雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長のスキャンダル

《3》

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私のマンションで会って以来、雨宮課長と関わる事は避けていた。
近くで見たのは二週間ぶり。濃紺のスーツが似合っている。いつ会っても課長は眩しい。

すぐに心臓が反応しちゃう。好きって気持ちが溢れてくる。だけど、今はそれを出せない。

「雨宮課長、何かご用ですか?」
「いや」

短くそれだけ言うと、課長はトレーを持ったまま背を向ける。

「総務カチョーさんは女優だけじゃなくて、女子社員にも手を出しているのか」

すぐ隣に座っていた男性社員がからかうように言った。
何も知らないクセに課長の事を悪く言って腹が立つ。

「勝手な事を言うのはやめて下さい!」

立ち上がり、男性社員を睨んだ。

「雨宮課長はそんな人じゃないです。ただの妬みで言うのはやめて下さい!」
「ちょっと奈々子」

桃子がおろおろする。

「なんだと」

男性社員も立ち上がって私を睨む。
社食中の社員たちの視線を感じる。

「雨宮課長のスキャンダルに巻き込まれて、みんな迷惑してるんだよ。あんたもさっき言ってたじゃないか、電話が鳴りっぱなしで通常業務にならなくて迷惑だって」

立ち上がった男性社員に言われた。
私の話を聞いていたんだ。

「あんた雨宮課長が好きなんだろ? だから肩を持つんだろ?」

からかうように男性社員が言った。
図星を言われて胸が苦しい。でも、負けない。

「あなたの言葉は雨宮課長に失礼です! 独身なんだから誰とつき合ったっていいじゃないですか」

男性社員がバカにしたような笑みを浮かべる。

「可愛いね。必死になって雨宮課長の事庇ってさ」

ムカッ。殴ってやる!
手を振り上げようとした時、男性社員の前に雨宮課長が立った。

「何ですか」

男性社員が驚いたように自分より背の高い雨宮課長を見上げながら言った。

「僕の事で迷惑をかけて、申し訳ない」

雨宮課長が深々と頭を下げた。男性社員はギョッとしたような表情を浮かべた。

「い、いえ」
 
気まずくなったのか、逃げるように男性社員が立ち去る。
ゆっくりと頭を上げると今度は私の方にも雨宮課長は頭を下げた。

「中島さんにも迷惑をかけて申し訳ない」
「い、いえ、そんな」

社員たちが雨宮課長を見ていた。

「社員の皆様にも私の事でご迷惑をおかけして申し訳ありません」

大勢に向かって雨宮課長が深く頭を下げる。

みんな驚いたように雨宮課長を見ていた。
ゆっくりと頭を上げると、雨宮課長はそのまま社食を出て行った。その後ろ姿が悲しそうに見える。

こんな事になってしまったのは、私が男性社員に噛みついたから。
みんなの前で雨宮課長に頭を下げさせてしまった。

私のせいだ。
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