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番外編
《14》
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夕食後、雨宮課長が大きな洗面化粧台で、私の髪を洗ってくれた。ありがたかったけど、雨宮課長と至近距離で関わることになり、どうしたらいいかわからなかった。美容室で髪を洗ってもらうよりも緊張して気づくと呼吸を止めていた。
「奈々ちゃん、息止まってる」と何度も雨宮課長に注意されて恥ずかしかった。
髪を洗ってもらった後は一人でお風呂に入り、怪我の処置はその後にしてもらった。
雨宮課長は手際よく傷口を消毒して、軟膏を塗り、その上にガーゼを貼ってくれた。最後はガーゼがずれないように白いネットも被せてくれた。私は一連の処置をリビングのソファに座って受けていた。
髪を洗ってくれた時と同じくらい緊張して、ずっと黙っていたら「奈々ちゃん、大人しいね」って雨宮課長に笑われた。恥ずかしくて堪らなかった。まだ雨宮課長との距離感がよくわからない。一緒にいて苦痛ではないけど、落ち着かない。
「じゃあ、風呂入ってくる」
そう言って、雨宮課長はリビングを出て行き、一人になりやっと息を抜けた。
この後は寝るだけだけど、雨宮課長はどこで寝るのだろう? そう思った時、寝室のダブルベッドが浮かんだ。あのベッドで雨宮課長と一緒に寝るのかもしれないと思ったら、鼓動が速くなる。
私の部屋も見せてもらったが、ベッドは置いてなかったし、布団も見当たらなかった。
やっぱり雨宮課長と同じベッドで寝るしかないんだろうか……。
そわそわしながらテレビを観ていたら、お風呂上りの雨宮課長がやって来て、私の隣に座った。
トレーナー生地のグレーの上下に紺色のカーディガンを羽織った姿が、家っぽい感じがしてドキドキする。漂ってくるシトラス系のボディソープとシャンプーの香りは私がつけているのと同じ。雨宮課長と私は同じ香りを纏う仲なんだと思ったら、さらに心拍数が上がった。
夜はいつも私たちはどんな風に過ごして来たんだろう。
一緒に暮らしているって事はエッチもしていた訳で……。
「奈々ちゃん」
「ひゃっ!」
肩をびくっとさせて、雨宮課長を見ると、眼鏡越しの瞳が丸くなった。
「あ、すみません。びっくりして」
あははと笑うと、雨宮課長が「取って食いはしないから安心して」と笑った。
私の心配を見抜かれている。
「病院でも言ったけど、奈々ちゃんが俺を好きになってくれるまでは手は出さないよ。それで、まあ、夜の事だけど」
雨宮課長が人差し指で自分の頬をかきながら、こちらに視線を向ける。
いい加減に聞いてはいけない気がして、ソファの上で背筋を伸ばした。
「俺は書斎で寝るから。奈々ちゃんは寝室のベッドを使って」
「いいんですか?」
「うん。俺は寝袋があるから」
「えっ、寝袋だなんて悪いです。私が寝袋でも構いませんけど」
「奈々ちゃんは怪我人だからダメ。それに慣れているから大丈夫。結構温かいし、よく眠れるんだ。余計な心配はしないで、いいね?」
申し訳ないけど、一緒に寝るとは言えないし……。
「……はい」
頷くと雨宮課長が納得したように微笑んだ。
すぐに寝るのも何だか悪い気がして、雨宮課長とニュース番組を30分見てからソファから立ち上がった。
「あの、おやすみなさい」
「おやすみ」
テレビ画面から私に視線を向けた雨宮課長の表情がすごく優しかった。
会社で見るのとは違う表情だ。思い返してみれば、病院で会ってからずっとそんな表情を私に向けている気がする。雨宮課長にとって今の私は会社の人以上の存在なんだって改めて感じた。だから、思い出せないことがやっぱり申し訳ない。
リビングを出て寝室に入り、広いベッドに横になった途端、寂しさが襲ってくる。
急に胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような気持ちになり、じわっと目の際に涙が浮かんだ。コントロールできない感情に戸惑う。
私、どうしちゃったの?
ティッシュで涙を拭いながらなんとか気持ちを落ち着かせようとするが涙が止まらない。なんだか私の中にもう一人私がいるみたいだった。
「奈々ちゃん、息止まってる」と何度も雨宮課長に注意されて恥ずかしかった。
髪を洗ってもらった後は一人でお風呂に入り、怪我の処置はその後にしてもらった。
雨宮課長は手際よく傷口を消毒して、軟膏を塗り、その上にガーゼを貼ってくれた。最後はガーゼがずれないように白いネットも被せてくれた。私は一連の処置をリビングのソファに座って受けていた。
髪を洗ってくれた時と同じくらい緊張して、ずっと黙っていたら「奈々ちゃん、大人しいね」って雨宮課長に笑われた。恥ずかしくて堪らなかった。まだ雨宮課長との距離感がよくわからない。一緒にいて苦痛ではないけど、落ち着かない。
「じゃあ、風呂入ってくる」
そう言って、雨宮課長はリビングを出て行き、一人になりやっと息を抜けた。
この後は寝るだけだけど、雨宮課長はどこで寝るのだろう? そう思った時、寝室のダブルベッドが浮かんだ。あのベッドで雨宮課長と一緒に寝るのかもしれないと思ったら、鼓動が速くなる。
私の部屋も見せてもらったが、ベッドは置いてなかったし、布団も見当たらなかった。
やっぱり雨宮課長と同じベッドで寝るしかないんだろうか……。
そわそわしながらテレビを観ていたら、お風呂上りの雨宮課長がやって来て、私の隣に座った。
トレーナー生地のグレーの上下に紺色のカーディガンを羽織った姿が、家っぽい感じがしてドキドキする。漂ってくるシトラス系のボディソープとシャンプーの香りは私がつけているのと同じ。雨宮課長と私は同じ香りを纏う仲なんだと思ったら、さらに心拍数が上がった。
夜はいつも私たちはどんな風に過ごして来たんだろう。
一緒に暮らしているって事はエッチもしていた訳で……。
「奈々ちゃん」
「ひゃっ!」
肩をびくっとさせて、雨宮課長を見ると、眼鏡越しの瞳が丸くなった。
「あ、すみません。びっくりして」
あははと笑うと、雨宮課長が「取って食いはしないから安心して」と笑った。
私の心配を見抜かれている。
「病院でも言ったけど、奈々ちゃんが俺を好きになってくれるまでは手は出さないよ。それで、まあ、夜の事だけど」
雨宮課長が人差し指で自分の頬をかきながら、こちらに視線を向ける。
いい加減に聞いてはいけない気がして、ソファの上で背筋を伸ばした。
「俺は書斎で寝るから。奈々ちゃんは寝室のベッドを使って」
「いいんですか?」
「うん。俺は寝袋があるから」
「えっ、寝袋だなんて悪いです。私が寝袋でも構いませんけど」
「奈々ちゃんは怪我人だからダメ。それに慣れているから大丈夫。結構温かいし、よく眠れるんだ。余計な心配はしないで、いいね?」
申し訳ないけど、一緒に寝るとは言えないし……。
「……はい」
頷くと雨宮課長が納得したように微笑んだ。
すぐに寝るのも何だか悪い気がして、雨宮課長とニュース番組を30分見てからソファから立ち上がった。
「あの、おやすみなさい」
「おやすみ」
テレビ画面から私に視線を向けた雨宮課長の表情がすごく優しかった。
会社で見るのとは違う表情だ。思い返してみれば、病院で会ってからずっとそんな表情を私に向けている気がする。雨宮課長にとって今の私は会社の人以上の存在なんだって改めて感じた。だから、思い出せないことがやっぱり申し訳ない。
リビングを出て寝室に入り、広いベッドに横になった途端、寂しさが襲ってくる。
急に胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような気持ちになり、じわっと目の際に涙が浮かんだ。コントロールできない感情に戸惑う。
私、どうしちゃったの?
ティッシュで涙を拭いながらなんとか気持ちを落ち着かせようとするが涙が止まらない。なんだか私の中にもう一人私がいるみたいだった。
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