
「雨宮課長が遅れていて、ごめんね」
『うちの課長』って表現に違和感を覚える。雨宮課長は総務課全体の課長だから、私たち庶務係の課長でもある。
「いえ」
「なんか緒方専務に呼び出されているみたい。週刊誌の事だと思うけどね。社内でこれだけ噂になっているから」
心配になる。雨宮課長、大丈夫かな。
「中島さん、うちの課長を謝らせたらしいじゃない。公衆の面前で上司に恥をかかせるのはどうかと思うけど」
アイシャドウの濃い目がジロリとこっちを向いた。
敵意のある視線。さっき会議室で感じたものだ。
疋田さんが手伝いに来たのは、社食での件を注意したかったからだ。
事実は少し違うけど、私が原因になった事は変わらない。
「すみません」
「中島さん、宣伝部にいた時は阿久津部長に噛み付いたんだって? 凄いよね。上司に意見するって。だけど、総務部ではやめて。総務は平和なの。上司に意見するとかってないから。波風立つような事はしないで。今度うちの課長を侮辱するような事をしたら許さないから」
最後の言葉が強く響いた。
疋田さんの強い怒りを感じる。
私に怒りを持つ疋田さんの立場はわかる。
雨宮課長は上司として慕われているんだな。
「本当にすみませんでした」
雨宮課長をみんなの前で謝罪させた事が申し訳なくて、頭を下げた。
会議は庶務係の私たちの他に総務課の社員が4名参加するものだった。会議室には先に雨宮課長以外の総務課の社員が来ていて、何やらひそひそと話していた。
明らかにこちらに視線を向けられている。何か敵意のような物も感じる。
さっきの社食での事だろうか? 庶務係に戻って来たらまりえちゃんに噂になっていますよと言われて驚いた。しかもその噂には男性社員の事は出て来ず、私が雨宮課長に一方的に謝罪させた事になっていた。鬼ような剣幕で中島が雨宮課長にくってかかって、土下座させる勢いだったという尾ひれまで付いていた。誰かが面白おかしく脚色したんだろう。宣伝部にいた頃から上司に噛み付いて来たので、中島ならやりそうだというのもあったかもしれない。
後先考えず、あの男性社員に噛み付いたのは失敗だった。みんなの前で雨宮課長に頭を下げさせてしまった事が申し訳ない。
社食を出ていく雨宮課長の背中を思い出して胸がズキッと痛む。雨宮課長はどんな思いで男性社員と私に頭を下げたんだろう。思わず大きなため息が出た。
会議の資料を確認していると、「中島さん、コーヒーお願い」と栗原さんに頼まれた。
まりえちゃんではなく、私に頼んだのは気を遣ってくれたんだ。栗原さんはいつも空気を読んでくれる。ありがたいと思いながら、会議室を出て、同じ階にある給湯室に行った。
10名分のコーヒーの準備を始める。
カップにコーヒーを注いでいると、今日の会議に参加する疋田さんが「手伝うね」って来てくれた。
疋田さんは総務部に配属になった初日に、最初に声をかけた女性だった。顔を合わせれば雑談ぐらいはするようになった。
「雨宮課長が遅れていて、ごめんね」
『うちの課長』って表現に違和感を覚える。雨宮課長は総務課全体の課長だから、私たち庶務係の課長でもある。
「いえ」
「なんか緒方専務に呼び出されているみたい。週刊誌の事だと思うけどね。社内でこれだけ噂になっているから」
心配になる。雨宮課長、大丈夫かな。
「中島さん、うちの課長を謝らせたらしいじゃない。公衆の面前で上司に恥をかかせるのはどうかと思うけど」
アイシャドウの濃い目がジロリとこっちを向いた。
敵意のある視線。さっき会議室で感じたものだ。
疋田さんが手伝いに来たのは、社食での件を注意したかったからだ。
事実は少し違うけど、私が原因になった事は変わらない。
「すみません」
「中島さん、宣伝部にいた時は阿久津部長に噛み付いたんだって? 凄いよね。上司に意見するって。だけど、総務部ではやめて。総務は平和なの。上司に意見するとかってないから。波風立つような事はしないで。今度うちの課長を侮辱するような事をしたら許さないから」
最後の言葉が強く響いた。
疋田さんの強い怒りを感じる。
私に怒りを持つ疋田さんの立場はわかる。
雨宮課長は上司として慕われているんだな。
「本当にすみませんでした」
雨宮課長をみんなの前で謝罪させた事が申し訳なくて、頭を下げた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる